商品の使い方を手元の映像だけで見せるアカウント、日常の悩みをイラスト漫画で描くアカウント、声だけで語りかけるアカウントなど、顔や本名を出さずに多くのフォロワーを集めるインフルエンサーが増えています。企業から見ると、商品に視線が集まりやすく世界観を保ちやすい一方で、相手の身元が見えにくく、契約や支払い、トラブル対応をどう進めればよいか迷う場面も少なくありません。この記事では、顔出しなし匿名インフルエンサーの特性を発信スタイル別に整理したうえで、相性のよい商材、本人確認の手順、契約で押さえる条項、PR表記や薬機法などの表現上の注意点までを、起用の実務の順番で解説します。

この記事の要点

  • 顔出しなし匿名インフルエンサーとは、顔や本名を公開せず、手元・イラスト・声・アバター・物撮りなどで発信を続けているインフルエンサーのことです。
  • 商品そのものや使い方を見せる表現に強く、文房具・料理・家電・ガジェット・ハンドメイド・アプリなど「手元で伝わる商材」と相性がよいです。
  • 一方で、身元が見えにくいぶん、アカウントの実在性と運用者本人の確認、契約名義、支払い・税務処理の段取りを企業側で先に整える必要があります。
  • 契約では、活動名と実名のひも付け、身元情報の秘匿、アカウント譲渡や運用者交代時の扱い、イラストや声の二次利用範囲を明記します。
  • ステマ規制の#PR表記や薬機法などの表現ルールは、顔出しの有無に関係なく同じように適用されます。

顔出しなし匿名インフルエンサーの基本

顔出しなし匿名インフルエンサーとは、顔や本名を公開しないまま、手元の映像、イラストや漫画、声、アバター、商品写真などを使ってフォロワーを集めているインフルエンサーのことです。InstagramやTikTok、YouTube、Xのいずれにも一定数存在し、企業のPR案件を受けているアカウントも珍しくありません。起用を検討する企業にとっては、表現の特性と、身元が見えにくいことによる管理上の論点の両方を理解しておくことが出発点になります。

「匿名」と「顔出しなし」の違い

匿名と顔出しなしは、似ているようで意味が異なります。顔出しなしは「顔を映さない」という表現上の選択であり、本名や所属を公開しているケースもあります。匿名は「本名や素性を公開しない」という身元の扱いを指し、顔を出していても本名を伏せている人は匿名に含まれます。本記事では、顔も本名も公開していないアカウントを中心に扱い、企業が起用時に気をつけるべき点を整理します。

この区別は、契約や本人確認の段取りを考えるうえで重要です。顔は出さないが本名は公開している人であれば、取引上の確認は通常のインフルエンサーとほぼ変わりません。顔も本名も伏せている人の場合は、企業側だけが実名を把握し、外部には公開しないという前提で手続きを設計する必要があります。

増えている背景

顔出しなしのアカウントが増えている背景には、身バレや誹謗中傷を避けたいという発信者側の事情があります。会社員の副業として発信している人、子育て中で家族の情報を守りたい人、住んでいる地域を特定されたくない人にとって、顔を出さない発信は続けやすい選択です。加えて、ショート動画の普及で、手元だけの作業動画や物撮りのレビュー動画でも十分に再生される環境が整ったことも後押しになっています。

企業側から見ると、こうしたアカウントは「顔ではなく内容でフォローされている」ことが多く、商品の見せ方や情報の正確さで信頼を得ている点が特徴です。VTuberのようにキャラクターで活動する形態も広い意味では顔出しなしに含まれますが、権利処理の論点が多いため、詳しくはVTuberをマーケティングに起用する方法と企業事例の解説で扱っています。

企業が起用を検討する場面

企業が顔出しなしのインフルエンサーを検討するのは、主に3つの場面です。1つ目は、商品の使い方や手順を丁寧に見せたいとき、2つ目は、特定の趣味や専門分野で濃いフォロワーを持つアカウントに届けたいとき、3つ目は、人物の印象よりも商品の世界観を前面に出したいときです。いずれの場面でも、顔出しの有無ではなく、フォロワーの属性と商材の相性で判断することが基本になります。

主な発信スタイルと特徴の比較

顔出しなしのインフルエンサーは、発信スタイルによって得意な訴求と注意点が大きく異なります。同じ「顔出しなし」でも、手元動画のアカウントとイラスト漫画のアカウントでは、制作期間も権利の扱いも別物です。起用前に、候補がどのスタイルに当てはまるかを分類しておくと、依頼内容と契約条件を決めやすくなります。

スタイル別の比較表

代表的な6つの発信スタイルを、強み・相性のよい商材・起用時の注意点で整理しました。内容は2026年10月時点で本メディア編集部が実務上の目安としてまとめたもので、個々のアカウントによって当てはまらない場合があります。

発信スタイル主な強み相性のよい商材起用時の注意点
手元動画・手元写真使い方や質感を具体的に見せられます文房具、料理・食品、コスメのテクスチャー、ハンドメイド用品手や部屋の写り込みで身元が推測されないよう配慮が必要です
物撮り・レビュー商品の細部やスペックを比較しながら伝えられます家電、ガジェット、インテリア雑貨、アウトドア用品撮影機材や照明で印象が変わるため、事前に過去投稿の質を確認します
イラスト・漫画体験や悩みを物語として伝えられ、共感を得やすいですアプリ、サービス、子育て用品、金融・保険などの無形商材制作期間が長く、著作権と二次利用の範囲を契約で決める必要があります
声のみ・ナレーション語り口や人柄で信頼を積み上げられます書籍、学習サービス、音声メディア、日用品音声内でのPR表記の扱いと、声の二次利用の可否を決めます
アバター・VTuberキャラクターの世界観と熱量の高いファンを持ちますゲーム、エンタメ、ガジェット、食品のコラボ商品運営会社や権利者が別にいる場合があり、契約相手の特定が重要です
テキスト・図解中心情報の正確さと専門性で支持されますBtoBサービス、金融、資格・学習、ITツール専門家を名乗る場合は、資格や経歴の確認が必要です

同じスタイル内でも差が出るポイント

同じ発信スタイルの中でも、フォロワーとの関係性には差があります。コメント欄で発信者とフォロワーが会話している、質問への回答投稿がある、ライブ配信で声を出しているといったアカウントは、顔を出していなくても発信者の人柄が伝わっており、PR投稿への反応も得やすい傾向があります。反対に、画像を淡々と並べるだけのアカウントは、フォロワー数に比べて反応が薄いことがあります。

見るべきは、フォロワー数よりもコメントの中身です。商品について具体的な質問が来ているか、過去のおすすめで購入したという声があるかを確認すると、そのアカウントがどれだけ信頼されているかが見えてきます。コメントの読み方はインフルエンサーのコメント欄で購買意欲と質を見極める方法も参考になります。

複数スタイルを組み合わせる考え方

複数のスタイルを組み合わせると、一つの商品を異なる角度から伝えられます。たとえば、手元動画で使い方を見せ、イラスト漫画で使う前の悩みと使った後の変化を描き、顔出しのインフルエンサーで使用感を語ってもらうという構成です。顔出しなしのアカウントを「顔出しの代わり」ではなく「別の役割を担う発信者」として位置づけると、起用の意図が社内でも説明しやすくなります。

起用するメリット

顔出しなしのインフルエンサーを起用する最大のメリットは、商品そのものに視線が集まることです。人物の顔や表情が映らない分、見る人の関心は手元の商品や使い方、ストーリーに向かいます。ほかにも、炎上リスクの性質や、ブランドの世界観との合わせやすさといった点で、顔出しのインフルエンサーとは異なる利点があります。

商品と使い方に視線が集まる

手元動画や物撮りの投稿では、画面の大部分を商品が占めます。文房具の書き心地、調理器具の使い勝手、ガジェットの操作感といった、言葉だけでは伝えにくい要素を映像で具体的に見せられます。見る人は「自分が使ったらどうなるか」を想像しやすく、購入前の疑問がその場で解消されやすくなります。

特に、手順や工程がある商品とは相性がよいです。料理のレシピ、ハンドメイドの作り方、家電の設定手順などは、手元の映像で一つずつ見せることで理解が進みます。人物が話す映像よりも情報密度が高くなるため、保存やシェアにつながりやすい点も特徴です。

人物の印象に左右されにくい

顔出しのインフルエンサーを起用すると、投稿の評価がその人の外見や好感度に引っ張られることがあります。顔出しなしのアカウントでは、人物の印象よりも内容で判断されやすく、ブランドの世界観やトーンを保ちやすくなります。広告色を抑えて、商品の良さを素直に伝えたい場合に向いています。

また、発信者のプライベートが表に出にくいため、私生活に関する話題が原因で投稿が炎上するリスクは比較的小さいと考えられます。ただし、発言内容や過去の投稿が原因の炎上は顔出しの有無に関係なく起こるため、事前の投稿チェックは欠かせません。

専門性の高いニッチ層に届く

顔出しなしのアカウントには、特定の趣味や専門分野に深く入り込んだ発信者が多くいます。万年筆、自作キーボード、盆栽、資格試験の勉強法など、テーマを絞り込んだアカウントは、フォロワー数が少なくても購買意欲の高い層を抱えています。こうした層に届けたい商材では、フォロワー規模の大きい顔出しインフルエンサーよりも効率がよい場合があります。

起用前に知っておきたいデメリットとリスク

顔出しなしのインフルエンサーには、信頼の伝わり方と身元確認の2つの面で弱点があります。表現上の弱点は企画で補えますが、身元が見えにくいことによるリスクは、企業側が手続きで管理しなければ解消されません。起用を決める前に、どのリスクが自社の案件で問題になるかを確認しておきます。

表情や体験の生々しさが伝わりにくい

顔が映らない投稿では、使ったときの驚きや満足感を表情で伝えることができません。コスメの仕上がりやアパレルの着こなし、食べ物を口にしたときの反応など、人物が映ってこそ伝わる情報は弱くなります。こうした商材で顔出しなしのアカウントを起用する場合は、肌や生地のアップ、声のトーン、テキストでの感想などで補う設計が必要です。

アカウントの実在性と運用者が見えにくい

身元が公開されていないため、そのアカウントを本当に1人の個人が運用しているのか、複数人や業者が運用しているのか、外からは判断しにくい点がリスクです。中にはアカウントが売買されて運用者が入れ替わっている例や、フォロワーが購入によって水増しされている例もあります。フォロワーの健全性の確認方法はフェイクフォロワーの見分け方と選定でのチェック手順で整理しています。

また、人気のある顔出しなしアカウントを装った偽物が現れることもあります。アイコンや投稿画像をそのまま流用されると、見た目だけでは本物と区別がつきません。オファーの連絡先を誤ると、偽アカウントと取引してしまうおそれがあります。なりすましへの備えはインフルエンサーなりすまし被害の防ぎ方と企業の初動対応を参考にしてください。

トラブル時の連絡と責任の所在

投稿後にトラブルが起きたとき、連絡先がSNSのDMだけだと、返信が途絶えた時点で対応できなくなります。実名や住所、電話番号を把握していないまま報酬を支払うと、投稿の削除や修正を求めることも、損害が出た場合に責任を問うことも難しくなります。匿名で活動していること自体は問題ではありませんが、企業との取引では実名での契約を前提にすることが原則です。

起用前に必ず避けたい状態

  • 連絡手段がSNSのDMだけで、メールアドレスや電話番号を把握していない。
  • 契約書を交わさず、活動名だけで発注と支払いを済ませている。
  • アカウントの運用者が本人1人なのか、チームや代理人なのかを確認していない。
  • 過去にアカウント名やジャンルが大きく変わった履歴を調べていない。
  • 未成年かどうかを確認しないまま、年齢制限のある商材を依頼している。

相性のよい商材とジャンル

顔出しなしのインフルエンサーと相性がよいのは、手元や画面で価値が伝わる商材です。逆に、人物の外見や表情が購買判断に直結する商材では、顔出しのインフルエンサーと組み合わせる設計が向いています。自社商材がどちらに近いかを見極めることが、起用の成否を分けます。

相性のよい商材

手元や画面で魅力が伝わる商材は、顔出しなしの発信と特に相性がよいです。代表的な例を、伝えやすい要素とあわせて整理しました。

商材カテゴリ伝えやすい要素向いている発信スタイル
文房具・手帳書き心地、色の発色、収納の工夫手元動画、手元写真
料理・食品・調理器具調理工程、仕上がり、時短の度合い手元動画、物撮り
家電・ガジェット操作感、設定手順、スペックの比較物撮り・レビュー、テキスト図解
ハンドメイド・手芸用品作業工程、完成品の質感手元動画
アプリ・ウェブサービス画面操作、導入前後の変化画面収録、イラスト漫画
子育て・暮らしの用品悩みと解決のストーリーイラスト漫画、手元写真

家電やガジェットのレビュー依頼の進め方は家電・ガジェットのインフルエンサーレビュー依頼と施策設計で詳しく解説しています。

工夫が必要な商材

コスメのベースメイク、アパレル、ヘアケア、ダイエット関連など、人物の見た目の変化が訴求の中心になる商材は、顔出しなしだけでは伝わりにくいです。ただし、手の甲でのスウォッチ、首から下の着用写真、髪の毛先のアップなど、顔を映さずに見せられる要素もあります。顔出しのインフルエンサーと役割を分け、顔出しなしのアカウントには質感や使い方の解説を任せると、両方の強みを生かせます。

イラスト漫画と無形商材の相性

イラスト漫画のアカウントは、形のない商材を伝えるのに向いています。アプリ、保険、通信サービス、家事代行など、使う前の悩みと使った後の変化を物語で描くことで、見る人が自分の状況に重ねやすくなります。人物の写真では表現しにくい心の動きを描ける点が、漫画ならではの強みです。一方で、制作に2〜4週間程度かかることが多く、修正の回数や範囲も事前に決めておく必要があります。

本人確認とアカウント実態の確認手順

顔出しなしのインフルエンサーを起用するときは、アカウントの実在性、運用者本人の確認、取引に必要な実名情報の取得を、この順番で進めます。顔が見えない分、確認を省略すると、偽アカウントとの取引や支払い後の音信不通といったトラブルにつながります。確認の内容は社内で手順化し、担当者によって抜け漏れが出ないようにしておきます。

アカウントの所有と実態を確かめる

最初に、連絡を取っている相手がそのアカウントの運用者本人であることを確かめます。オファーはアカウントのプロフィールに記載された公式の連絡先か、アカウント本体からのDMで受け取り、別アカウントやメールだけでのやり取りで話を進めないようにします。あわせて、インサイト画面を画面録画で提出してもらうと、静止画の加工を防ぎながらフォロワー属性やリーチを確認できます。

次に、アカウントの履歴を確認します。投稿の初期から現在までジャンルやトーンが一貫しているか、アカウント名が途中で大きく変わっていないか、フォロワー数が短期間で急増していないかを見ます。不自然な変化がある場合は、アカウントの売買や運用者の交代が起きている可能性があるため、本人に経緯を確認します。

実名と連絡先を企業側だけが把握する

取引を進める段階では、実名、住所、電話番号、メールアドレス、振込先口座を提出してもらいます。振込先の口座名義と契約者の実名が一致しているかは、必ず照合してください。個人事業主として活動している場合は屋号、法人化している場合は法人名と登記上の所在地も確認します。

これらの情報は、顔出しなしで活動する人にとって最も守りたい情報です。取得の目的、閲覧できる社内の担当者、保管方法と保管期間をあらかじめ説明し、必要最小限の範囲で取り扱うことを伝えると、提出への心理的な抵抗が下がります。個人情報の取り扱いは個人情報保護法に沿って管理し、案件の担当者以外が閲覧できない場所に保管します。

年齢と代理人の有無を確認する

顔が見えないアカウントでは、発信者の年齢を外見から推測できません。年齢確認を省略すると、未成年と知らずにお酒や金融商品などの案件を依頼してしまうおそれがあります。生年月日の申告を受け、年齢制限のある商材では身分証で確認するのが安全です。未成年者を起用する場合の手続きは未成年インフルエンサー起用の保護者同意と実務の注意点で整理しています。

あわせて、事務所やマネージャー、運営会社などの代理人がいるかを確認します。代理人がいる場合は、契約の相手方が誰になるのか、報酬の支払い先がどこになるのかを明確にします。VTuberやキャラクターアカウントでは、演者と権利者が別であることが多いため、特に注意が必要です。

本人確認のチェックリスト

  • 連絡はアカウント本体のDMまたはプロフィール記載の公式連絡先から受けましたか。
  • インサイトを画面録画で提出してもらい、リーチとフォロワー属性を確認しましたか。
  • アカウント名やジャンルの変遷、フォロワー数の急増がないかを確認しましたか。
  • 実名・住所・電話番号・振込先を取得し、口座名義と実名が一致していましたか。
  • 年齢と、代理人や運営会社の有無を確認しましたか。
  • 取得した個人情報の閲覧者と保管期間を社内で決めましたか。

起用前の調査全体の流れはインフルエンサー起用前のリスクチェックと事前調査の手順とあわせて確認すると、匿名アカウント特有の確認項目と共通の確認項目を整理しやすくなります。

契約で押さえる条項と匿名性の扱い

顔出しなしのインフルエンサーとの契約では、実名で契約を結びつつ、活動名とのひも付けと身元情報の秘匿を条項で明確にすることが基本です。通常のインフルエンサー契約の項目に加えて、匿名性を守るための条項と、アカウントの譲渡や運用者交代への備えを盛り込みます。契約書全体の構成はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目を参考にしてください。

実名と活動名のひも付け

契約書の当事者欄は実名で記載し、別紙や条項で「本契約の対象となるアカウント」として活動名とアカウントURLを明記します。こうしておくと、契約の相手方を法的に特定しながら、対外的には活動名だけを使うことができます。対象アカウントを明記していないと、別アカウントでの投稿や、アカウントを手放した後の扱いで解釈が分かれるおそれがあります。

身元情報の秘匿とアカウント譲渡の扱い

企業が取得した実名や住所などを第三者に開示しないこと、社内でも案件担当者以外に共有しないことを、秘密保持条項として明記します。発信者にとっては、この条項があることが安心して取引に応じる理由になります。反対に、発信者側にも、案件の未公開情報や担当者の個人情報を漏らさない義務を課します。

あわせて、契約期間中にアカウントを第三者へ譲渡したり、運用者を交代したりする場合の扱いを決めておきます。事前の通知義務を設け、運用者が変わった場合は企業側が契約を解除できるようにしておくのが一般的です。なお、多くのSNSは利用規約でアカウントの売買を禁止しているため、譲渡歴のあるアカウントは起用を見送る判断も必要です。

イラスト・声・キャラクターの権利

イラストや漫画、声、キャラクターを使った投稿では、権利の扱いが通常の写真や動画よりも複雑になります。企業の広告やウェブサイトで二次利用する場合は、利用できる媒体、期間、改変の可否、クレジット表記の方法を契約で決めます。著作者人格権の不行使や、キャラクターデザインの権利が誰にあるのかも確認が必要です。権利処理の基本はインフルエンサー投稿の肖像権・著作権対応と二次利用の範囲で解説しています。

報酬の支払いと税務処理

報酬の支払いでは、源泉徴収の要否とインボイスの扱いを確認します。個人に支払う報酬は、内容によって源泉徴収の対象となる場合があります。また、適格請求書発行事業者の登録番号は国税庁の公表サイトで検索でき、個人事業者の場合は原則として氏名が公表されます。匿名で活動している発信者の中には、身元が知られることを避けて登録していない人もいるため、インボイスの有無を事前に確認し、仕入税額控除への影響を把握しておきます。詳しくはインフルエンサー報酬の源泉徴収とインボイス対応の実務を参照してください。

個人の発信者と取引する場合は、2024年11月1日に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス法)の対象となることがあります。業務内容、報酬額、支払期日などの取引条件を書面やメールで明示する義務があるため、匿名の発信者との取引でも、条件の明示を省略しないようにします。

契約項目顔出しありの一般的な契約顔出しなし匿名の場合に追加・強化する点
当事者実名または事務所名で記載します実名で記載し、対象アカウントと活動名を別紙で特定します
秘密保持案件情報の守秘が中心です企業が取得した身元情報の非開示と社内の閲覧制限を加えます
アカウントの扱い特に定めない場合が多いです譲渡・運用者交代の通知義務と解除条件を定めます
権利・二次利用写真や動画の利用範囲を定めますイラスト・声・キャラクターの権利帰属と改変可否を加えます
支払い・税務請求書と振込先を確認します口座名義と実名の一致、インボイス登録の有無を確認します

表現と表記で注意すべきポイント

ステマ規制や薬機法などの表現ルールは、顔出しの有無に関係なく同じように適用されます。顔が映らない投稿だからといって広告であることの表示を省略してよいわけではなく、むしろイラストや音声ではPR表記が見落とされやすいため、表示の位置と方法を具体的に決めておく必要があります。

PR表記はスタイルごとに位置を決める

2023年10月1日から、景品表示法に基づくいわゆるステマ規制が施行され、事業者の表示であるにもかかわらず一般消費者が判別しにくいものは不当表示として規制の対象になりました。インフルエンサーの投稿でも、企業から依頼を受けた投稿であることを、見る人がすぐにわかる形で示す必要があります。表示方法の基本はステマ規制とは?景表法対応と#PR表記の実務ガイドで解説しています。

顔出しなしの投稿では、スタイルごとに表記の位置を決めておきます。イラスト漫画では1枚目の画像内とキャプション冒頭の両方に、手元動画では動画の冒頭テロップとキャプションに、音声のみのコンテンツでは冒頭で「企業から依頼を受けた紹介です」と読み上げたうえで概要欄にも記載するといった形です。漫画の最後のコマだけにPRと書く方法は、最後まで見ない人には伝わらないため避けます。

体験談と効果表現の扱い

化粧品、健康食品、医薬部外品などを扱う場合は、薬機法の表現ルールに沿う必要があります。イラスト漫画は「使ったらこう変わった」という変化を描きやすい一方で、効能効果を誇張した表現になりやすい点に注意が必要です。ビフォーアフターの描写や、病気が治ったかのような表現は、絵であっても規制の対象になります。商材区分ごとの線引きは薬機法とインフルエンサー起用の基本と商材別NG表現・確認フローで確認してください。

また、手元動画や物撮りでは、画像の加工によって実際とは異なる見え方になることがあります。色味の補正や質感を強調する加工が、商品の実際の性能や仕上がりと異なる印象を与えると、優良誤認と受け取られるおそれがあります。加工の範囲は事前に取り決めておくと安心です。

身元が推測される写り込みへの配慮

匿名の発信者を起用するときは、企業側の依頼が原因で身元が推測されないよう配慮することも大切です。たとえば、店舗への来店を伴う案件や、地域限定の商品を扱う案件では、投稿内容から住んでいる地域が推測される場合があります。窓の外の景色、郵便物、制服や名札など、撮影時に写り込みやすいものについて、発信者と事前に確認しておくとトラブルを防げます。

表現面で起きやすい失敗

  • 漫画の最後のコマにだけPRと記載し、冒頭では広告とわからない。
  • 音声のみのコンテンツで、概要欄にしかPR表記がない。
  • イラストで肌や体型の変化を誇張して描き、効能効果をうたっている。
  • 来店案件で店舗名と投稿日時が重なり、発信者の生活圏が推測できてしまう。

依頼から効果検証までの進め方

顔出しなしのインフルエンサーへの依頼は、候補選定、本人確認、条件提示、制作、投稿確認、効果検証の6段階で進めます。基本の流れは通常のインフルエンサー施策と同じですが、本人確認と制作期間の見積もりに時間を多めに取っておくことが成功のポイントです。

オファーと条件提示

オファーの文面では、なぜそのアカウントに依頼したいのかを具体的に伝えます。顔出しなしの発信者は、自分のスタイルを尊重してくれる企業かどうかを重視する傾向があるため、「顔を出さずに手元の映像でご紹介いただきたい」「漫画の表現はお任せしたい」など、スタイルを理解していることを示すと前向きに検討してもらいやすくなります。あわせて、実名情報の提出が必要であることと、その取り扱い方法をオファーの段階で伝えておくと、後から辞退されるリスクを減らせます。

制作スケジュールと投稿確認

手元動画や物撮りは1〜2週間程度、イラスト漫画は2〜4週間程度を制作期間の目安として、スケジュールを組みます。これらは2026年10月時点で本メディア編集部が実務上の目安としている期間であり、作家や作品の分量によって変わります。漫画の場合は、ネーム(構成案)の段階で一度確認する工程を入れると、完成後の大幅な修正を避けられます。投稿前の確認では、PR表記の位置、薬機法などの表現、身元が推測される写り込みの有無をチェックリストに沿って確認します。

効果検証の指標

効果検証では、通常の投稿と同じくリーチ、エンゲージメント、クリック、売上を見ますが、顔出しなしのアカウントでは保存数とシェア数に特に注目します。手元動画や図解は「あとで見返したい」と保存されやすく、保存数が多い投稿は購入の検討材料として使われている可能性が高いためです。クーポンコードやUTMパラメータで購買までを計測し、顔出しのインフルエンサーと比べてどの段階で強みがあったのかを記録しておくと、次回の起用判断に生かせます。

段階主な作業顔出しなし特有の確認事項
1. 候補選定商材との相性とフォロワー属性を確認します発信スタイルの分類、コメント欄での対話の有無
2. 本人確認アカウント所有とインサイトを確認します画面録画での提出、アカウント名の変遷、代理人の有無
3. 条件提示・契約報酬、納期、権利、表記を決めます実名契約と活動名のひも付け、身元情報の秘匿条項
4. 制作構成案と制作物を確認します漫画のネーム確認、写り込みの事前確認
5. 投稿確認PR表記と表現をチェックしますスタイルごとのPR表記位置、加工の範囲
6. 効果検証リーチから売上までを計測します保存数・シェア数の比較、顔出し起用との役割比較

Bloomで顔出しなしの候補を探す方法

Bloomには審査制のインフルエンサー30,000人が登録しており、手元動画や物撮り、イラストなど、さまざまな発信スタイルの候補を比べながら選定できます。登録時の審査を通過したインフルエンサーの中から選べるため、アカウントの実態を一から調べる手間を減らしたうえで、企業側では案件ごとの本人確認と契約の確認に集中できます。顔出しのインフルエンサーと組み合わせた施策も、同じ画面で候補を比較しながら設計できます。

顔出しなしのインフルエンサーは、商品の使い方や世界観を丁寧に伝えたい企業にとって、心強い発信パートナーになります。身元が見えにくいことによるリスクは、本人確認と契約の手順を整えることで管理できます。自社の商材と相性のよい発信スタイルを見極め、顔出しのインフルエンサーとは異なる役割を担ってもらうことで、施策全体の厚みを増すことができます。

本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム『Bloom』(株式会社ハーマンドット)が運営しています。