インフルエンサーに依頼したPR投稿を、自社サイトやEC、Web広告、店頭POPにも使いたい。この「二次利用」でつまずく企業がとても多いのが実情です。費用を払って作ってもらった投稿でも、著作権はインフルエンサー本人に残り、写っている人には肖像権があり、BGMには楽曲の権利が別にあります。本記事は広報と法務を兼務するマーケティング担当者に向けて、1本の投稿に重なる権利の層を分解し、二次利用の範囲を契約でどう定義するか、第三者が映り込んだときにどう同意を取るか、転用先ごとに何の許諾が要るかを、そのまま社内で使えるチェックリストとして整理しました。

この記事の要点

  • PR投稿の著作権は原則としてインフルエンサー本人に残り、報酬の支払いは権利の買い取りを意味しません。二次利用には別途の許諾が必要です。
  • 二次利用の範囲は「媒体・期間・地域・改変可否」の4軸で定義します。この4つが書かれていない契約書は、実務上ほぼ必ず後からもめます。
  • 第三者の映り込みは、撮影前の告知・撮影中の確認・公開前のチェックという3段階で処理します。子ども・私有地・イベント会場は追加の許諾が必要です。
  • プラットフォーム提供の楽曲は広告転用でほぼ使えません。ホワイトリスト配信・自社サイト・店頭POPで必要な許諾は転用先ごとに異なります。
  • 二次利用費の相場は2026年9月時点で投稿報酬の20〜50%、または1クール3か月あたりフォロワー単価1〜2円が目安です。発注前の一括合意が最も安く済みます。

インフルエンサー投稿に発生する4種類の権利

インフルエンサーのPR投稿には、著作権・肖像権・パブリシティ権・第三者の権利という4種類の権利が同時に発生しています。企業が費用を払って依頼した投稿であっても、その支払いは「投稿してもらうこと」への対価であり、権利そのものを買い取ったことにはなりません。ここを取り違えたまま自社サイトや広告へ転用すると、後から使用停止の申し入れや追加請求を受けることになります。まずは1本の投稿の中に誰の権利が何層に重なっているのかを分解して押さえておきましょう。

著作権は撮影・編集したインフルエンサーに帰属する

著作権とは、写真・動画・イラスト・文章など創作性のある表現を作った人に、登録や申請なしで自動的に発生する権利です。インフルエンサーの投稿は、構図の決め方、撮影、カット割り、テロップ、キャプションの文章まで、そのほとんどが本人の創作です。したがって契約書に譲渡の定めがなければ、著作権は投稿後も本人に残り続けます。企業が商品を無償提供し、訴求ポイントを細かく指示していたとしても、実際に手を動かして表現を形にしたのが本人である限り、著作者は本人であると考えるのが実務の出発点です。

やや複雑なのは、企業側が構成台本やブランド素材を提供したケースです。台本を企業が書き、撮影と編集をインフルエンサーが担当した動画は、双方の寄与を分離できない共同著作物と評価される余地があります。共同著作物になると、原則として全員の合意がなければ利用できないため、かえって身動きが取りにくくなります。台本提供型の企画を回すときこそ、成果物の権利の所在を契約書の冒頭で言い切っておくことをおすすめします。

なお、動画に企業が用意したロゴ・商品画像・BGMが含まれる場合、その部分の著作権は企業や第三者に残ります。つまり1本の動画は、インフルエンサーの著作権と企業の著作権と第三者の著作権が同居した混合物です。転用の可否を判断するときは、動画全体をひとかたまりで見るのではなく、素材のレイヤーごとに権利者を書き出す作業から始めてください。

肖像権とパブリシティ権は写っている人に帰属する

肖像権とは、自分の容姿をみだりに撮影されたり公表されたりしない人格的な利益を守る権利です。日本の法令に「肖像権法」という単独の法律はありませんが、裁判例の積み重ねによって人格権の一部として保護されてきました。ここで重要なのは、著作権を持つ人と肖像権を持つ人が別人になりうるという点です。インフルエンサーが自撮りした投稿であれば両方が本人に集まりますが、友人やモデル、家族に出演してもらった投稿では、著作権は撮影者、肖像権は出演者に分かれます。

さらに影響力の大きいインフルエンサーの場合、パブリシティ権も問題になります。パブリシティ権とは、氏名や肖像が持つ顧客吸引力を経済的に利用する権利で、2012年のピンク・レディー事件における最高裁判決で法的な保護対象として明確に位置づけられました。もっぱら顧客誘引を目的として肖像を使う行為が対象になるため、投稿をそのまま広告クリエイティブに転用する行為はまさにこの領域に踏み込みます。二次利用の許諾を取る際は、著作権の利用許諾だけでなく、肖像とパブリシティの利用についても同じ文書で同意を取り付けておくのが安全です。

楽曲・フォント・背景の権利は第三者に残る

投稿の中には、インフルエンサーにも企業にも属さない第三者の権利が必ず紛れ込みます。代表的なものが、リールやTikTokで使われるプラットフォーム提供の楽曲です。これらはSNS内での個人利用を前提にライセンスされており、企業の広告として配信したり自社サイトに埋め込んだりする用途は許諾範囲外になるのが一般的です。同様に、編集ソフトに同梱されたフォントや効果音、有料素材サイトの写真にも、それぞれ商用利用の条件があります。

背景に写り込むものも見落としがちです。特徴的な建築物、屋外の美術作品、他社のパッケージや看板、キャラクターグッズなどは、写り込み方によって著作権や商標の問題に発展します。著作権法には付随的に写り込んだ著作物の利用を許容する規定(第30条の2、いわゆる写り込み規定)があり、2020年の改正で対象範囲が生配信やスクリーンショットにも拡大されました。ただしこの規定は、分離が困難で軽微な構成部分であることが前提です。意図的に画面の中心に他社商品を置いた映像は救済されないと考えておいてください。

投稿1本を分解する権利処理チェックリスト

権利処理は「投稿1本=1行」の台帳に落とし込むと、抜け漏れがほぼなくなります。感覚で判断せず、素材のレイヤーごとに権利者と許諾状況を書き出す運用に切り替えるだけで、社内確認のスピードも法務の負担も大きく変わります。ここでは実際に社内で配れる粒度のチェックリストを用意しました。案件開始時にコピーして使ってください。

素材レイヤー別の権利者早見表

次の表は、1本の投稿に含まれる代表的な素材と、その権利者、二次利用時に必要な確認事項をまとめたものです。自社の案件フォーマットに合わせて行を足し引きしながら運用すると実用的です。

素材レイヤー主な権利権利者二次利用時の確認事項
写真・動画本体著作権撮影・編集したインフルエンサー利用許諾か譲渡か、範囲の4軸が明記されているか
本人の顔・姿肖像権・パブリシティ権出演した本人広告利用・店頭掲示まで含む同意があるか
共演者・家族・友人肖像権出演した各人本人経由ではなく個別の同意書が取れているか
通行人・他の客の映り込み肖像権映り込んだ第三者特定性があるか、ぼかし処理で足りるか
BGM・効果音著作権・著作隣接権作詞作曲者・レコード会社等SNS外での利用がライセンス範囲に入るか
キャプション・台本著作権執筆者(本人または企業)改変や抜粋の可否が定められているか
企業提供のロゴ・商品画像著作権・商標権自社または供給元供給元素材の再配布条件を満たすか
背景の建築物・美術品著作権設計者・作者写り込み規定の範囲か、意図的な写し込みか
他社商品・看板商標権・不正競争防止法各社誤認や便乗と受け取られる構図でないか
フォント・テンプレート利用規約上の権利提供事業者商用・広告用途が規約で許されているか

案件開始時に埋めておく10項目

チェックリストは、投稿が納品されてから埋めるものではありません。オリエンの段階で以下の10項目を先に確定させておくと、後工程の交渉がほぼ発生しなくなります。実務では、この10項目を発注書と同じ画面で入力できる状態にしておくのが理想です。

本記事の位置づけについて

本記事は権利処理を進めるうえでの一般的な実務上の整理をまとめたものであり、個別案件に対する法律的な助言ではありません。契約書の文言、譲渡と許諾の選択、リスクの評価といった最終的な判断は、必ず自社の法務部門または顧問弁護士に確認したうえで進めてください。特に海外配信や大型のマス広告への転用を伴う案件は、初期段階から専門家を巻き込むことをおすすめします。

二次利用の範囲を決める4つの軸

二次利用の範囲は、媒体・期間・地域・改変可否という4つの軸で定義します。この4軸のうち1つでも書かれていない契約書は、実務上ほぼ必ず後から解釈のずれを生みます。「自社の宣伝に使ってよい」といった曖昧な一文だけで済ませてしまうと、インフルエンサー側は自社サイトへの掲載程度を想定し、企業側は広告配信まで含むと理解する、という典型的なすれ違いが起きます。4軸は交渉のためのフレームであると同時に、社内の認識をそろえるための共通言語です。

媒体は具体名で列挙する

媒体の指定は「Web」「デジタル」といった大きなくくりではなく、具体名の列挙が基本です。自社公式サイト、自社ECの商品ページ、Meta広告、TikTok広告、Google広告、自社SNSアカウントのリポスト、メールマガジン、店頭POP、パンフレット、展示会ブース、交通広告、テレビCMというように、想定される掲出先を一つずつ書き出します。列挙されていない媒体は使えないという前提で運用したほうが、結果的にトラブルが起きません。

実務では、確定している媒体と将来使う可能性がある媒体を分けて書く方法が有効です。確定分は基本報酬に含め、可能性がある媒体はオプションとして単価だけ先に合意しておきます。こうしておくと、キャンペーンの反響が良かったときに追加の交渉を挟まずすぐ拡張できます。ホワイトリスト広告のように本人アカウント名義で配信する形式は、通常の広告転用とは許諾の性質が変わるため、必ず別項目として立ててください。

期間と地域は開始日を明示して数える

期間は「3か月」ではなく「2026年10月1日から2026年12月31日まで」と、開始日と終了日を日付で書きます。納品日から数えるのか、初回投稿日から数えるのか、広告配信開始日から数えるのかで、実際に使える期間が数週間ずれるためです。延長の可能性がある案件では、延長時の単価と申し入れの期限(たとえば満了30日前まで)まで先に決めておくと、期限直前の駆け込み交渉を避けられます。

地域は、国内限定か、特定の国を含むか、全世界かを指定します。越境ECやインバウンド施策では、日本国内での掲出を前提に合意した素材を海外向け広告に流用してしまう事故が起こりがちです。プラットフォームの配信設定は簡単に変更できてしまうため、契約上の地域制限と広告アカウントの配信設定を突き合わせる確認工程を、運用フローに組み込んでおいてください。

改変可否と著作者人格権の扱い

改変可否は、広告転用で最も揉めやすい論点です。縦型動画を正方形にトリミングする、60秒を15秒に詰める、字幕を差し替える、サムネイルを別に作る。これらはすべて改変にあたります。広告運用では複数パターンを作ってテストするのが当然なので、改変の許容範囲を「尺の短縮・アスペクト比の変更・字幕の追加までは可、発言の趣旨を変える編集は不可」といった水準で具体化しておきましょう。

あわせて押さえておきたいのが著作者人格権です。著作者人格権は譲渡できない権利であり、実務では「著作者人格権を行使しない」という不行使条項を入れて対応します。ただし条項があっても、本人が不本意に感じる編集を強行すれば関係は壊れます。継続的に組みたい相手ほど、改変後のクリエイティブを一度共有して確認を取る運用を挟むのが賢明です。契約の全体像はインフルエンサー契約書の必須チェック項目もあわせて確認してください。

著作権譲渡と利用許諾のどちらを選ぶか

二次利用の契約形態は、著作権を譲り受ける「譲渡」と、範囲を決めて借りる「利用許諾(ライセンス)」の2つに大別されます。結論から言えば、インフルエンサー施策では利用許諾を選ぶケースが大半です。譲渡は費用が跳ね上がるうえ、インフルエンサー側が自分のポートフォリオに使えなくなるなどの理由で敬遠されやすく、交渉が長期化しやすいためです。

譲渡と許諾の違いを比較する

比較軸著作権譲渡利用許諾(ライセンス)
権利の所在企業に移転するインフルエンサーに残る
使える範囲原則として制限なし契約で定めた4軸の範囲内
費用の目安投稿報酬の100〜300%程度投稿報酬の20〜50%程度
交渉のしやすさ断られることが多い合意しやすい
本人側の再利用原則できなくなる本人は引き続き使える
期間管理不要期限管理が必須
向いているケースブランドの主要素材として長期運用する場合キャンペーン期間の広告転用が中心の場合

費用の目安は2026年9月時点で複数のインフルエンサーマーケティング支援会社が公開している相場情報を突き合わせたレンジです。案件規模やフォロワー数、事務所の方針によって上下しますので、あくまで交渉の出発点として使ってください。

利用許諾条項に必ず入れる要素

利用許諾で進める場合、条項に盛り込むべき要素はある程度定型化できます。以下の7点が揃っていれば、実務上必要な範囲はほぼカバーできます。契約書のひな形を作る際は、この7点をチェックリストとして使ってください。

再許諾とグループ会社利用の落とし穴

見落とされがちなのが、再許諾とグループ会社での利用です。広告運用を代理店に委託している場合、素材を代理店の広告アカウントに入稿する行為は、形式的には第三者への提供にあたります。再許諾を認める条項がないと、契約上グレーな状態で運用が回ってしまいます。同じく、販売代理店や海外の現地法人が同じ素材を使いたいと言い出す展開もよくあります。

対策はシンプルで、許諾の相手方に「当社および当社が指定する広告代理店・制作会社」「当社の親会社および子会社」といった範囲を明記しておくことです。範囲を広げるほど相手の心理的なハードルは上がりますので、なぜ必要かを説明できるようにしておきましょう。実際に起きたトラブルの類型と収束のさせ方はインフルエンサー施策のトラブル対応でも整理しています。

二次利用費の相場と見積もりの考え方

二次利用費の相場は、2026年9月時点で投稿報酬の20〜50%、または1クール3か月あたりフォロワー1人あたり1〜2円という2つの算定方式が主流です。前者は投稿単価に対する掛け率で計算する方式、後者はフォロワー規模から独立して計算する方式で、事務所やキャスティング会社によってどちらを提示してくるかが分かれます。どちらの方式で来ても比較できるよう、自社側では常に両方の数字に換算して検討する癖をつけておくと交渉がぶれません。

転用先と期間で変わる費用レンジ

次の表は、転用先ごとの費用感の目安を整理したものです。実際の金額はインフルエンサーの知名度と案件内容で大きく変動しますが、社内で予算を確保する段階の当たりをつける用途には十分使えます。

転用先期間の目安費用の目安(投稿報酬比)交渉難易度
自社サイト・EC商品ページ3〜12か月10〜30%低い
自社SNSアカウントでのリポスト3〜12か月0〜15%低い
Web広告(自社アカウント配信)3か月20〜50%中程度
ホワイトリスト配信(本人名義)1〜3か月20〜40%+運用条件中程度
店頭POP・パンフレット3〜6か月30〜80%やや高い
交通広告・屋外広告1〜3か月50〜150%高い
テレビCM・大型マス広告3〜6か月100〜300%以上非常に高い
期間無制限・全媒体(実質譲渡)無期限100〜300%非常に高い

発注前の一括合意が最も安く済む理由

二次利用費を抑える最大のコツは、投稿依頼と同じタイミングで二次利用の条件まで合意してしまうことです。投稿が公開され、数字が良いことが分かってから交渉を始めると、相手は素材の価値を正確に把握した状態で価格を提示できます。反響が読めない発注前であれば、パッケージ価格として上乗せ幅の小さい条件で合意できることが多いのが実情です。

また、後追いの交渉は時間的なロスも大きくなります。数字が伸びている投稿ほど早く広告に転用したいのに、許諾の確認だけで1〜2週間を要してしまえば、機会損失は金額差を軽く超えます。見積書の内訳をどう組み立てるかはインフルエンサー施策の見積もり内訳で詳しく解説していますので、社内稟議の資料づくりとあわせてご覧ください。

交渉時に相手へ伝えるべき3点

二次利用の交渉では、金額を提示する前に用途の説明を尽くすほうが結果的にスムーズです。相手が警戒するのは金額そのものよりも、自分の顔と名前がどこまで使われるか分からない不安だからです。以下の3点を先に伝えるだけで、合意率は目に見えて変わります。

交渉メモの型

提案時は「Meta広告およびTikTok広告に、2026年10月1日から12月31日までの3か月間、日本国内向けに配信します。編集は尺の短縮とアスペクト比の変更のみを想定しており、公開前に必ずご確認いただきます。期間終了後は72時間以内に配信を停止し、停止完了をご報告します」という粒度で書くのが目安です。この一段落を発注書に添えるだけで、確認のやりとりが1往復で終わるようになります。

第三者が映り込んだ場合の同意取得フロー

第三者の映り込みは、撮影前・撮影中・公開前の3段階で処理するのが実務の基本です。公開後に「自分が写っている、削除してほしい」という申し出を受けてから動くと、投稿の削除だけでなく広告の配信停止、印刷物の回収まで波及します。撮影の企画段階で映り込みの可能性を洗い出し、必要な同意を先回りして取り切る設計にしておきましょう。

3段階のチェックポイント

撮影前には、ロケーションの性質と登場人物を確定させます。屋内の商業施設や飲食店であれば施設側の撮影許可、イベント会場であれば主催者の許可、私有地であれば所有者の許可が必要です。撮影中は、共演者に同意書へ署名してもらい、周囲に一般客がいる場合は撮影中であることを掲示または口頭で告知します。公開前には、納品された素材を通しで確認し、意図しない人物が特定できる形で写っていないかを検品します。

肖像権侵害の判断では、その人物が特定できるかどうかと、撮影・公表が社会通念上受忍すべき限度を超えているかどうかが問われます。実務上は、顔がはっきり判別できる、その人が中心的に写っている、公開範囲が広い、商業目的である、という要素が重なるほどリスクが上がると整理しておくと運用しやすくなります。広告転用は「公開範囲が広く商業目的」の典型なので、SNS投稿のままなら許容範囲と判断した映り込みでも、転用時には改めて検品する運用が必要です。

同意書に入れる7項目

共演者やモデルから同意を取る際は、口頭やチャットの一言で済ませず、書面またはフォームで記録を残します。同意書に入れるべき項目は次の7つです。テンプレート化しておけば、現場で数分で取得できます。

子ども・私有地・イベント会場の追加論点

未成年が登場する場合は、本人の同意に加えて親権者の同意が必須です。特に乳幼児や小学生が出演するケースでは、就学先や居住地域が推測できる情報が背景に写り込んでいないかまで確認します。学校の制服、通学路の標識、マンション名の看板などは典型的な注意対象です。子ども向け商材の施策設計についてはベビー・キッズ向けインフルエンサー施策でも触れています。

商業施設や飲食店での撮影は、施設側が独自の撮影ポリシーを設けていることが多く、無許可の商用撮影を禁止しているケースが一般的です。イベント会場では主催者が撮影・配信の可否を定めており、他の来場者が大量に写り込む状況も生まれます。屋外の公道であっても、特定の個人が中心的に写るカットは同意なしでの商用利用を避けるのが無難です。判断に迷う素材は、無理に使わず差し替えるほうが総コストは低く済みます。

ぼかし処理は万能ではありません

映り込んだ第三者はぼかせば大丈夫だと考えられがちですが、髪型や体型、服装、同伴者の組み合わせから個人が特定できる場合には、ぼかしても問題が残ります。特に少人数の店内、地域性の高い場所、特徴的な服装のケースでは注意が必要です。加えて、ぼかし処理を前提にすると編集工数と確認工数が増え、広告のクリエイティブテストの回転も落ちます。撮影時点で背景に人が入らない構図を選ぶほうが、結果的に安く早く仕上がります。

広告転用のパターン別に必要な許諾

広告転用は、配信の形式によって必要な許諾が変わります。同じ「広告に使う」という言葉でも、本人アカウント名義で配信するホワイトリスト広告、自社アカウントで素材を使う通常配信、投稿を自社サイトに埋め込む掲載では、権利の使い方がまったく異なるためです。ここを一括りにして交渉すると、必要以上に高い見積もりを引き出してしまったり、逆に許諾範囲が足りないまま運用してしまったりします。

転用パターン別の必要許諾一覧

転用パターン著作権肖像・パブリシティ楽曲追加で必要なもの
投稿の埋め込み表示(公式の埋め込みコード)原則不要原則不要不要投稿が削除されると表示も消える点の許容
投稿画像を保存して自社サイトに掲載必要必要該当なし掲載ページと期間の明示
自社SNSアカウントでのリポスト必要必要要確認クレジット表記の方法
ホワイトリスト配信(本人名義)必要必要要確認広告アカウントの権限付与コード
自社アカウントでの広告配信必要必要差し替え前提PR表記と景品表示法上の表現確認
店頭POP・パンフレット必要必要該当なし印刷部数と設置期間、回収方法
交通広告・屋外広告必要必要該当なし掲出エリアと媒体社の考査
営業資料・展示会での上映必要必要差し替え前提配布先の範囲と社外秘の扱い

ホワイトリスト配信は権限付与とセットで考える

ホワイトリスト配信は、インフルエンサー本人のアカウント名義のまま企業が広告費を出して配信する手法です。素材を複製して自社アカウントに移すのではなく、本人の投稿そのものを広告として増幅するため、著作権の観点では扱いが軽くなる一方、本人アカウントの広告権限を企業に渡してもらう手続きが発生します。InstagramならパートナーシップコードやMetaのビジネス連携、TikTokならSpark Adsの認証コードが該当します。

このため契約では、権限付与の期限と、配信中に投稿を削除しないという確約をセットで取り付けます。本人が途中で投稿を消してしまうと広告も止まるため、金額の交渉よりもこの運用条件のほうが実務的には重要です。詳しい手順はホワイトリスト広告の仕組みと始め方にまとめています。

オフライン媒体は回収コストまで見積もる

店頭POPや交通広告といったオフライン媒体は、Web広告と違って停止に物理的な作業が伴います。全国の店舗に設置したPOPを期限どおりに撤去するのは、想像以上に手間のかかる作業です。契約期間を決める段階で、撤去に要する期間をあらかじめ上乗せしておくか、あるいは掲出期間と別に「撤去猶予期間」を設ける方法で対応します。

また、印刷物は部数を明示する慣行があります。1万部と10万部では露出量がまったく違うため、部数の明示は相手にとっての価格根拠にもなります。増刷が発生した場合の追加費用も、初回契約時に単価だけ決めておくと後の交渉が不要になります。

楽曲・フォント・素材の権利処理

楽曲は、二次利用で最も高い確率で引っかかる素材です。InstagramのリールやTikTokで使えるプラットフォーム提供の楽曲は、そのプラットフォーム内での個人的な利用を前提にライセンスされており、企業アカウントでの利用や広告配信、SNS外への転載は対象外とされているのが一般的です。投稿としては問題なく公開できていた動画が、広告に入稿した途端に審査で弾かれたり、権利者からの申し立てで音声が消されたりする事故は日常的に起きています。

企画段階で音源を分けて設計する

対策の基本は、二次利用を前提とする案件では最初から商用利用可能な音源を指定することです。自社で購入したロイヤリティフリー音源、権利処理済みのライブラリ楽曲、あるいはブランド専用に制作したサウンドロゴを渡し、それを使って撮影・編集してもらいます。プラットフォームの流行曲を使いたい場合は、SNS投稿用と広告転用用の2バージョンを納品してもらう建て付けにするのが現実的です。

2バージョン納品は追加の編集工数が発生するため、発注時に工数を織り込んでおきます。目安としては、既存編集の音声差し替えのみであれば投稿報酬の5〜10%程度の追加で応じてもらえるケースが多い印象です。事後に依頼すると再編集の手間が大きく、断られることもありますので、企画段階で必ず握っておきましょう。

フォント・テンプレート・有料素材の規約確認

編集に使うフォントやテンプレート、有料素材サイトの写真にも、それぞれ利用条件があります。特に注意したいのが、動画編集アプリに同梱されているテンプレートやエフェクトです。個人利用は無料でも、商用利用や広告配信には別ライセンスが必要とされている場合があります。インフルエンサー側は個人の投稿として使い慣れているため、企業の広告として使われる前提を意識していないことがほとんどです。

実務では、納品時に「使用した音源・フォント・素材の一覧」を提出してもらう運用にすると確認が早くなります。素材名と入手元がリストになっていれば、自社側で規約を確認して差し替え判断ができます。これはPR投稿のクリエイティブ設計の工程に組み込むと、追加の負担を感じさせずに定着します。

背景の建築物・美術品・商標の扱い

屋外に恒常的に設置されている建築物や彫刻は、著作権法上、一定の範囲で自由に利用できると整理されています。ただし、彫刻を専ら販売目的で複製する場合など、例外にあたる利用は認められません。屋内の展示物や美術館の所蔵作品は、そもそも施設のルールで撮影自体が制限されていることが多いため、事前確認が前提になります。

他社商品や看板が写り込む場合は、商標権と不正競争防止法の観点も加わります。単に背景に写っている程度であれば問題になりにくい一方、他社商品と自社商品を並べて優劣を示す構図や、他社ブランドの信用に便乗していると受け取られる見せ方は避けるべきです。比較訴求は景品表示法の論点にもつながりますので、ステマ規制対応薬機法の表現ルールとあわせて確認する体制にしておくと安全です。

契約終了後の削除・アーカイブ管理

権利処理は、許諾を取った時点ではなく、期限どおりに使用を止めたところで完了します。実際の事故で多いのは、許諾を取っていなかったケースよりも、許諾期間が切れているのに使い続けてしまったケースです。担当者の異動、広告アカウントの引き継ぎ、CMSに残った古い画像といった理由で、意図せず期限超過が発生します。期限管理は人の記憶ではなく仕組みで持たせてください。

期限管理を仕組みに落とす

最低限やっておきたいのは、素材ごとに終了日を持つ一覧をつくり、終了日の30日前と7日前にアラートが飛ぶようにしておくことです。カレンダーの予定でも、スプレッドシートの条件付き書式でも構いません。重要なのは、素材の保管場所と終了日が同じ場所で管理されていることです。ファイル名に終了日を入れる運用も、原始的ですが効果があります。

終了日の30日前アラートは、延長交渉を始めるトリガーとしても機能します。反響の良い素材は延長したくなるものですが、期限直前に慌てて連絡すると相手のスケジュール次第で間に合いません。1か月前に打診し、延長する場合は追加費用を支払い、延長しない場合は撤去の段取りに入る、という分岐を早めに確定させましょう。

期限切れ素材の撤去手順

撤去は、掲出先を洗い出したうえで一つずつ潰していきます。Web広告の停止、自社サイトの画像差し替え、ECの商品ページの更新、メールマガジンのバックナンバー、営業資料、店頭POPの回収、SNSの過去投稿の非公開化まで、掲出先ごとに担当者と期限を割り当てます。完了後は、停止のスクリーンショットや撤去の報告をまとめてインフルエンサー側に送っておくと、信頼関係が積み上がります。

注意したいのは、検索エンジンのキャッシュやSNSのプレビュー画像が残るケースです。自社側で削除しても、外部サービスの表示がしばらく残ることがあります。事前に相手へその可能性を説明しておけば、後から指摘を受けたときも落ち着いて対応できます。

削除要請・炎上時の初動

公開後に第三者から「自分が写っている」という申し出を受けたときは、まず該当箇所を確認し、事実関係が固まる前でも公開を一時停止する判断を優先します。時間が経つほど拡散し、対応コストが増えるためです。そのうえで、撮影経緯と同意の有無を社内で確認し、削除・修正・継続のいずれかを決めます。誰が窓口になり、誰が判断するかを平時に決めておくと、初動が数時間単位で早くなります。

インフルエンサー本人から二次利用の停止を求められた場合も同様です。契約上の権利があるかどうかとは別に、関係を続けたい相手であれば、まず何が不本意だったのかを聞く姿勢が結果的に早い解決につながります。法的な主張と関係維持のバランスは案件ごとに変わりますので、対応方針は法務と広報で事前に握っておいてください。

権利処理を仕組みで回す社内体制

権利処理は、担当者の知識ではなくフォーマットと承認フローで回すべき業務です。案件が増えるほど属人化のリスクは上がり、担当者が変わった瞬間に抜けが生まれます。ここでは、少人数のマーケティングチームでも無理なく回せる体制の作り方を、整備の優先順位とあわせて示します。

先に整備すべき3つのテンプレート

最初に用意すべきは、発注書に組み込む二次利用条項、被写体同意書、そして素材台帳の3つです。この3点があれば、案件ごとにゼロから考える作業がなくなります。二次利用条項は4軸を穴埋め式にしておき、担当者が媒体名と日付を入れるだけで完成する形にしておくのが理想です。

素材台帳には、素材ID、案件名、インフルエンサー名、納品日、許諾の種類、媒体、開始日、終了日、改変可否、楽曲の権利状況、掲出先の一覧、削除完了日を持たせます。列が多いように見えますが、埋めるのは案件開始時と終了時の2回だけです。この台帳があると、監査や親会社からの照会にも即答できるようになります。

承認フローは2段階で足りる

承認フローは、複雑にするほど形骸化します。実務上は、担当者が台帳を埋めて申請し、法務またはマネージャーが4軸と第三者の映り込みだけを確認する2段階で十分に機能します。確認者が見るポイントを4軸と映り込みの2点に絞ることで、レビューが数分で終わり、案件のスピードを落としません。

そのうえで、金額の大きい案件、オフライン媒体への転用、海外配信を含む案件の3つだけは、必ず法務のレビューを通す例外ルールを設けます。すべてを厳格にするのではなく、リスクの高い類型を絞って手厚く見るほうが、現場の運用として長続きします。

プラットフォームを使って権利処理を標準化する

個別のインフルエンサーと1件ずつ交渉していると、契約書の様式も許諾の範囲もばらばらになり、台帳の管理が一気に難しくなります。マッチングプラットフォームを使うと、契約条件のフォーマットがそろい、二次利用の範囲をオファー時点で標準の選択肢から選べるようになります。誰にどこまでの許諾を得ているかがシステム上で確認できる状態は、権利処理の体制としては大きな前進です。

Bloomでは、審査を通過した約30,000人のインフルエンサーに対して、オファーの段階で二次利用の範囲を条件として提示できます。案件ごとの条件と合意の記録が同じ場所に残るため、後から「どこまで使ってよかったか」を探し回る必要がありません。発注方式ごとの違いはキャスティング会社とプラットフォームの比較で整理していますので、自社の体制に合う方式を検討する際の参考にしてください。

本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム「Bloom」(株式会社ハーマンドット)が運営しています。