インフルエンサーにPR投稿を依頼するとき、契約書の中身次第で施策の成否とリスクが大きく変わります。この記事は、初めて自社でインフルエンサー起用を進めるマーケ担当者や、雛形をチェックしたい経営者・法務担当者に向けて、インフルエンサー契約書に必ず入れるべき項目を目的別に整理し、トラブル別の条文の勘所までまとめたものです。業務範囲や報酬だけでなく、二次利用・ステマ表記義務・違約金といった見落としやすい論点まで、実務チェックリストつきで解説します。

この記事の要点

  • インフルエンサー契約書は、業務範囲・報酬・二次利用・広告表記の4点を最低限おさえるのが出発点です。
  • 必須項目は全12項目。この記事では目的別の一覧表にして整理しています。
  • 投稿の著作権は原則インフルエンサー側に帰属するため、二次利用は範囲・媒体・期間・追加報酬を明記します。
  • 2023年10月施行のステマ規制では、PR表記を怠ると原則として広告主である企業が責任を負います。
  • 違約金は報酬額を基準に合理的な範囲で設定し、最終的な文面は弁護士など専門家の確認を受けるのが安全です。

インフルエンサー契約書の基礎

インフルエンサー契約書とは、企業がインフルエンサーにPR投稿やコンテンツ制作を依頼する際に、業務内容・報酬・権利関係・責任分担を定めた業務委託契約書です。口約束やDMのやり取りだけでも取引は成立しますが、条件が曖昧なままだとトラブルが起きたときに立場を証明できません。金額の大小にかかわらず、書面で残すことが基本になります。

契約書がない場合に起きるトラブル

契約書がなければ委託内容が明確になりづらく、口頭で取り決めたアウトプットをインフルエンサーが行わなかった場合でも、報酬の支払いを拒めない可能性があります。逆に、二次利用や競合起用のように「言った・言わない」で対立しやすい論点も、文面がなければ企業側が不利になりがちです。契約書は、双方の期待値をそろえるための共通言語だと考えるとわかりやすいです。

雇用契約と混同しない

インフルエンサー契約は、成果物の納品や投稿という仕事を委託する業務委託契約が基本です。稼働時間を細かく拘束したり、指揮命令のもとで働かせたりする内容にすると、雇用契約や偽装請負と誤解されるおそれがあります。あくまで独立した事業者どうしの取引として、成果物と対価を軸に組み立てるのが安全です。マネーフォワード クラウド契約なども、業務委託としての設計を前提に解説しています。

まず4点だけでも文面にする

フルスペックの契約書がすぐに用意できない少額案件でも、(1)業務範囲、(2)報酬と支払条件、(3)二次利用の可否、(4)広告表記(PR表記)の義務、の4点だけは必ず文面で残しておくと、主要なトラブルの大半を防げます。まずはこの4点から始めるのが現実的です。

契約書に必ず入れる12の必須項目

インフルエンサー契約書に盛り込むべき必須項目は、大きく12項目に整理できます。それぞれ「何のために入れる条項なのか」を意識すると、雛形の取捨選択がしやすくなります。まずは全体像を一覧表で確認してください。

必須条項主な目的・守るもの
業務範囲投稿媒体・本数・内容を確定し「やる・やらない」の齟齬を防ぐ
納期・投稿スケジュール公開日と締切を固定し、キャンペーン全体の進行を守る
修正回数無限の手直しを防ぎ、双方の工数を守る
報酬・算定方法固定か変動かを明確にし、金額トラブルを防ぐ
支払条件支払時期・方法・源泉徴収の扱いを確定する
二次利用広告・LP・店頭への転用可否と追加報酬を定める
知的財産権・肖像権コンテンツの権利帰属と利用範囲を明確にする
秘密保持未公開情報・戦略の外部漏えいを防ぐ
広告表記(ステマ対応)PR表記を義務づけ景表法リスクから企業を守る
競合避止一定期間の競合商品PRを制限しブランドを守る
違約金・損害賠償無断キャンセルや投稿削除への抑止と補償を定める
中途解約・契約解除炎上・違反時に安全に取引を止める出口を確保する

優先順位のつけ方

すべてを完璧に書き込むのが理想ですが、案件規模によっては簡易化も現実的です。単発・少額なら業務範囲・報酬・二次利用・広告表記を厚めに、継続・高額なら競合避止・違約金・秘密保持まで丁寧に定める、という濃淡のつけ方が実務では有効です。次章以降で、特につまずきやすい項目を掘り下げます。

業務範囲・納期・修正回数の決め方

業務範囲は、契約書の中で最も具体的に書くべき部分です。投稿する媒体(Instagram・YouTube・TikTokなど)、本数、フォーマット(フィード・リール・ストーリーズ)、投稿に必ず含める要素、公開日を数字で確定させます。ここが曖昧だと、他のどの条項もぐらつきます。

業務範囲は「媒体×本数×内容」で書く

たとえば「Instagramリール1本+ストーリーズ3枚、リール本編で商品を必ず30秒以上紹介、指定ハッシュタグを5つ付与」のように、成果物の要件をチェックできる粒度まで落とし込みます。ストーリーズのアーカイブ保存期間や、投稿を一定期間削除しない義務まで書いておくと、後述の二次利用や計測とも整合が取れます。

納期と投稿スケジュール

納期は「初稿提出日」「修正確定日」「公開日」の3つを分けて定めるのがおすすめです。公開日だけを決めていると、直前で初稿が出てきて修正が間に合わない、という事故が起こります。キャンペーンの山場に合わせて逆算し、余裕を持ったスケジュールを契約書に明記してください。

修正回数を必ず上限で区切る

修正回数は上限を定めておくべき項目です。「初稿に対する修正は2回まで、それを超える修正は別途協議」といった形で区切らないと、企業側の細かな手直し要求が無制限に続き、インフルエンサー側の不満と炎上リスクを高めます。逆に回数を明確にしておけば、双方が集中して品質を上げられます。

「自由度」と「ブランド基準」のバランス

細かく指定しすぎると、インフルエンサーらしさが消えて投稿のエンゲージメントが下がります。逆に丸投げするとブランド毀損の恐れがあります。契約書では「必須要素(NGワード・訴求ポイント)」と「表現の自由に委ねる部分」を切り分けて記載し、修正指示も感情的にならない運用を心がけると、成果物の質が安定します。

報酬と支払条件の設計

報酬条項は、金額そのものより「算定方法」と「支払条件」を明確にすることが重要です。報酬の決め方には、あらかじめ額を決める固定報酬と、インプレッション数やいいね数などの成果に単価を掛ける変動報酬があります。どちらを採るか、両者を組み合わせるかを契約書で確定させます。

固定報酬と変動報酬

固定報酬は予算管理がしやすく、単発PRに向いています。変動報酬は成果連動でリスクを抑えられますが、計測方法と確定タイミングを厳密に決めないと後でもめます。変動を採用するなら、計測に使うツール(GA4・専用リンク・クーポンコードなど)と締め日を契約書に書き込んでおくと安全です。相場の考え方は、フォロワー単価などをまとめた料金相場の解説記事もあわせて確認してください。

支払条件と源泉徴収

支払条件では、支払時期(投稿完了後◯日以内・月末締め翌月末払いなど)、支払方法、振込手数料の負担者を定めます。個人のインフルエンサーへの原稿料・出演料は源泉徴収の対象になる場合があるため、報酬が税込か税別か、源泉徴収後の手取りか額面かも明記しておくと、支払時の行き違いを防げます。

キャンセル時の扱い

企業都合・インフルエンサー都合それぞれのキャンセル時に、報酬をどう精算するかも決めておきます。制作着手後のキャンセルは着手分を支払う、公開直前のキャンセルは全額など、段階に応じた取り決めがトラブルを減らします。この点は後述の違約金条項とも連動します。

報酬相場の把握とセットで考える

金額の妥当性を判断するには、フォロワー規模やエンゲージメント率に応じた相場観が欠かせません。相場から大きく外れた報酬は、インフルエンサー側の不信や、社内の予算承認の遅れを招きます。契約書で算定方法を固める前に、想定するインフルエンサーの層に対して報酬がフェアな水準かを確認しておくと、交渉がスムーズに進みます。固定と変動のどちらを主軸にするかも、この相場観をもとに決めると納得感が高まります。

二次利用と権利の取り扱い

二次利用の条項は、インフルエンサー契約で最も見落とされやすく、かつ後からもめやすい部分です。投稿コンテンツの著作権は、原則として制作したインフルエンサー側に帰属します。そのため企業が投稿を広告・LP・店頭POP・別媒体などに転用するには、二次利用の許諾を契約書で得ておく必要があります。

利用範囲・媒体・期間・追加報酬を書き切る

二次利用を認める場合は、どの媒体で(自社SNS・Web広告・店頭)、どの範囲で(トリミング・字幕追加の可否)、どのくらいの期間(6か月・1年・無期限)使えるのかを具体的に定めます。利用料が別途発生するのかも明記します。Castbookの解説でも、利用料や期間を定めておくことの重要性が指摘されています。範囲を曖昧にすると、転用のたびに追加費用を請求されたり、転用自体が違法になったりします。

知的財産権と著作者人格権

権利の帰属は、(1)インフルエンサーに帰属したまま企業が利用許諾を受ける形、(2)成果物の著作権を企業へ譲渡する形、の2通りが基本です。譲渡型でも、著作者人格権は譲渡できないため「著作者人格権を行使しない」旨を定めるのが一般的です。ただし、インフルエンサーが不快に感じる改変にならないよう配慮することも、良好な関係の維持には欠かせません。

肖像権とアーカイブ

インフルエンサー本人が写る写真・動画を二次利用する場合は、肖像権の許諾範囲も忘れずに定めます。あわせて、投稿を一定期間削除しない義務や、契約終了後のアーカイブ扱いを決めておくと、計測データやブランド資産を守れます。

プラットフォーム型なら権利処理を標準化できる

個別交渉で二次利用や権利帰属を毎回ゼロから詰めるのは大きな負担です。Bloomのようなマッチングプラットフォームでは、二次利用や広告表記の条件を取引フローの中で標準化できるため、担当者が条項の抜け漏れに悩む場面を減らせます。運用体制の選び方は自社運用と代理店委託の比較記事も参考になります。

ステマ規制と広告表記の義務

広告表記(PR表記)の義務は、2023年10月に施行されたステマ規制への対応として、いまや契約書の必須条項です。ステマ規制は景品表示法の指定告示で、広告であることを隠した表示を禁止しています。重要なのは、PR表記を怠った場合に原則として責任を負うのが、インフルエンサーではなく広告主である企業だという点です。

責任は原則として企業が負う

インフルエンサーが認識不足からPR表記を付け忘れても、規制対象となり措置命令等のリスクを負うのは企業側です。だからこそ契約書で、PR表記を明確に義務づける必要があります。「委託した投稿である事実を隠さない」「消費者が広告と認識できる表示を行う」ことを、インフルエンサーの義務として明記してください。

表記の位置・サイズ・文言まで指定する

「#PR」「#広告」と付けるだけでなく、表示の具体的な基準まで契約書やガイドラインで定めるのが安全です。たとえば「動画の冒頭から末尾まで、画面に一定サイズ以上の文字でPRと表示する」「本文の冒頭に広告である旨を記載し、折りたたみの奥に隠さない」といった水準です。投稿前チェックの権利も契約に盛り込み、公開前に企業が確認できるようにしておきます。

不適切投稿・炎上時の対応

表記義務違反や不適切な投稿で問題が生じた場合に、企業がインフルエンサーへ削除・修正・再投稿を求められる権利も定めておきます。景表法だけでなく、薬機法・医療広告など商材ごとの表現規制にも触れる場合があるため、NG表現のリストを別紙で共有しておくと安心です。選定段階での見極めについては失敗しない選定7つのポイントも参考にしてください。

秘密保持・競合避止・中途解約

秘密保持・競合避止・中途解約は、継続的な取引や高額案件ほど重要になる条項です。単発の少額案件では簡易にしても、ブランドの根幹に関わる情報や競合関係が絡む場合は、丁寧に設計する価値があります。

秘密保持(NDA)

契約の過程で知り得た未公開の商品情報・販売戦略・価格などを、インフルエンサーが外部に漏らさないよう守秘義務を定めます。発売前の新商品PRなどでは特に重要で、対象となる情報の範囲と、契約終了後も義務が続く期間を明記します。SNSでの言及や自身の考察投稿として漏れるケースもあるため、対象範囲は具体的に書いておきます。

競合避止義務

競合避止を設ける場合は、期間と禁止行為の範囲を明確にします。「投稿後◯か月間、同一カテゴリの競合商品のPRを行わない」といった形です。範囲が広すぎるとインフルエンサーの活動を過度に縛り、合意が得られにくくなるため、守りたい商材とタイミングに絞って設計するのが現実的です。

中途解約・契約解除

契約違反や炎上が起きたときに、安全に取引を止める出口を用意しておきます。無催告解除できる事由(重大な違反・反社会的勢力との関係判明など)と、催告のうえ解除する事由を分けて定めるのが一般的です。解除した場合の報酬精算や、二次利用許諾の巻き戻しについても触れておくと、後処理がスムーズになります。

違約金条項の勘所

違約金条項は、無断キャンセルや投稿の一方的な削除といった違反への抑止と補償のために設けます。ただし一律の相場はなく、報酬額や想定される損害を基準に、合理的な範囲で定めることが大前提です。過大な違約金は公序良俗違反として無効になるおそれがあります。

違反類型ごとに扱いを分ける

ひとくちに違反といっても、公開直前の無断キャンセル、投稿の早期削除、PR表記の欠落、競合避止違反など性質が異なります。すべてを同じ違約金でくくるより、類型ごとに「実損害の賠償」「報酬相当額の返還」などの扱いを分けたほうが、合意も得やすく実効性も高まります。

金額は報酬額を基準に

違約金額は、報酬額の範囲内に収める、あるいは実際に生じた損害を賠償する、という組み立てが無難です。「報酬の◯倍」といった過大な設定は、いざというときに裁判所で無効と判断されれば意味がありません。抑止力と有効性のバランスを取ることが勘所です。

違約金・損害賠償は必ず専門家に確認を

違約金や損害賠償の条項は、金額設定を誤ると無効になったり、逆に相手から不当条項だと反論されたりするリスクが高い部分です。この記事の内容は一般的な考え方の整理であり、個別の契約書の文面については、必ず弁護士など専門家の確認を受けてください。特に高額案件・継続契約では、雛形の流用だけで済ませないことを強くおすすめします。

トラブル別に見る条文の勘所

実際に起きやすいトラブルから逆算すると、どの条項を厚くすべきかが見えてきます。ここでは代表的な4つのトラブルと、それを防ぐ条文の勘所を整理します。

起きやすいトラブル効かせる条項勘所
投稿しない・遅れる業務範囲・納期・違約金初稿/公開日を分けて定め、遅延時の扱いを明記
勝手に投稿を削除された削除禁止期間・違約金最低掲載期間と早期削除時の返還を規定
PR表記漏れで景表法リスク広告表記・投稿前チェック表記基準を数値化し公開前確認の権利を確保
広告に転用したら追加請求二次利用・知的財産権媒体・期間・追加報酬を事前に書き切る

「言った・言わない」を残さない

トラブルの多くは、DMや口頭で合意したつもりの条件が契約書に反映されていないことから生じます。交渉過程で決めた細かな条件は、必ず契約書か別紙のガイドラインに落とし込み、双方が同じ文面を持っている状態を作ることが、最大の予防策になります。合意のたびにスクリーンショットやメールで履歴を残す習慣も、いざというときの証拠として役立ちます。とりわけ金額や納期の変更は、口頭やDMだけで済ませず、必ず書面またはメールで相互に確認し合う運用にしておくと安心です。

電子契約でスピードと証跡を両立

紙の契約書は締結に時間がかかり、キャンペーンのスピードに合わないことがあります。電子契約サービスを使えば、締結の証跡を残しつつ短時間で合意できます。少額・多数の案件を回す場合は、テンプレート化した契約書を電子で締結する運用が現実的です。

別紙ガイドラインで運用を補う

契約書本体をシンプルに保ちながら、細かな運用ルールは別紙のガイドラインに切り出すのも有効です。NGワード、PR表記の見本画像、投稿前チェックの提出先や締切といった実務的な内容は、契約書ではなくガイドラインにまとめたほうが更新しやすく、インフルエンサーにも伝わりやすくなります。契約書とガイドラインを一体の合意として扱う旨を本文に明記しておけば、両者の効力もそろい、運用中の細かな追加ルールにも柔軟に対応できます。

雛形の考え方と法務確認

雛形(テンプレート)は、あくまで出発点として活用するのが正しい使い方です。ネット上や電子契約サービスには無料のインフルエンサー契約書テンプレートが多数ありますが、そのまま使うのではなく、自社の商材・起用条件・リスクに合わせて必ずカスタマイズする前提で扱ってください。

雛形をカスタマイズする観点

実務チェックリスト

締結前に、以下のチェックリストで抜け漏れを確認すると安全です。

迷ったら専門家と標準フローの二本立てで

初回や高額案件は弁護士に文面を確認してもらい、日常の少額・多数案件はテンプレート化した契約書とプラットフォームの標準フローで回す、という二本立てが効率的です。契約の型ができれば、担当者の負担を抑えつつリスクを一定水準に保てます。


契約の準備が整ったら、次は起用そのものの精度を高める段階です。誰に頼むかで迷っている方は失敗しないインフルエンサー選定7つのポイントを、自社運用と代理店委託のどちらで進めるか整理したい方は自社運用 vs 代理店委託の完全ガイドを、そもそもの全体像をつかみたい方はインフルエンサーマーケティングの基礎ガイドをあわせてご覧ください。

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