個人のインフルエンサーにSNSのDMで直接発注している企業にとって、2024年11月1日に施行されたフリーランス法は避けて通れない法律です。支払期日60日はいつから数えるのか、発注条件はどこまで書けばよいのか、成果が出なかったときに報酬を調整してよいのか。本記事では、公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省の一次情報をもとに、発注企業が負う取引適正化の義務と就業環境整備の義務を、インフルエンサー案件の実務に落とし込んで解説します。個人への直接発注と事務所経由の違い、業務委託期間1か月・6か月で増える義務、2026年9月時点で公表されている執行状況まで、発注フローを見直すための判断材料をまとめました。

この記事の要点

  • フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は2024年11月1日に施行され、従業員を使用しない個人インフルエンサーへの発注は原則として対象になります。
  • 従業員を使用する発注企業には、取引条件の明示、受領日から60日以内の支払期日の設定と支払い、募集情報の的確表示、ハラスメント対策の体制整備が、発注期間を問わず義務づけられます。
  • 1か月以上の発注では減額・買いたたき・不当なやり直しなど7つの行為が禁止され、6か月以上の継続的な発注では育児介護等への配慮と、解除・不更新の30日前予告が加わります。
  • 支払期日の起算点は請求書の受領日ではなく、給付を受領した日(役務の場合は提供を受けた日)です。公正取引委員会の令和7年度の運用状況では、指導・勧告の対象となった違反行為の約4割が支払期日違反でした。
  • 事務所や代理店を通す場合は、原則として発注企業ではなく、個人に業務を委託する事務所側が法の義務を負います。

フリーランス法の概要とインフルエンサー発注が対象になる理由

個人のインフルエンサーにPR投稿を依頼する取引は、フリーランス法の「業務委託」に該当し、発注企業には法律上の義務が生じます。フリーランス法とは、個人で事業を営むフリーランスと発注事業者との取引を適正化し、フリーランスの就業環境を整備するために制定された法律で、正式名称を「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」といいます。2024年11月1日に施行され、公正取引委員会・中小企業庁が取引の適正化を、厚生労働省が就業環境の整備を主に所管しています。条文はe-Gov法令検索で、制度の全体像は公正取引委員会のフリーランス法特設サイトで確認できます。

法律の目的と2つの柱

フリーランス法の規制は「取引の適正化」と「就業環境の整備」の2つで構成されています。取引の適正化は、取引条件の明示、報酬の支払期日、発注事業者の禁止行為を定めた第2章(第3条〜第11条)です。就業環境の整備は、募集情報の的確表示、育児介護等への配慮、ハラスメント対策、解除等の予告を定めた第3章(第12条〜第20条)です。インフルエンサー施策の担当者は、前者を「発注と支払いのルール」、後者を「募集とコミュニケーションのルール」と捉えると整理しやすくなります。

インフルエンサー起用が業務委託にあたる場面

法律上の業務委託とは、事業者がその事業のために他の事業者へ、物品の製造、情報成果物の作成、または役務の提供を委託することです(第2条第3項)。情報成果物には映像や文字・図形で構成されるものが含まれるため、PR動画や画像の制作を依頼する場合は情報成果物の作成委託にあたりえます。また、自身のアカウントで紹介投稿をしてもらう場合は、役務の提供委託として整理されることが考えられます。厚生労働省の資料では、法の対象となる業務委託に業種・業界の限定はないと明記されています。どちらの類型に当たるかで後述する支払期日の起算日の考え方が変わるため、契約前に委託内容を言語化しておくことが重要です。

なお、インフルエンサー本人が会社員で、副業として発信活動をしている場合でも、その活動について事業者として業務委託を受けていれば特定受託事業者に該当すると厚生労働省の資料で説明されています。本業が会社員かどうかは判断材料になりません。

源泉徴収・契約書・ステマ規制との守備範囲の違い

インフルエンサーへの発注には複数の法律が同時に関わりますが、フリーランス法が扱うのは「発注者がフリーランスをどう扱うか」という取引ルールです。税務や広告表示のルールとは法域が異なるため、それぞれ別に対応する必要があります。

論点主な根拠発注企業が見るべき点詳しい解説
取引条件・支払期日・禁止行為フリーランス法 第2章明示事項、60日以内の支払い、減額ややり直しの禁止本記事
募集・ハラスメント・解除予告フリーランス法 第3章募集文面、相談体制、30日前予告本記事
報酬の税務処理所得税法・消費税法源泉徴収の要否、インボイス対応源泉徴収とインボイスの記事
契約内容の設計民法・著作権法など業務範囲、二次利用、秘密保持契約書の記事
PR表記景品表示法(ステマ告示)広告であることの明示ステマ規制の記事

税務処理はインフルエンサー報酬の源泉徴収とインボイス対応の実務、PR表記はステマ規制と#PR表記の実務ガイドで整理しています。本記事ではフリーランス法に絞って解説します。

発注者に課される義務の全体像と期間別の適用範囲

発注企業が負う義務は、「発注企業に従業員がいるか」と「業務委託の期間が1か月以上か、6か月以上か」の2つの軸で決まります。すべての義務が一律にかかるわけではないため、自社の発注がどの区分に入るかを最初に確認してください。

発注者の類型で変わる義務

法律は発注者を「業務委託事業者」と「特定業務委託事業者」に分けています。業務委託事業者とは、特定受託事業者に業務委託をするすべての事業者です。特定業務委託事業者とは、そのうち従業員を使用する個人、または2人以上の役員がいるか従業員を使用する法人を指します(第2条第5項・第6項)。ここでいう「従業員を使用」とは、1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ31日以上の雇用が見込まれる労働者を雇用していることです(公正取引委員会Q&A)。

一般的な企業が発注する場合は特定業務委託事業者に該当するため、本記事で解説する義務の大半が適用されます。一方、従業員のいない一人社長の会社が発注する場合は業務委託事業者にとどまり、課される義務は取引条件の明示義務のみです。

業務委託期間1か月・6か月で増える義務

特定業務委託事業者の義務は、業務委託の期間によって段階的に増えます。取引の適正化では1か月以上、就業環境の整備では6か月以上が基準です。2026年9月時点で厚生労働省・公正取引委員会の資料に示されている適用関係は次のとおりです。

義務・禁止行為条文従業員なしの発注者従業員ありの発注者(期間問わず)1か月以上6か月以上
取引条件の明示義務第3条
期日における報酬支払義務(60日以内)第4条
募集情報の的確表示義務第12条
ハラスメント対策に係る体制整備義務第14条
7つの禁止行為第5条
育児介護等と業務の両立への配慮義務第13条努力義務努力義務
中途解除等の事前予告・理由開示義務第16条

注意したいのは、募集情報の的確表示とハラスメント対策の体制整備には期間の要件がないことです。単発のPR投稿1本だけの発注であっても、従業員のいる企業であればこの2つの義務がかかります。

期間の数え方と契約更新の通算

期間は、業務委託をした日(基本契約がある場合は基本契約の締結日のうち早い日)から、給付受領予定日や契約終了日のうち遅い日までで数えます。たとえば9月1日に発注して9月20日に投稿してもらう単発案件は1か月未満ですが、3か月の基本契約を結んで毎月投稿を依頼する場合は、個々の投稿が短くても1か月以上の業務委託になります。

さらに、同じ当事者で内容に一定の同一性がある契約を、空白期間1か月未満で更新した場合は期間が通算されます。3か月契約を2回更新したアンバサダー契約は、合計で6か月以上の継続的業務委託として扱われる可能性があります。厚生労働省の資料では、義務を逃れるために空白期間を1か月と1日だけ空けるような運用は法の趣旨を没却するものであり望ましくないとされています。

個人発注と事務所・法人経由で変わる適用関係

フリーランス法の保護対象になるかどうかは、「誰と契約しているか」で決まります。同じインフルエンサーを起用する場合でも、個人と直接契約するか、事務所や代理店と契約するかで、発注企業が負う義務は変わります。

個人インフルエンサーへ直接発注する場合

保護対象となる特定受託事業者とは、業務委託の相手方である事業者のうち、従業員を使用しない個人、または代表者以外に役員がおらず従業員を使用しない法人です(第2条第1項)。SNSのDMで個人に直接依頼し、個人名義の口座へ報酬を振り込む取引は、相手が従業員を雇っていない限り法の対象になります。

相手に従業員がいるかどうかは、業務委託をする時点で確認します。公正取引委員会のQ&Aでは、電子メールなど記録が残る方法で確認することが望ましいとされています。発注時のヒアリングシートに「従業員(週20時間以上・31日以上の雇用見込み)の有無」を1項目加えておくと、判断の記録が残ります。

一人法人・マネージャーを雇う場合

インフルエンサーが法人化していても、代表者1人だけで他に役員がおらず従業員もいなければ、特定受託事業者に該当します。「法人だから対象外」と判断するのは誤りです。反対に、個人事業主であっても、編集スタッフやマネージャーを週20時間以上・31日以上の見込みで雇用していれば、特定受託事業者には該当しません。なお、事業に同居親族のみを使用している場合は「従業員を使用」に該当しないと厚生労働省の資料で説明されています。

事務所・代理店・プラットフォームを通す場合

従業員のいる事務所や代理店と契約する場合、発注企業と事務所の取引はフリーランス法の対象になりません。その代わり、事務所が所属インフルエンサー個人へ業務を再委託していれば、事務所側が特定業務委託事業者として義務を負います。単に仲介しているだけの事業者は業務委託事業者に該当しませんが、委託内容への関与、相手方の選定、報酬額の決定への関与などから、実質的に業務委託をしていると判断される場合は該当します(解釈ガイドライン第1部3)。

発注の形発注企業とフリーランス法義務を負う主体発注企業の実務ポイント
個人(従業員なし)へ直接発注対象発注企業明示・60日・禁止行為などを自社で遵守
一人法人(代表者のみ・従業員なし)へ発注対象発注企業法人名義でも個人と同じ運用にする
従業員を雇う個人・法人へ発注対象外確認記録を残し、契約上は同水準で運用
事務所・代理店(従業員あり)と契約対象外個人へ再委託する事務所支払サイトや仕様変更が事務所の義務履行を妨げないようにする
マッチングサービス経由契約構造による実質的に委託している者利用規約で契約当事者と支払いの流れを確認

事務所を通す場合も、発注企業の都合で仕様を変えたり支払いを遅らせたりすれば、事務所がインフルエンサーへの義務を守れなくなります。再委託では、事務所が一定の事項を明示すれば、元委託の支払期日から30日以内に支払期日を定める例外が認められています(第4条第3項)。発注企業から事務所への支払いが遅れると、その先のインフルエンサーへの支払いも連鎖的に遅れる構造だと理解しておいてください。

取引条件の明示義務と発注書に書くべき項目

発注企業は、インフルエンサーに業務を委託したら「直ちに」、取引条件を書面または電磁的方法で明示しなければなりません(第3条)。この義務だけは従業員のいない発注者にも適用され、公正取引委員会が令和7年度に指導・勧告の対象とした違反行為のうち41.3%を占めた、最も身近な違反類型です。

明示が必要な項目とインフルエンサー案件での記載例

公正取引委員会のパンフレットで示されている明示事項は次のとおりです。検査完了日と金銭以外の支払方法は、該当する取引の場合のみ明示が必要です。

明示事項インフルエンサー案件での記載例よくある抜け漏れ
①発注者・受託者の名称株式会社〇〇/アカウント名またはビジネスネーム識別できる名称であればニックネームも可
②業務委託をした日2026年9月1日(依頼に合意した日)DMでの合意日が記録されていない
③給付の内容Instagramリール1本・ストーリーズ2本、PR表記あり、二次利用の範囲と期間知的財産権の譲渡・許諾の範囲を書いていない
④給付の受領・役務提供の期日下書き提出日、投稿日「今月中」など期日が特定できない
⑤給付の受領・役務提供の場所指定の共有フォルダ、本人のInstagramアカウント納品場所・投稿先を書いていない
⑥検査を完了する期日下書き確認の完了日事前確認をするのに期日を定めていない
⑦報酬の額および支払期日税込〇円(または算定方法)、10月31日支払「〇日以内」の記載、諸経費を含めた総額が不明
⑧金銭以外の方法で支払う場合の支払方法該当する場合のみ

報酬の額は、具体的な金額を記載することが難しい場合は算定方法による記載も認められています。成果報酬型の案件であれば、計算式を明示しておく形になります。また、フリーランスの知的財産権を業務委託の目的である使用の範囲を超えて譲渡・許諾させる場合は、その範囲を明示し、対価を報酬に含める必要があります。投稿素材を広告に二次利用する案件では、この点が特に重要です。

DM・チャットでの明示と注意点

明示は書面に限らず、電子メール、チャットツール、SMS、SNSのメッセージ機能などの電磁的方法でも行えます(公正取引委員会Q&A)。明示事項を記載したウェブページのURLを送る方法も認められています。ただし、送信後に消える機能を使う、スクリーンショットが制限されるなど、記録として残らない方法は認められません。また、電磁的方法で明示した後にフリーランスから書面の交付を求められた場合は、原則として遅滞なく書面を交付する必要があります。

インフルエンサーとのやり取りは、InstagramのDMで条件がばらばらに伝わりがちです。条件を1通のメッセージか1枚の発注書にまとめて送り、合意の返信を保存する運用にすると、明示義務と後のトラブル防止を同時に満たせます。依頼文面の型はインフルエンサーへの依頼文面の書き方とテンプレート例文も参考にしてください。

未定事項がある場合と指導事例から学ぶ注意点

投稿日が商品の入荷次第で決まらないなど、発注時点で定められない事項に正当な理由がある場合は、その事項を除いて明示し、内容が決まった後に直ちに明示すれば足ります(第3条第1項ただし書)。ただし、当初の明示で未定事項の内容が定められない理由と、内容を定める予定期日を記載しておく必要があります。

公正取引委員会が2025年12月10日に公表した放送業・広告業への集中調査に基づく指導事例では、次のような明示義務の不備が挙げられています。

いずれもインフルエンサー案件でそのまま起こりうる内容です。契約書のひな形と照らし合わせる際は、インフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目もあわせて確認してください。

報酬の支払期日60日ルールと起算点

従業員のいる発注企業は、給付を受領した日から起算して60日以内の、できる限り短い期間内で支払期日を定め、その日までに報酬を支払わなければなりません(第4条)。公正取引委員会の令和7年度の運用状況では、期日における報酬支払義務違反が1,135件(41.6%)と、違反行為類型の中で最も多くなっています。

起算日は給付の受領日で、請求書の受領日ではない

60日の起算日は、発注企業が検査をするかどうかを問わず、給付を受領した日です。役務の提供委託では個々の役務の提供を受けた日、提供に日数を要する場合は一連の役務の提供が終了した日が起算日になります。情報成果物の作成委託では、データが電気通信回線を通じて発注者の電子計算機内に記録されたときなどが受領日とされています。

2025年12月の指導事例では、請求書を提出した日を基準に支払期日を設定していた広告業者、請求書の提出が遅れたことを理由に期日後に支払った広告業者、検査合格日を基準に支払期日を設定していた事業者が、それぞれ是正を求められています。社内の支払フローが「請求書が届いてから月末締め・翌々月払い」になっている企業は、インフルエンサーへの支払いだけでも別ルールにする必要があります。

「60日以内なら遅くしてよい」ではありません

支払期日は「60日以内のできる限り短い期間内」で定める必要があります。公正取引委員会のQ&Aでは、従来は納品直後に支払っていたものを、法の上限が60日だからという理由だけで60日後に変更することは違反になると示されています。また、「〇日以内」「〇月〇日まで」という書き方は具体的な支払日を特定できないため、支払期日を定めたとは認められません。

投稿案件での起算日の考え方

インフルエンサー案件では、「下書き動画の納品」と「本人アカウントへの投稿」の2段階があるため、どちらを起算日とするかで支払期日が変わります。制作物の納品を委託内容とするなら納品データの受領時点、投稿という役務を委託内容とするなら投稿を受けた日(複数投稿なら一連の投稿の終了日)を基準に考えるのが基本です。ただし、情報成果物の作成委託や役務の提供委託には起算日に関する例外があり、公正取引委員会のパンフレットでも解釈ガイドラインの該当ページを確認するよう案内されています。判断に迷う場合は、早い方の日付を起算日として支払期日を設定しておくと安全です。

なお、委託内容に適合していないなどフリーランスの責めに帰すべき事由があり、報酬の支払前にやり直しをさせた場合は、やり直し後の給付を受領した日が起算日になります。発注企業側の都合で修正を依頼した場合は、この扱いにはなりません。

月末締め・休業日・再委託の扱い

月単位の締切制度を使うこと自体は認められています。月末締めの場合は、翌月末日までに支払期日を設定すれば、31日の月があっても「受領から2か月以内」として運用され、法上問題とされません。一方、「月末締め翌々月末払い」は月初に受領した分が60日を超えるため違反になります。

支払条件の設定判断理由
投稿完了日の属する月の末日締め・翌月末日払い問題なし2か月以内として運用される
月末締め・翌々月末日払い違反月初受領分が60日を超える
請求書受領日から60日以内に支払い違反のおそれ起算日が受領日でない・日付が特定されない
支払日が銀行休業日のため翌営業日に支払い条件付きで可順延2日以内で、事前に書面等で合意している場合
事務所が元委託の支払日から30日以内に個人へ支払い条件付きで可再委託である旨や元委託支払期日などを明示した場合

支払期日を定めなかった場合は給付を受領した日が、60日を超えて定めた場合は受領日から60日を経過する日が、それぞれ支払期日とみなされます(第4条第2項)。支払いが遅れた場合の督促や返金トラブルへの対処はインフルエンサー案件のトラブル対処と督促・返金の実務で解説しています。

1か月以上の発注で禁止される7つの行為

従業員のいる企業が1か月以上の期間で業務を委託する場合、受領拒否、報酬の減額、返品、買いたたき、購入・利用強制、不当な経済上の利益の提供要請、不当な給付内容の変更・やり直しの7つの行為が禁止されます(第5条)。これらはフリーランスの合意があっても違反になりうる点が、契約自由の感覚と大きく異なります。

禁止行為条文インフルエンサー案件で起こりがちな例
受領拒否第5条第1項第1号フリーランスに落ち度がないのに、キャンペーン中止を理由に納品を受け取らない
報酬の減額第5条第1項第2号固定報酬で合意した後に、再生数が想定を下回ったことを理由に減らす
返品第5条第1項第3号受領した制作物を、落ち度がないのに引き取らせる
買いたたき第5条第1項第4号同種の業務の通常の対価より著しく低い報酬を一方的に決める
購入・利用強制第5条第1項第5号正当な理由なく、自社商品の購入や有料サービスの利用を起用条件にする
不当な経済上の利益の提供要請第5条第2項第1号契約外のストーリーズ投稿や素材提供を無償で求める
不当な給付内容の変更・やり直し第5条第2項第2号発注後に訴求軸を変え、費用を負担せずに撮り直しを求める

なお、役務の提供委託の場合、受領拒否と返品の2つは条文上対象から除かれています(第5条第1項柱書)。投稿という役務を委託する案件では、残る5つの行為が中心になります。

減額・買いたたきで見落としやすい論点

報酬の減額は、名目や方法、金額にかかわらず禁止されています。公正取引委員会が2025年12月に示した留意点では、振込手数料をフリーランス負担として報酬から差し引く運用について、2026年1月1日以降は発注前に書面等で合意していても報酬の減額として違反になると明記されています。インフルエンサーへの振込で手数料を差し引いている企業は、すぐに運用を見直してください。

同じ留意点では、単価の引下げに合意した場合でも、合意前に発注済みの分へ新単価を遡って適用すると減額として問題になるとされています。買いたたきについては、コスト上昇を理由に報酬の引上げを求められたのに協議せず据え置いた事例や、自社の予算や規定を基準に一方的に報酬を決めた事例が、指導事例として公表されています。フォロワー数だけで単価表を当てはめて交渉の余地を与えない運用は、見直しの対象になりえます。

キャンセル・やり直しを依頼するときの注意点

発注企業の都合でキャンセルする場合も注意が必要です。公正取引委員会の留意点では、約5か月前に委託したイベントでの実演を、発注者側の集客不足という都合で開催直前に中止した例が示されています。この場合、それまでの作業が無駄になった分の費用に加えて、報酬の額相当額を支払わなければ、不当な給付内容の変更として問題となるおそれがあるとされています。

インフルエンサー案件でも、撮影日を押さえてもらった後に商品の発売延期で案件を取り消すことは起こりえます。トラブル防止のために、キャンセル時の支払いの有無と金額をあらかじめキャンセルポリシーとして定めておくことが考えられると公正取引委員会は示しています。ただし、その定め方によっては買いたたきや不当な給付内容の変更として違反になりうるため、フリーランスに一方的に不利な内容にしないことが前提です。

「修正依頼」と「やり直し」を分けて管理する

投稿前の原稿確認で、PR表記の欠落や事実と異なる表現を直してもらうことは、発注時に明示した給付の内容に沿わせるための修正です。一方、発注後に訴求ポイントを変えて撮影からやり直してもらうことは、発注企業側の都合による給付内容の変更にあたりえます。後者を依頼する場合は、追加の作業に見合う費用の負担を事前に提示し、合意内容を記録に残してください。

1か月未満の単発発注でも同じ運用にする理由

禁止行為の規定は1か月以上の業務委託が対象ですが、単発案件だから減額やただ働きの要求をしてよいということにはなりません。公正取引委員会には、令和7年度だけで604件の違反被疑事実の申出が寄せられています。発注の期間で社内ルールを分けると運用が複雑になり、更新による期間の通算を見落とす原因にもなります。インフルエンサー発注は期間を問わず禁止行為の規定を守る前提で統一するのが実務的です。

就業環境整備の義務と募集・コミュニケーションの注意点

従業員のいる発注企業には、期間を問わず募集情報の的確表示とハラスメント対策の体制整備が義務づけられ、6か月以上の継続的業務委託では育児介護等への配慮が加わります。これらは厚生労働省が所管する義務で、取引条件とは別に社内体制として整える必要があります。

募集情報の的確表示

SNSや自社サイト、募集プラットフォームなどでインフルエンサーを広く募集する場合、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、情報を正確かつ最新の内容に保たなければなりません(第12条)。厚生労働省の資料では、SNSのメッセージ機能やクラウドソーシングなどのデジタルプラットフォームも募集情報の提供方法に含まれると説明されています。

特定の1人に打診する場合は通常、契約交渉の中で条件を確認できるため対象外です。一方、1つの業務委託について2人以上に打診する場合や、BCCで一斉にDMやメールを送る場合は、広く勧誘しているものとして的確表示義務の対象に含まれます。キャスティングで複数の候補に同じ条件を一斉送信する運用は、この義務の対象になると考えてください。

報酬は「1件1,500円〜」のような幅のある表示も可能と例示されています。募集要項の設計方法はインフルエンサー募集要項の作り方と案件設計12項目で解説しています。

ハラスメント対策の体制整備

発注企業は、業務委託に関して行われるセクシュアルハラスメント、妊娠・出産等に関するハラスメント、取引上の優越的な関係を背景としたパワーハラスメントによって、フリーランスの就業環境が害されないよう、相談に応じて適切に対応するための体制を整備しなければなりません(第14条)。厚生労働省の資料では、講ずべき措置として次の内容が示されています。

インフルエンサー施策では、撮影現場での不適切な言動、個人アカウントへの私的なDM、原稿確認での人格を否定するような指摘などがリスクになります。相談窓口の連絡先を発注書や案件説明資料に記載しておくと、体制を周知する手段になります。また、フリーランスが相談したことや、相談への対応に協力して事実を述べたことを理由に、契約を解除するなどの不利益な取扱いをすることは禁止されています(第14条第2項)。

育児介護等への配慮

6か月以上の継続的業務委託の相手方から申出があった場合、発注企業は妊娠、出産、育児、介護と業務を両立できるよう、状況に応じた必要な配慮をしなければなりません(第13条第1項)。6か月未満の業務委託では努力義務です(同条第2項)。たとえば、子どもの急な発熱で撮影日の変更を相談された場合に、スケジュールの再調整を検討することが考えられます。配慮の内容は個別の事情で変わるため、申出を受けたら話し合いの経緯を記録に残す運用にしておいてください。

6か月以上のアンバサダー契約で必要な解除予告

6か月以上の継続的業務委託を解除する場合、または契約期間の満了後に更新しない場合、発注企業は少なくとも30日前までに予告しなければなりません(第16条)。長期のアンバサダー契約や年間契約を結ぶ企業が、最も注意すべき義務です。

30日前予告の数え方と方法

30日前の数え方は、予告日を当日から起算し、解除日の前日までに30日間が確保されている必要があります。厚生労働省の資料では、8月31日に解除する場合は8月1日までに予告が必要と例示されています。予告は書面、ファクシミリ、電子メール等の方法で行います。電子メール等で予告する場合は、フリーランス自身で出力するなどして保存するよう伝えることが望ましいとされています。

契約更新をしない判断は、キャンペーンの予算確定が遅れて直前になりがちです。更新判断の期限を契約満了日の45日前など社内で前倒しに設定しておくと、30日前の予告に間に合わない事態を防げます。

解除理由の開示請求への対応

予告を受けたフリーランスが、予告の日から契約満了日までの間に解除の理由の開示を請求した場合、発注企業は遅滞なく開示しなければなりません(第16条第2項)。第三者の利益を害するおそれがある場合など、例外的に開示しなくてよい場合も定められています。「投稿のエンゲージメント率が目標値を2期連続で下回ったため」など、客観的に説明できる理由を普段から記録しておくと、開示請求にも落ち着いて対応できます。

予告が不要になる例外

厚生労働省令では、次の場合に予告が不要とされています。

例外事由インフルエンサー案件での考え方
災害その他やむを得ない事由により予告が困難な場合天災事変に準ずる不可抗力で突発的な事由に限られ、業績不振は該当しない
再委託で元委託契約が解除され、再委託業務の大部分が不要になった場合など事務所や代理店が、広告主から突然契約を解除された場合などが想定される
基本契約や更新により継続する中で、契約期間30日以下の個別契約を解除する場合年間基本契約のもとでの10日間の個別案件の解除など
フリーランスの責めに帰すべき事由により直ちに解除が必要な場合予告させることが均衡を失するほど重大・悪質な事由に限られる

炎上や規約違反を理由とする即時解除が4つ目の例外に当たるかは、契約内容等を踏まえた総合判断になり、重大または悪質なものに限られます。即時解除の条件を契約書に書いておけば必ず例外になるわけではない点に注意してください。

違反した場合の行政対応と施行後の執行状況

フリーランス法に違反すると、指導・助言、勧告、命令・公表を経て、命令違反などには50万円以下の罰金が科されます。罰則よりも先に、勧告を受けた時点で事業者名が公表される点が実務上の大きなリスクです。

勧告・命令・罰金までの流れ

取引の適正化に関する違反は公正取引委員会と中小企業庁が、就業環境の整備に関する違反は厚生労働省が対応します。フリーランスは違反の事実を行政に申し出ることができ、申出をしたことを理由とする取引数量の削減や取引停止などの不利益な取扱いは禁止されています(第6条第3項・第17条第3項)。

段階内容根拠条文
申出・調査フリーランスからの申出を受け、報告徴収や立入検査を行う第6条・第11条・第17条・第20条
指導・助言法の施行に関し必要があると認めるときに行う第22条
勧告違反を認めたときに是正措置を勧告する第8条・第18条
命令・公表正当な理由なく勧告に従わない場合に命令し、公表できる第9条・第19条
罰金命令違反、報告拒否・虚偽報告、検査拒否などに50万円以下の罰金。法人も両罰第24条・第25条

公正取引委員会は、勧告を行った場合に事業者名、違反事実の概要、勧告の概要を公表する方針を示しています。取引先や求職者、起用したいインフルエンサー本人から検索される可能性を考えると、公表は罰金以上に重い影響を持ちえます。

令和7年度の運用状況

公正取引委員会が2026年6月10日に公表した令和7年度におけるフリーランス・事業者間取引適正化等法第2章の運用状況によると、令和7年度(2025年4月〜2026年3月)の実績は次のとおりです。

項目件数・割合
違反被疑事実の申出604件
新規に着手した違反被疑事件1,626件
勧告10件
指導1,542件
違反行為類型のうち期日における報酬支払義務違反1,135件(41.6%)
違反行為類型のうち取引条件の明示義務違反1,126件(41.3%)
違反行為類型のうち買いたたき250件(9.2%)

明示義務と支払期日の2類型だけで違反行為の8割を超えています。つまり、法対応の優先順位は「発注時に条件を漏れなく送ること」と「受領日から60日以内に払う支払フローを作ること」の2点です。

放送業・広告業への集中調査が示すこと

公正取引委員会は2025年12月10日、フリーランスとの取引が多い放送業と広告業について集中的に調査を行い、2025年10月までに128の事業者へ是正を求める指導を行ったと公表しました。撮影、動画編集、原稿作成、デザインといった、インフルエンサー施策と隣接する業務の事例が多く含まれています。広告・プロモーション領域は当局の関心が高い業種だと捉え、自社の運用を点検しておくことをおすすめします。

インフルエンサー発注を適法に回す運用チェックリスト

フリーランス法への対応は、発注前・発注時・投稿後の3つのタイミングで確認項目を固定すると、担当者が変わっても運用が崩れません。以下は本記事の内容を実務の順序に並べ替えたチェックリストです。

発注前に確認する項目

発注時に送る内容

投稿後・契約終了時に行うこと

本記事の位置づけ

本記事は、2026年9月時点で公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省が公表している条文、Q&A、パンフレット、公表資料をもとにした一般的な解説であり、個別の案件に対する法的助言ではありません。個別の契約内容や判断に迷う事例については、弁護士などの専門家や、厚生労働省委託事業のフリーランス・トラブル110番公正取引委員会のフリーランス法Q&A厚生労働省のフリーランス関連ページで最新の情報を確認してください。

マッチングプラットフォームを使う場合も、契約の当事者が誰になり、報酬がいつ誰から支払われるかによって義務を負う主体が変わります。利用規約で契約構造を確認したうえで、明示事項と支払期日の管理を自社の発注フローに組み込むことが、インフルエンサーから選ばれ続ける発注企業になるための土台になります。

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