起用してよい相手かどうかは、評価軸で点数をつける前に、調べて確かめるべきことがあります。過去の投稿に炎上の履歴はないか、削除された投稿に何が書かれていたか、反社会的勢力との関係を疑わせる情報はないか、報酬の支払先として実在する個人または法人か。これらは好みや相性の問題ではなく、事実の確認です。この記事では、インフルエンサーを起用する前に行うリスク調査、いわゆるデューデリジェンスの手順を、調べる順番・調べる場所・残す証跡という3つの切り口から実務としてまとめました。案件金額に応じてどこまで踏み込むかの基準と、そのまま稟議に添付できる記録フォーマットまで扱います。

この記事の要点

  • 起用前のデューデリジェンスとは、候補者について事実関係を調べ、契約してよい相手かどうかを判断するための調査手続きです。合うか合わないかを評価軸で採点する適合性判定とは、目的も成果物も別の工程になります。
  • 調査領域は6つです。炎上・削除履歴、反社会的勢力との関係、支払先としての実体、権利関係と過去の表示違反、フォロワーの質、他社案件との競合関係を、この順番で機械的に埋めていきます。
  • 調査の深さは案件金額と露出の大きさ、商材の規制の強さで決めてください。数万円のギフティングと、年間契約のアンバサダー起用に同じ工数をかける必要はありません。
  • 反社会的勢力チェックは、相手が個人であっても省略しないでください。2007年6月の政府指針と各都道府県の暴力団排除条例が根拠となり、企業側に確認の努力が求められる領域です。
  • 調査は結論だけでなく、いつ・どこを・誰が見たかまで残してください。稟議と監査に耐えるのは判定結果ではなく、調査の過程を示す証跡のほうです。

インフルエンサー起用前のデューデリジェンスとは

インフルエンサー起用前のデューデリジェンスとは、起用候補について事実関係を調べ、契約してよい相手かどうかを判断するための調査手続きです。企業買収の場面で使われる言葉ですが、やっていることは同じで、相手の申告や第一印象を鵜呑みにせず、外部から確認できる情報を突き合わせて隠れた負債がないかを確かめる作業を指します。インフルエンサー起用の場合、隠れた負債にあたるのは過去の炎上、反社会的勢力とのつながり、他社との契約による拘束、権利侵害の履歴、そして支払先としての実体がないことです。

適合性の「判定」と事前調査の「確認」は別の工程です

混同されやすいのですが、ブランドとの相性を軸で採点する作業と、事実を調べる作業は別物です。前者は「この人は自社に合うか」という評価であり、担当者の判断が入ります。後者は「この人と契約して問題が起きないか」という確認であり、判断ではなく事実の有無を見ます。軸による適合性の判定手順はインフルエンサーのブランド適合性を5軸で判定するチェック手順にまとめていますので、本記事とあわせて読むと工程の全体像がつながります。

順番としては、事前調査が先で、適合性の判定が後です。理由は単純で、調査で失格になる相手を採点しても時間の無駄だからです。実務では、候補リストを作った直後の一次スクリーニングに軽い調査を入れ、最終候補に絞ってから本調査を行う二段構えが効率的です。

デューデリジェンスで扱う6つの調査領域

調査の対象は、次の6領域に整理できます。領域を固定しておくと、担当者が変わっても抜けが出ません。

調査領域確認すること主な情報源見つかったときの影響
炎上・削除履歴過去の不適切発言、削除された投稿、第三者からの批判本人SNS、Web検索、まとめ系サイト、アーカイブ起用直後に過去投稿が掘り起こされます
反社会的勢力との関係本人・関係先の不芳情報、共演・関与の報道Web検索、新聞記事データベース、専門サービス取引自体が社内規程違反となります
支払先としての実体個人・法人の実在、所属、支払口座の整合本人確認書類、登記情報、公表サイト支払不能・二重請求・税務上の不備が起きます
権利関係と表示違反無断転載、素材流用、過去のPR表記違反画像検索、過去投稿、指摘の履歴自社投稿にも権利・表示の瑕疵が波及します
フォロワーの質購入フォロワーの兆候、数値と反応の整合公開数値、インサイト、分析ツール支払った金額に見合う到達が得られません
競合関係と既存契約競合他社のPR実績、進行中の専属・独占契約タイアップ表記、本人・事務所への確認投稿が出せなくなるか、相手が契約違反になります

6領域のうち、Web上の公開情報だけで完結するのは前半の4つです。フォロワーの質と既存契約については、本人からの情報提供が欠かせません。オファーの段階でどこまで聞くかを決めておくと、往復の回数が減ります。

誰がいつ行うのかを先に決めておきます

調査の担い手を決めずに始めると、必ず誰もやらない領域が残ります。実務上は、SNS上で完結する調査はマーケティング担当が行い、反社会的勢力チェックと支払先の実体確認は法務または経理が担当する切り分けが定着しやすい形です。外部の代理店やキャスティング会社に発注する場合でも、反社チェックの結果だけは自社の基準で受け取り、自社の記録として保管してください。役割分担の考え方全般はインフルエンサー施策の体制設計と社内担当者の役割分担で整理しています。

タイミングは、オファーを送る前が理想です。ただし全候補に本調査をかけると工数が膨らみますので、オファー前に軽い調査、合意形成後で契約締結前に本調査という二段階が現実的です。契約書に押印してから問題が見つかると、断るコストが跳ね上がります。

調査の深さを案件金額とリスクで決める

調査の深さは、案件金額と露出の大きさ、そして商材の規制の強さの3つで決めます。すべての候補に同じ工数をかけるのは非効率ですし、逆にどんな案件でも最低限やめてはいけない確認があります。まず基準を作り、それに沿って機械的に深度を割り当ててください。

3段階のスクリーニング設計

実務では、ライト・スタンダード・ディープの3段階に分けると運用しやすくなります。ライトは一次スクリーニング用で、候補リスト全員に適用します。スタンダードは最終候補に対する標準の調査です。ディープは長期契約や広告二次利用を伴う起用に限って行います。

深度対象となる案件1人あたりの工数目安実施する調査担当
ライトギフティング、少額の単発PR15〜30分本人SNSの遡り、氏名・アカウント名でのWeb検索、PR表記の確認マーケ担当
スタンダード報酬を伴う単発PR、複数名の同時起用1〜2時間ライトの全項目に加え、削除履歴の追跡、反社チェック、実体確認、競合ヒアリングマーケ担当+法務
ディープアンバサダー、年間契約、広告二次利用、メガ規模の起用半日〜数日スタンダードの全項目に加え、新聞記事データベース照会、専門サービスへの依頼、関係先の確認法務主導+外部調査

工数の目安は2026年9月時点での一般的な実務感覚に基づく数値です。候補者の投稿本数や活動年数によって上下しますので、社内で数件回してから自社の実測値に置き換えてください。

深度を一段上げる引き金を決めておきます

金額が小さい案件でも、深度を上げるべき条件があります。次のいずれかに該当したら、金額にかかわらずスタンダード以上に切り替えてください。

金額が小さくても省略してはいけない確認

商品を送るだけのギフティングであっても、支払いが発生しなくても、反社会的勢力に関する確認と本人の実在確認は省略しないでください。無償提供であっても、自社の商品が反社会的勢力に渡り、その関係者が自社商品を紹介した状態になれば、利益供与と受け取られる余地が残ります。金額の大小は工数の配分を決める基準であって、やらない理由にはなりません。

外部に委託するときの受け取り方

代理店やキャスティング会社を使う場合、調査を丸ごと委託すること自体は問題ありません。ただし、委託先がどの範囲をどの方法で調べたのかは、必ず文書で受け取ってください。「弊社の基準で確認済みです」という一文だけでは、自社の稟議でも監査でも根拠になりません。確認した項目名、使用した情報源、実施日、担当者名の4点が入った報告を求めるのが最低ラインです。発注先の比較基準についてはインフルエンサー起用の発注先を比較する評価シートの作り方が参考になります。

炎上履歴と削除履歴を洗い出す手順

炎上履歴の調査は、本人アカウントの遡り、外部からの言及の検索、削除済み投稿の痕跡追跡という3方向から行います。本人のアカウントだけを見ても意味がありません。問題のある投稿ほど本人が先に消しているため、残っている投稿だけを眺めても「きれいなアカウント」にしか見えないからです。

遡る期間と対象範囲の決め方

遡る期間は、直近12か月を最低ラインにしてください。アンバサダーのように長期で名前を並べる起用では、アカウント開設時まで遡るのが安全です。理由は、掘り起こされる投稿に時効がないためです。数年前の投稿がスクリーンショットで保存され、起用発表のタイミングで拡散されるケースは繰り返し起きています。

対象はフィード投稿だけではありません。プラットフォームごとに、見落としやすい場所が決まっています。次の順番で潰していくと漏れが減ります。

  1. プロフィール欄と固定投稿を読みます。ここに過去の経歴や思想的な表明が書かれていることがあります。
  2. フィード投稿とリール、ショート動画をそれぞれ別タブで遡ります。片方だけ見て終わるのが最も多い見落としです。
  3. ハイライトを開きます。消えたはずのストーリーズが残っている唯一の場所です。
  4. コメント欄と返信を読みます。投稿本文は整っていても、返信での言い回しが荒い人がいます。
  5. 他プラットフォームのアカウントを探します。Instagramでは丁寧でも、X(旧Twitter)では発言が過激という組み合わせは珍しくありません。

検索クエリの組み立て方

外部からの言及を探すときは、思いつきで検索せず、パターンを決めて機械的に回してください。検索語は「識別子」と「否定語」の掛け合わせで作ります。識別子はアカウント名、本名、旧アカウント名、活動名です。否定語は次の表のように分類しておくと、担当者が変わっても同じ精度で回せます。

否定語の分類組み合わせる語の例拾いたい事象
炎上系炎上、批判、謝罪、釈明、起用中止過去のトラブルと、そのときの本人の対応
表示違反系ステマ、PR表記なし、広告表記、景表法表記ルールを守らない傾向の有無
権利系無断転載、パクリ、転載、盗用他人の素材を使う習慣の有無
契約トラブル系納品されない、返金、トラブル、連絡つかない進行面での信頼性
法令系逮捕、送検、書類送検、詐欺、暴力団反社チェックにも共通する重大情報

検索結果をそのまま信じないことも大切です。匿名掲示板やまとめサイトの記述には、事実確認を経ていないものが多く含まれます。ヒットした情報は「事実」と「主張」に分けて記録し、事実と確認できたものだけを判定に使ってください。主張レベルの情報は、本人に確認するための材料として扱うのが適切です。

削除済み投稿の痕跡を追う

削除された投稿を直接復元する手段は、一般の企業には基本的にありません。そのため、痕跡から推定する形になります。投稿番号や日付が不自然に飛んでいる、フォロワー数の推移に対して投稿数が極端に少ない、過去に言及されている投稿が現在は存在しないといった点が手がかりです。Web上のアーカイブサービスに残っているページを確認する方法もありますが、SNSの個別投稿は保存されていないことが多く、期待しすぎないほうが現実的です。

調査でやってはいけないこと

候補者の鍵付きアカウントに身分を偽ってフォロー申請する、知人を装って情報を聞き出す、非公開の個人情報を第三者から入手するといった手段は使わないでください。調査の目的は正当でも、手段が不適切であれば、それ自体が自社のリスクになります。調べられるのは、あくまで公開されている情報と、本人の同意を得て提供された情報の範囲までです。

反社会的勢力チェックの実務

反社会的勢力チェックは、相手が個人のインフルエンサーであっても省略できません。根拠となるのは、2007年6月に犯罪対策閣僚会議幹事会申合せとして公表された「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」と、各都道府県の暴力団排除条例です。条例は2011年10月までに全都道府県で施行されており、事業者が反社会的勢力に対して利益を供与することを禁じています。インフルエンサーへの報酬支払いも、この利益供与に該当し得る取引です。

実務で使える3つの手段

個人に対する反社チェックの手段は、実務上3つに整理できます。費用と精度が異なりますので、案件の深度に応じて組み合わせてください。

手段費用感わかること限界
Web検索(氏名・活動名×否定語)0円ネット上に残る不芳情報、風評、関与の噂同姓同名の混在、真偽の判別が難しい
新聞・雑誌記事データベース月額制の有料サービス報道された事件・逮捕歴などの信頼性の高い情報報道されていない事実は拾えない
反社チェック専門サービス従量制または月額制複数データベースの横断照合と結果の記録化費用が発生し、少額案件には過剰になる

Web検索だけで済ませる場合、同姓同名の別人の情報を誤って紐付けないよう注意してください。ヒットした記事に年齢、居住地域、職業が書かれているかを確認し、候補者の情報と整合するかを見ます。整合しない、あるいは判断できない場合は「該当なし」ではなく「判定保留」として記録し、別の手段に進むのが正しい扱いです。

法人・事務所が相手の場合の確認

候補者が事務所に所属している場合、あるいは個人が法人化している場合は、法人としての確認が加わります。国税庁の法人番号公表サイトで商号と所在地を確認し、必要に応じて登記事項証明書を取得して役員構成と商号変更の履歴を見ます。短期間に商号や所在地が何度も変わっている法人は、理由を確認したほうがよい対象です。契約の相手方が本人なのか事務所なのかによって、確認すべき対象も変わりますので、契約形態を先に確定させてください。

確認しきれない部分は契約で担保します

どれだけ調べても、公開情報から確認できる範囲には限界があります。そこで、契約書に反社会的勢力の排除条項を入れ、相手に表明保証させる形で補完します。標準的な条文は、自らが反社会的勢力に該当しないこと、反社会的勢力と関係を有しないこと、該当が判明した場合には催告なく契約を解除でき、これによる損害の賠償義務を負わないことの3点で構成します。条項の入れ方はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目で詳しく扱っています。

注意していただきたいのは、条項を入れたことが調査を省略してよい理由にはならない点です。調査と条項は補完関係にあり、どちらか一方では足りません。調査は起用前のリスクを減らすために、条項は判明後に契約を切るために存在します。

支払先としての実体確認

支払先の実体確認は、報酬を振り込む直前ではなく、起用を決める前に行ってください。契約直前になって本名を明かせない、口座名義が第三者になっている、請求書を出せないといった事情が判明すると、そこまでの調整がすべて止まります。匿名で活動しているインフルエンサーは多く、これは珍しい事態ではありません。

個人が相手の場合に確認する項目

個人と直接契約する場合、次の項目を確認します。すべてを一度に求めると相手が警戒しますので、契約締結の段階でまとめて依頼する形が自然です。

受け取った本人確認書類は、個人情報として適切に管理してください。誰が閲覧できるか、保存期間はいつまでか、契約終了後にどう廃棄するかを社内ルールとして決めておく必要があります。案件情報の機密区分の考え方はインフルエンサー施策の情報管理と社内外の共有ルールにまとめています。

口座名義と請求書の整合を見ます

実務でつまずきやすいのが、契約当事者と振込先名義がずれるケースです。本人と契約したのに、口座名義が家族名義や事務所名義になっているという相談は少なくありません。名義が違う状態で振り込むと、支払先を特定できない資金の流れが自社の帳簿に残り、経理と税務の両面で説明がつかなくなります。名義が異なる場合は、その理由を文書で確認し、必要であれば契約当事者そのものを見直してください。

源泉徴収の要否、インボイス登録の有無による処理の違いは、支払いの直前ではなく契約時点で確認しておくと後戻りがありません。報酬まわりの税務処理はインフルエンサー報酬の源泉徴収とインボイス対応の実務で詳しく扱っています。

未成年が候補に含まれる場合

候補者が未成年の場合、親権者の同意が必要になります。契約書への同意欄の追加、本人確認に加えた親権者の確認、報酬の振込先の指定など、確認項目が一段増えます。年齢は公開プロフィールに書かれていないことが多く、投稿内容から推測できる場合もありますが、確実なのは本人への確認です。学生向け商材や若年層向けの商材を扱う場合は、年齢確認を調査項目に必ず加えてください。

権利関係と過去の表示違反の確認

権利関係の調査では、候補者が過去に他人の著作物を無断で使っていないか、そして自身の投稿を企業に二次利用させる権限を持っているかの2点を確認します。前者は自社の投稿に権利侵害が混入するリスク、後者は広告転用ができなくなるリスクに直結します。

無断転載と素材流用の痕跡

投稿されている画像や動画が、本人の撮影によるものかを確認します。素材サイトの写真をそのまま使っている、他人の投稿を引用元の表示なく載せている、明らかに撮影環境が異なる画像が混在しているといった点が手がかりです。気になる画像は画像検索にかけると、同じ画像が他所に存在するかを確認できます。音源の扱いも同様で、商用利用が許諾されていない楽曲を継続的に使っているアカウントは、企業案件でも同じことをする可能性があります。

二次利用の許諾を出せる立場かを確かめます

投稿を広告として転用する予定がある場合、候補者がその許諾を出せる立場にあるかを事前に確認してください。撮影を外部のカメラマンに依頼している場合、写真の著作権がカメラマン側に残っていることがあります。他の出演者が写り込んでいれば、その人の肖像権の処理も必要です。事務所所属の場合は、事務所の規定で二次利用の範囲が定められていることもあります。二次利用の実務はUGCマーケティングの活用法と二次利用の進め方で整理しています。

過去の表示違反の履歴

過去のPR投稿で表記ルールが守られていたかは、将来の再発リスクを測る指標になります。報酬や商品提供を受けた投稿にPR表記が入っていない、表記がハッシュタグの末尾に埋もれている、動画の場合に音声でも字幕でも触れられていないといった状態が続いているなら、注意が必要です。景品表示法の指定告示によるいわゆるステマ規制は2023年10月1日に施行されており、表示に関する責任は広告主である企業側が負います。相手の癖が自社の違反になる構造ですので、過去の投稿で確認しておく価値があります。表記の基準はステマ規制とは?景表法対応と#PR表記の実務ガイドをご覧ください。

あわせて、化粧品や健康食品を扱うアカウントでは、薬機法に抵触しかねない表現を常用していないかも見ておきます。「治る」「必ず痩せる」といった断定表現が普段の投稿に多い相手は、自社案件でも同じ言い回しを使う確率が高く、校正の往復が増えます。商材別のNG表現は薬機法とインフルエンサー起用の基本と商材別NG表現・確認フローで確認できます。

フォロワーの質と公開数値の信頼性

調査段階で見るフォロワーの質は、購入フォロワーの兆候があるかどうかという一点に絞ってください。詳細な属性分析や妥当性の判定は、適合性を採点する工程の仕事です。ここでは「数値を信じてよい相手か」という前提の確認だけを行い、判断材料としての信頼性を担保します。

調査段階で見る3つの整合性

短時間で確認できるのは、次の3つの整合性です。いずれも公開情報だけで見られます。

この3点で違和感が出た候補だけ、詳細な確認に進みます。見分け方の具体的な手順はフェイクフォロワーの見分け方と選定でのチェック手順にまとめていますので、本記事では入口の判定までを扱います。フォロワー属性がターゲットと合っているかという適合性の話はインフルエンサーのフォロワー属性分析と一致率の見方が担当する領域です。

インサイトの提出を求める範囲

公開数値だけで判断できない場合、本人にインサイトのスクリーンショット提出を依頼します。依頼する範囲は、直近30日のリーチ数、フォロワーの男女比と年代、上位の地域、直近数本の投稿のリーチと保存数あたりが標準です。提出を渋る相手に無理強いはできませんが、報酬が発生する案件で提出を断られる場合は、その理由を確認したほうがよい状況です。

受け取ったスクリーンショットは、撮影日時が見える状態であることを条件にしてください。加工されている可能性を完全に排除することはできませんが、日付が確認できるだけでも情報の鮮度を担保できます。数値は記録に残し、施策後の実績と突き合わせると、次回以降の判断精度が上がります。

競合案件と既存契約による拘束の確認

競合関係の確認は、公開情報から過去のPR実績を調べる作業と、現在の契約による拘束を本人に聞き取る作業の両方が必要です。過去の実績は外から見えますが、進行中の専属契約やアンバサダー契約は本人に聞かないとわかりません。デューデリジェンスの工程では、この両方を確認した記録を残すところまでを担当します。

公開情報でわかる範囲

Instagramのタイアップ投稿ラベルには企業名がそのまま出ますので、過去の取引先を特定する手がかりとして最も確実です。TikTokやYouTubeでは、プロモーションを含む旨の表示とキャプションや概要欄の記載から辿ります。ただし、ストーリーズ限定の案件や削除済みの投稿は外からは追えません。公開情報で「ゼロ件」だったとしても、競合案件がないとは判断できない点に注意してください。詳細な調査手順と競合の定義の切り分けはインフルエンサーの競合案件を確認する方法と起用前の注意点で扱っています。

本人・事務所に確認する質問

聞き取りでは、次の4点を定型の質問として送ります。文面を固定しておけば、担当者によって聞き漏らしが出ることもありません。

  1. 現在、他社と専属契約・アンバサダー契約・独占契約を結んでいるかを伺います。
  2. 結んでいる場合、その契約に競業避止の条項があり、どの範囲まで制限されるかを確認します。
  3. 公開前で発表されていない案件のうち、当社と同じカテゴリのものがあるかを尋ねます。
  4. 過去6か月以内に、当社と同じカテゴリの商品をPRした実績があるかを確認します。

回答はメールやチャットの文面として残してください。口頭のやりとりだけで進めると、後から問題が起きたときに「聞いていない」「言った」の水掛け論になります。デューデリジェンスの成果物は、判断ではなく証跡です。

調査結果を契約条項に落とし込みます

聞き取りで得た情報は、そのまま契約書に反映させます。競合の範囲を商品カテゴリで切るのか、企業単位で切るのか、名指しした特定企業だけにするのかを、調査で見えた実態に合わせて決めてください。相手がすでに他社と広い範囲の契約を持っているなら、こちらの条件は現実的な範囲に調整する必要があります。無理な条項を通しても、履行できない契約になるだけです。

調査結果を稟議に残す記録フォーマット

調査結果は、判定の結論だけでなく、いつ・どこを・誰が見たかまで残してください。社内の稟議でも、後日の監査でも、説明の根拠になるのは結論ではなく調査の過程です。「問題ありませんでした」という一行だけの報告は、記録としての価値がほとんどありません。

デューデリジェンスシートの必須項目

1候補につき1シートを作り、次の10項目を埋める形にすると、担当者が変わっても同じ粒度で残せます。表計算ソフトでもドキュメントでも構いませんが、候補者ごとに独立したファイルではなく、一覧として横並びで見られる形にしておくと決裁者が読みやすくなります。

項目記入内容証跡の残し方
基本情報活動名、本名、アカウントURL、フォロワー数プロフィール画面のスクリーンショット
調査実施日・担当者着手日と完了日、実施者の氏名シート上に記載
調査深度ライト/スタンダード/ディープの区分区分の選択理由も併記
炎上・削除履歴検索した語句、ヒットの有無、内容の要約検索結果画面と該当ページの保存
反社チェック使用した手段、照会日、結果の区分照会画面または報告書のファイル
実体確認本人確認書類の種類、口座名義の一致、登録番号書類は別途の機密フォルダで管理
権利・表示違反無断転載の有無、過去のPR表記の状態該当投稿のURLとスクリーンショット
フォロワーの質3つの整合性の確認結果、インサイトの提出有無提出されたインサイト画像
競合・既存契約過去のPR実績、聞き取り結果本人とのやりとりの文面
判定と条件可・条件付き可・不可の区分と、付す条件決裁者の承認記録

判定は3段階で残します

判定は、可・条件付き可・不可の3段階にしてください。二択にすると、グレーな情報が出たときに担当者が判断を抱え込み、報告自体が上がってこなくなります。条件付き可という選択肢があれば、「投稿前の原稿確認を2回にする」「二次利用は行わない」「契約期間を3か月に短縮する」といった形で、リスクを条件に変換して前に進められます。

不可と判定した候補も記録に残してください。理由とともに保存しておけば、半年後に同じ人物が別の候補リストに現れたときに、調査をやり直す必要がなくなります。稟議資料としての見せ方はインフルエンサーマーケティングの稟議を通す提案資料の作り方が参考になります。

証跡の保存期間と管理方法

保存期間は、契約期間の終了後も一定期間残すのが安全です。投稿の二次利用を行う場合は、利用が終わるまで保持してください。本人確認書類のような個人情報を含むファイルは、調査シート本体とは別の、アクセス権を限定したフォルダに分けて保管します。誰が閲覧できるかを明確にし、不要になった時点で廃棄するところまでをルール化しておくと、個人情報の管理体制としても説明がつきます。

契約後のモニタリングと再調査

起用前の調査は、契約した時点から有効期限が切れ始めます。調査で確認できるのは、その時点までに公開されていた情報だけです。契約後に新しい投稿が積み上がり、新しい取引先が増え、状況が変わっていきますので、期間中の監視と、節目での再調査を設計に組み込んでください。

期間中に監視する対象

監視の対象は3つです。1つ目は候補者本人のアカウントで、投稿の内容と頻度、そして削除の有無を見ます。2つ目は候補者の名前と自社ブランド名の掛け合わせでの言及で、施策への反応を拾います。3つ目はキャンペーンのハッシュタグで、意図しない使われ方をしていないかを見ます。毎日張り付く必要はありませんが、投稿公開の直後72時間は反応が集中しますので、この期間だけは頻度を上げるのが実務的です。

問題が起きたときの初動の組み立て方はインフルエンサー施策の炎上対策と発生時の初動対応にまとめています。本記事が扱う起用前の調査は発生確率を下げる工程で、炎上対策は発生後の被害を抑える工程です。両方が揃って初めてリスク管理として成立します。

再調査のトリガー

再調査を行うタイミングは、あらかじめ決めておいてください。次の状況に該当したら、起用前と同じ手順をもう一度回します。

継続起用の設計全般についてはインフルエンサーの継続起用と長期契約の設計・運用ガイドで扱っています。

調査の結果を次の案件に引き継ぎます

一度行った調査は、社内の資産として残してください。候補者ごとの調査シートを蓄積していけば、2回目以降は差分の確認だけで済みます。過去に不可と判定した理由、条件付き可で付した条件、実際に起用したときの進行の様子を同じ場所にまとめておくと、次の案件で候補を選ぶ時間が大きく短縮されます。候補リストの作り方と組み合わせて運用すると効果的で、探し方の手順はインフルエンサーの探し方6手段と候補リストの作り方にまとめています。

起用前デューデリジェンスの実行チェックリスト

  • 候補リストの全員にライト調査を実施し、その結果を記録しました。
  • 最終候補に対して、炎上履歴・削除履歴を12か月以上遡って確認しました。
  • 氏名と活動名に否定語を掛け合わせた検索を、分類ごとに実施しました。
  • 反社会的勢力に関する確認を行い、照会日と手段を記録しました。
  • 本人確認書類と振込先名義の一致を確認しました。
  • 過去のPR投稿の表記状態と、権利面の懸念の有無を確認しました。
  • フォロワー数と反応数の整合を確認し、必要な候補にはインサイトを依頼しました。
  • 競合案件と既存契約について、本人から文面で回答を受け取りました。
  • 調査シートを作成し、可・条件付き可・不可の判定と決裁者の承認を記録しました。
  • 期間中の監視対象と、再調査のトリガーを社内で共有しました。

調べる範囲を毎回ゼロから考えていると、担当者の負荷が上がり、結局は省略されていきます。領域を6つに固定し、深度を3段階に分け、記録を1枚のシートにまとめる。この3点を決めてしまえば、起用前の調査は特別な作業ではなく、通常の業務手順の一部になります。選定全体の考え方については失敗しないインフルエンサー選定7つのポイントもあわせてご覧ください。

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