インフルエンサーに報酬の代わりとして商品やサービスを提供する「バーター取引」は、金銭の支払いを抑えて施策を始められる方法として多くの企業が取り入れています。一方で、提供する商品をいくらと見積もるのか、その価値でどこまで投稿を依頼してよいのかが曖昧なまま進めると、依頼範囲が膨らんで相手との関係がこじれたり、#PR表記の抜けで景品表示法のリスクを負ったりします。本記事では、現物提供の評価額を定価・実勢価格・原価のどれで決めるか、評価額に見合う投稿本数と二次利用の範囲、追加の金銭報酬との組み合わせ方、契約書に書く条件までを、発注する企業の担当者向けに実務手順で解説します(2026年10月時点の情報です)。
この記事の要点
- インフルエンサーとのバーター取引とは、金銭報酬の代わりに商品やサービスを提供し、その対価として投稿などの協力を受ける取引です。
- 評価額は「インフルエンサーが同じ物を買う場合の実勢価格」を基準にし、定価は上限、原価は自社のコスト管理用として分けて扱います。
- 依頼してよい範囲は、評価額と「有償で依頼した場合の想定報酬」の差で決めます。差が大きいときは依頼を減らすか、金銭報酬を足して埋めます。
- 商品提供のみのバーター取引でも、投稿を依頼していれば景品表示法のステマ規制の対象となり、#PRなどの広告表示が必要です。
- 二次利用・独占・修正回数は評価額に含めず、別の対価として扱うのが揉めない設計です。
バーター取引の定義と現物提供が報酬になる仕組み
インフルエンサーとのバーター取引とは、企業が金銭の代わりに自社の商品・サービスを提供し、インフルエンサーがその対価として投稿やレビューなどの協力を行う取引です。英語の barter(物々交換)に由来する言葉で、インフルエンサー施策では「商品提供のみ」「無償提供案件」「現物支給」などとも呼ばれます。お金が動かないため気軽な取引に見えますが、法律上・実務上は「商品という対価を払って投稿を依頼する」取引であり、有償のPR依頼と同じように条件を決める必要があります。
ギフティングとの違い
バーター取引とギフティングは重なる部分が大きいものの、本記事では「投稿の有無や内容について約束があるかどうか」で区別します。ギフティングは商品を贈り、投稿するかどうかを相手に委ねる施策として語られることが多く、投稿率をどう上げるかが論点になります。一方のバーター取引は、提供する商品の価値と引き換えに「フィード投稿1本」「ストーリーズ2本」といった成果物を約束してもらう取引です。ギフティング全体の進め方はギフティング施策の進め方と投稿獲得率を上げるコツで解説しているため、本記事では「提供する商品をいくらと見積もり、その金額でどこまで依頼してよいか」に絞って整理します。
現物が「報酬」として扱われる理由
現物提供が報酬として扱われるのは、インフルエンサーが本来ならお金を払って手に入れる物を、投稿の見返りとして受け取っているからです。インフルエンサーにとっては「1万円分の商品を受け取った」のと同じ経済的な利益があり、企業にとっても「商品の原価と送料を負担して投稿を得た」という取引になります。この経済的な価値に金額を付けたものが本記事でいう評価額で、依頼範囲の判断、契約書の記載、会計・税務の処理のすべてがこの評価額を起点に動きます。
評価額を決めないまま進めるリスク
評価額を決めずにバーター取引を進めると、依頼範囲が際限なく膨らみやすくなります。「商品をお送りするので、投稿とストーリーズと、できればリールも」と追加を重ねるうちに、有償で依頼すれば数万円かかる内容を数千円分の商品で求めてしまうことがあります。インフルエンサー側から見ると割に合わない依頼になり、投稿の質が落ちたり、途中で連絡が途絶えたりする原因になります。最初に評価額を決めることは、企業の都合だけでなく、相手との公平な関係を保つための手順でもあります。
バーター取引が向く商材と向かない商材
バーター取引が向いているのは、インフルエンサー本人が「欲しい」と感じる価値があり、実勢価格がはっきりしている商材です。反対に、価格が低すぎる商材や、本人の生活に合わない商材は、評価額が低く見積もられ、依頼できる範囲も狭くなります。まず自社の商材がどちらに近いかを確認しておくと、バーター取引にするか、金銭報酬を組み合わせるかの判断が早くなります。
バーター取引が向く商材の特徴
向いている商材の典型は、単価がある程度高く、インフルエンサーの発信ジャンルと合っているものです。たとえば、美容家電・スキンケアのセット・アパレル・寝具・家具・体験型サービス(宿泊、エステ、レッスンなど)は、受け取る側にとって実際に使いたい物であり、評価額も数千円から数万円の範囲に収まりやすい商材です。発売前の新商品や限定品など、一般には手に入りにくい物も、市場価格以上の魅力を感じてもらえることがあります。
バーター取引が向かない商材の特徴
向いていないのは、数百円から千円台の消耗品、本人の生活と関係が薄い商材、受け取っても転売しにくく保管に困る大型品などです。こうした商材は、評価額が低いか、受け取る側が価値を感じにくいため、投稿1本の依頼でも釣り合わなくなります。この場合は、金銭報酬を中心に置き、商品はレビューのための貸与やサンプルとして扱う方が自然です。
| 商材のタイプ | 評価額の目安 | バーター取引との相性 | おすすめの進め方 |
|---|---|---|---|
| 美容家電・高価格スキンケア | 1万〜5万円台 | 非常に向いている | 現物のみ、またはフォロワー規模に応じて少額の金銭を追加 |
| アパレル・雑貨 | 数千円〜2万円台 | 向いている | 複数点の組み合わせで評価額を上げる |
| 宿泊・体験サービス | 1万〜数万円 | 向いている | 同伴者分の扱いと交通費の負担を事前に決める |
| 食品・日用品の消耗品 | 数百円〜数千円 | あまり向いていない | 金銭報酬を中心にし、商品はサンプル扱い |
| BtoB商材・大型設備 | 算出が難しい | 向いていない | 金銭報酬で依頼し、商品は貸与にする |
※評価額の目安は一般的な小売価格帯から整理した参考値です(2026年10月時点・Bloom編集部調べ)。個々の商品の評価額は次章の手順で算出してください。
評価額の基準となる4つの価格
バーター取引の評価額は、原則として「インフルエンサーが同じ物を自分で買う場合に支払う実勢価格」を基準にするのが妥当です。ただし、商品には定価・実勢価格・原価・本人にとっての主観的な価値という4つの価格があり、目的によって使い分ける必要があります。どの価格をどの場面で使うかを社内で決めておかないと、担当者ごとに評価額がばらつき、インフルエンサーとの交渉でも説明がつかなくなります。
定価(希望小売価格)
定価は、メーカーが設定した希望小売価格や自社ECでの通常価格です。インフルエンサーに提示しやすく分かりやすい一方で、セールや他店での値引きが常態化している商品では、実際の価値より高く見えてしまいます。定価をそのまま評価額にすると、依頼範囲が過大になりやすいため、評価額の「上限」として扱うのが安全です。
実勢価格(市場で実際に売られている価格)
実勢価格は、主要なECモールや店頭で、消費者が実際に支払っている価格です。インフルエンサーが受け取る経済的な利益に最も近い数字であり、税務上の「時価」の考え方とも整合しやすいため、評価額の基準に向いています。調べる際は、自社EC・主要モール・量販店の販売価格を確認し、ポイント還元を除いた支払額のうち、一般的な水準を採用します。
原価と主観的な価値
原価(製造原価や仕入原価)に送料・梱包費を足した金額は、企業が実際に負担するコストです。評価額としてインフルエンサーに示す数字ではなく、施策の費用対効果を測るための社内管理用の数字として使います。もう一つの主観的な価値は、受け取る本人が感じる価値で、限定品やまだ発売されていない商品では実勢価格を上回ることがあります。主観的な価値は金額にできないため評価額には含めず、交渉の場で「金銭以外の魅力」として伝える材料にとどめます。
| 価格の種類 | 中身 | 主な使い道 | 評価額としての扱い |
|---|---|---|---|
| 定価 | 希望小売価格・自社ECの通常価格 | インフルエンサーへの説明 | 上限として参照する |
| 実勢価格 | 主要ECや店頭で実際に支払われる価格 | 評価額の基準・契約書への記載 | 原則としてこれを採用する |
| 原価+送料 | 製造・仕入原価と発送コスト | 社内の費用対効果の管理 | 評価額には使わない |
| 主観的な価値 | 本人が感じる希少性や欲しさ | 交渉時の訴求材料 | 金額には含めない |
評価額は「実勢価格」、費用管理は「原価」で分ける
インフルエンサーに示す評価額と、社内で管理する費用は別の数字です。評価額を原価で示すと相手から見て過小に見え、定価で示すと依頼範囲が過大になります。評価額は実勢価格、費用対効果の計算は原価+送料、と使い分けを社内ルールにしておくと、担当者が変わってもぶれません。
評価額を算出する5つの手順
評価額の算出は、「実勢価格を調べる」「提供点数と付随費用を足す」「有償で依頼した場合の想定報酬と比べる」「差を埋める方法を決める」「書面に残す」の5段階で進めると迷いません。順番を決めておけば、案件ごとに数分で評価額と依頼範囲の目安を出せるようになります。ここでは手順を説明したうえで、架空の商品を使った計算例を示します。
手順1〜2:実勢価格と付随費用の積み上げ
最初に、提供する商品の実勢価格を主要な販売チャネルで確認し、提供する点数分を合計します。次に、インフルエンサーが受け取る経済的な利益として、同梱する付属品や、体験サービスの場合の交通費・同伴者分の費用など、本人の負担を減らすものを加えます。一方、企業側の送料や梱包費は本人の利益ではないため、評価額には含めず、社内の費用として別に管理します。
手順3〜4:想定報酬との比較と差の埋め方
次に、同じ内容を金銭で依頼した場合の想定報酬を出します。インスタグラムのフィード投稿では、1フォロワーあたり2〜4円が目安とされており(2026年10月時点・当メディアの料金相場記事での整理)、詳しい相場はインフルエンサー起用の料金相場【2026年完全ガイド】で整理しています。評価額が想定報酬を上回っていれば現物のみで依頼してよく、下回っている場合は「依頼範囲を減らす」か「差額を金銭で補う」かのどちらかを選びます。
手順5と計算例:書面に残す
最後に、評価額の根拠(どの価格を採用したか、何点を提供するか)と依頼範囲を、依頼書や契約書に記載します。ここで、実勢価格9,900円の美容液を、フォロワー2万人のインフルエンサーに提供する場合を計算例として考えます(数値は説明用の架空例です)。フォロワー単価2円で見ると、フィード投稿1本の想定報酬は4万円で、評価額との差は約3万円です。この差を埋めるには、依頼をストーリーズ投稿中心に減らすか、金銭報酬を足すか、関連商品を追加して評価額を上げるかのいずれかを選ぶことになります。
| 項目 | 計算例(架空) | メモ |
|---|---|---|
| 提供商品の実勢価格 | 9,900円 | 主要ECの一般的な販売価格を採用 |
| 付随する本人の利益 | 0円 | 付属品・交通費などがあれば加算 |
| 評価額 | 9,900円 | 契約書・依頼書に記載する金額 |
| 有償の場合の想定報酬 | 40,000円 | フォロワー2万人×単価2円・フィード1本 |
| 差額 | 約30,000円 | 依頼の縮小・金銭追加・商品追加で調整 |
| 社内の費用(参考) | 原価+送料 | 評価額とは別に費用対効果の管理に使う |
評価額に見合う依頼範囲の決め方
依頼範囲は、評価額で「何本・どの形式の投稿を頼めるか」を決め、二次利用や独占などの追加の権利は評価額とは別枠で扱うのが基本です。投稿の本数と形式は相手の制作の手間に直結し、二次利用や独占は相手の将来の仕事に影響します。この2つを同じ評価額の中で混ぜてしまうと、相手に不利な条件になりやすく、交渉もこじれます。
投稿本数と形式の目安
手間の小さい順に並べると、ストーリーズ投稿、フィードの静止画投稿、カルーセル投稿、リールやショート動画、YouTubeの単独レビュー動画となります。評価額が想定報酬の半分に満たない場合は、ストーリーズ投稿やフィード1本に絞るのが現実的です。動画の撮影・編集を伴う依頼は制作工数が大きいため、現物のみのバーター取引では成立しにくく、金銭報酬との組み合わせを前提に考えます。本数の考え方はインフルエンサー施策の投稿本数を決める考え方と配分方法も参考になります。
| 評価額と想定報酬の関係 | 依頼してよい範囲の目安 | 避けたい依頼 |
|---|---|---|
| 評価額が想定報酬を上回る | フィード1本+ストーリーズ1〜2本 | 二次利用や独占を無償で付ける |
| 評価額が想定報酬の半分〜同程度 | フィード1本、またはストーリーズ2本 | リールなど動画の制作 |
| 評価額が想定報酬の半分未満 | ストーリーズ1本、または投稿は任意 | 本数の指定・投稿日の厳密な指定 |
| 評価額が数千円未満 | 投稿は任意(ギフティングとして扱う) | 投稿義務を課すこと |
※目安はBloom編集部による実務上の整理です(2026年10月時点)。媒体・ジャンル・フォロワー規模により調整してください。
二次利用・広告転用の扱い
投稿を自社サイト、ECの商品ページ、SNS広告などに転用する二次利用は、評価額とは別の対価として扱うのが原則です。二次利用は、インフルエンサーの写真や動画を企業の広告として使う行為であり、肖像権や著作権の許諾が必要になります。バーター取引で「投稿したら自由に使ってよい」と一括で取り決めると、相手が内容を十分に理解しないまま合意し、後の揉め事につながります。媒体・期間・地域・改変の範囲を決める考え方はインフルエンサー投稿の肖像権・著作権対応と二次利用の範囲で詳しく解説しています。
修正回数・投稿期間・独占の扱い
修正回数、投稿の掲載期間、競合商品の紹介を控えてもらう独占条項も、依頼範囲に含まれる条件です。現物のみのバーター取引では、修正は1回まで、掲載期間は削除しない限り定めない、独占は付けない、という軽い条件にとどめるのが一般的な落としどころです。競合排除の期間を設けたい場合や、修正を複数回求めたい場合は、その分を金銭報酬で上乗せすると、相手の納得感を保てます。
追加の金銭報酬との組み合わせ設計
評価額だけで依頼範囲を賄えないときは、商品提供に金銭報酬を組み合わせる「ハイブリッド型」にするのが最も揉めにくい方法です。現物のみで依頼範囲を広げようとすると、相手の負担と受け取る価値が釣り合わず、投稿の質や進行に影響します。金銭を少額でも加えることで、相手にとって「仕事として受ける案件」になり、締め切りや修正対応への協力も得やすくなります。
4つの組み合わせパターン
組み合わせ方は、現物のみ、現物+固定の金銭、現物+成果報酬、金銭のみ(商品は貸与やサンプル)の4つに整理できます。どのパターンを選ぶかは、評価額と想定報酬の差、求める成果物の量、二次利用の有無で決まります。成果報酬は売上と連動するため企業のリスクが小さい一方、相手にとっては収入が読めないため、固定の金銭と組み合わせて使う方が受け入れられやすくなります。成果報酬の料率の考え方は成果報酬型インフルエンサー施策の仕組みと料率相場・設計の実務で解説しています。
| パターン | 向いている場面 | 依頼できる範囲 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 現物のみ | 評価額が想定報酬を上回る・ナノ層中心 | フィード1本前後 | 二次利用・独占は付けない |
| 現物+固定の金銭 | 評価額が想定報酬に届かない | 差額分だけ依頼を広げられる | 金銭部分は取引条件の明示と支払期日の管理が必要 |
| 現物+成果報酬 | EC販売でクーポンやリンクを計測できる | 投稿+販売導線の設置 | 計測方法と支払条件を事前に合意する |
| 金銭のみ(商品は貸与) | 高額商品・BtoB商材・動画制作 | 動画や二次利用を含む広い範囲 | 貸与品の返却方法と期限を決める |
差額を金銭で補うときの計算
差額を金銭で補う場合は、「想定報酬-評価額」を基本の金銭報酬とし、二次利用や独占を付ける場合はその分を別に加算します。先ほどの計算例でいえば、想定報酬4万円から評価額9,900円を引いた約3万円が基本の金銭報酬となり、二次利用を3か月付けるなら、その対価を別途上乗せします。こうして内訳を分けておくと、次回以降に条件を変えるときも、どの部分を増減したかが相手に伝わりやすくなります。
フォロワー規模別の考え方
フォロワー規模が小さいほど、現物のみのバーター取引が成立しやすくなります。ナノインフルエンサー(1万人未満)は想定報酬が低く、評価額数千円〜1万円台の商品でも釣り合うことが多いためです。マイクロ層(1万〜10万人)では評価額だけでは届かないことが増え、ミドル層以上では金銭報酬が中心になり、商品は使用感を伝えるための提供と位置づけるのが一般的です。
「少額でも金銭を足す」と進行が安定する
現物のみの案件は、相手にとって優先度が下がりやすく、締め切りの遅れや連絡の途絶が起きやすい傾向があります。評価額と想定報酬の差が小さい場合でも、数千円の金銭報酬を足すだけで「仕事として受けた案件」という意識が生まれ、進行が安定しやすくなります。
ステマ規制と無償提供でも必要な広告表示
商品提供のみのバーター取引であっても、企業が投稿を依頼していれば、その投稿は景品表示法上の「事業者の表示」に当たり、#PRなどの広告であることの明示が必要です。2023年10月1日に施行されたステルスマーケティング規制(景品表示法第5条第3号に基づく告示)は、金銭の支払いの有無ではなく、企業が表示内容の決定に関与しているかどうかで判断されます。「お金を払っていないから広告ではない」という考え方は通用しません。
消費者庁の運用基準での位置づけ
消費者庁が公表している運用基準(「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」の運用基準)では、事業者が第三者に物品を無償で提供し、その第三者に表示を依頼する場合などが、事業者の表示に当たる例として整理されています。また、明示的な依頼がなくても、対価の提供などを通じて表示内容を事業者が決められる関係にあれば、事業者の表示と判断されることがあります。規制の全体像と表記方法はステマ規制とは?景表法対応と#PR表記の実務ガイドで詳しく整理しています。
表示のしかたと企業の責任
表示は、投稿の冒頭やキャプションの最初など、一般消費者がすぐに気づく位置に「#PR」「#プロモーション」「#広告」などの文言と、企業名やブランド名を記載するのが基本です。ステマ規制の規制対象は広告主である企業であり、インフルエンサーが表記を忘れた場合でも、企業が措置命令を受ける可能性があります。2024年6月には、消費者庁がステマ規制に基づく初の措置命令を医療機関に対して行っており、規制は実際に運用されています。
バーター取引で起きやすい表示の抜け
バーター取引で特に起きやすいのは、「商品をもらっただけなので#PRは不要だと思った」という相手側の誤解と、「投稿は任意だから表示の指示はしなくてよい」という企業側の誤解です。投稿を約束してもらう取引では、依頼書と契約書の両方に表示の義務と表記の位置を明記し、投稿の確認時に表示が入っているかを必ずチェックします。投稿を任意とするギフティングでも、投稿された場合の表記方法をあらかじめ伝えておくと安全です。
「#PRなしで投稿します」という提案は受けない
インフルエンサー側から「商品をいただければ、#PRを付けずに自然に紹介します」と提案されることがあります。企業が依頼や対価の提供に関わっている以上、この提案を受けると企業側がステマ規制の違反リスクを負います。表示は必須の条件として、提案があった時点ではっきり断ることが大切です。
契約書・依頼書に書く条件とフリーランス法の注意点
バーター取引でも、評価額・提供内容・依頼範囲・表示義務・権利の扱いの5点は、必ず書面で合意しておくべき条件です。お金が動かない取引は口約束で済ませがちですが、後から「投稿が来ない」「二次利用していいと言われていない」といったトラブルになったとき、書面がなければ双方の認識を確かめる手段がありません。契約書の全体の作り方はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目で整理しています。
書面に必ず入れる項目
最低限、次の項目を依頼書や契約書に記載します。評価額とその根拠になった価格、提供する商品の内容・点数・発送時期、投稿の本数・形式・投稿期間、#PRなどの表示の義務と位置、修正の回数、二次利用の可否と範囲、投稿されなかった場合の扱いの7点です。特に最後の「投稿されなかった場合」は見落とされやすく、商品を返送してもらうのか、評価額相当を支払ってもらうのか、何も求めないのかを事前に決めておくと揉めません。
| 項目 | 記載例 | 決めておく理由 |
|---|---|---|
| 評価額と根拠 | 実勢価格9,900円(税込)×1点 | 依頼範囲と税務処理の起点になる |
| 提供内容 | 商品名・点数・発送予定日 | 届いた・届かないの行き違いを防ぐ |
| 依頼範囲 | フィード1本・ストーリーズ1本 | 追加依頼の歯止めになる |
| 広告表示 | 冒頭に#PRと企業名を記載 | ステマ規制への対応 |
| 修正回数 | 1回まで | 相手の作業負担を明確にする |
| 二次利用 | なし、または別途協議 | 権利の無断利用を防ぐ |
| 未投稿時の扱い | 商品返送、または取り扱いなし | トラブル時の判断基準になる |
フリーランス法との関係
2024年11月1日に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)では、個人のフリーランスに業務を委託する企業に、給付の内容や報酬の額などの取引条件を書面やメールで明示する義務が課されています。金銭報酬を組み合わせるハイブリッド型では、金銭部分の支払期日を給付の受領から60日以内に設定するなどの対応も必要です。現物のみの取引がどこまで同法の対象になるかは個別に確認が必要ですが、条件を書面で明示しておくこと自体はトラブル予防として有効です。発注者側の義務の詳細はフリーランス法の発注者義務とインフルエンサー発注の実務を参照してください。
交渉時に避けたい依頼の仕方
評価額を実勢価格より高く見せて依頼範囲を広げる、投稿の後になって二次利用を求める、受け取った後で依頼内容を増やす、といった進め方は避けるべきです。相手の信頼を失うだけでなく、立場の差を利用した不当な条件変更と受け取られるおそれがあります。条件を変えたい場合は、変更内容に見合う対価を示したうえで、改めて合意を取り直します。報酬交渉の進め方はインフルエンサー報酬の条件交渉の進め方と合意のまとめ方でも解説しています。
会計・税務の扱いの概要
バーター取引の会計・税務は、企業側では提供した商品の原価を広告宣伝費などに振り替える処理、インフルエンサー側では受け取った商品の時価を収入として計上する処理が基本です。お金の支払いがなくても取引自体は存在するため、評価額を書面で残しておくことが、双方の処理の根拠になります。本記事では概要にとどめ、具体的な仕訳や勘定科目は専門記事に譲ります。
企業側の処理の概要
企業側では、在庫として計上していた商品を投稿の対価として提供した場合、その原価を棚卸資産から広告宣伝費や販売促進費などに振り替えるのが一般的な処理です。金銭報酬を組み合わせた場合は、金銭部分と現物部分を分けて記録します。勘定科目の選び方や計上時期、交際費との線引きはインフルエンサー報酬の会計処理と経費計上の実務ポイントで解説しています。
インフルエンサー側の処理と源泉徴収の論点
インフルエンサー側では、所得税法上、収入金額には金銭以外の物や経済的な利益も含まれるため、受け取った商品の時価を事業所得や雑所得の収入として計上する必要があります。企業が評価額を書面で伝えておくと、相手が申告の際に金額を判断しやすくなります。また、現物で支払う報酬が源泉徴収の対象となる「報酬・料金」に当たるかは実務家の間でも議論のある論点として報じられているため、金銭報酬を組み合わせる場合も含め、税理士に確認したうえで処理を決めてください。源泉徴収とインボイスの基本はインフルエンサー報酬の源泉徴収とインボイス対応の実務で整理しています。
バーター取引を運用するチェックリスト
バーター取引を継続的に運用するには、評価額の基準・依頼範囲の上限・表示の確認の3点を社内ルールとして固定し、案件ごとに同じ手順で判断できるようにすることが重要です。担当者の感覚で条件を決めていると、同じ商品でも人によって依頼範囲が変わり、インフルエンサーの間で不公平感が生まれます。ここでは、依頼前・投稿前後に確認すべき項目をまとめます。
依頼前のチェック項目
依頼の前には、次の項目を確認します。いずれも数分で確認できる内容ですが、抜けると後から修正するのが難しいものばかりです。
依頼前チェックリスト
- 評価額を実勢価格で算出し、根拠となる価格と調べた日を記録したか
- 有償で依頼した場合の想定報酬と比べ、差額の扱い(依頼の縮小・金銭追加・商品追加)を決めたか
- 投稿の本数・形式・投稿期間を評価額の範囲に収めたか
- 二次利用・独占・追加の修正を評価額に含めず、別枠にしたか
- #PRなどの表示の義務と位置を依頼書と契約書に明記したか
- 投稿されなかった場合の扱いを決めたか
投稿前後のチェック項目
投稿の前には、下書きの段階で広告表示が冒頭に入っているか、薬機法などの業界規制に抵触する表現がないかを確認します。投稿の後は、合意した本数・形式どおりに投稿されたか、表示が消されていないかを記録し、成果(保存数・クリック数・売上)を評価額と比べて費用対効果を振り返ります。評価額に対して成果が大きかった相手には、次回は金銭報酬を加えた条件で継続起用を打診するなど、関係を深める判断につなげます。
プラットフォームを使うと効率化できる部分
バーター取引の件数が増えると、商品の発送管理、依頼条件の送付、投稿と表示の確認、成果の記録を手作業で回すのは負担が大きくなります。インフルエンサーのマッチングプラットフォームを使えば、提供する商品と依頼条件を示して応募を募り、やり取りや投稿の記録を一か所にまとめられます。評価額と依頼範囲を募集の段階で明示しておけば、条件に納得した人だけが応募するため、後からの条件の食い違いも起きにくくなります。
本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム『Bloom』(株式会社ハーマンドット)が運営しています。