海外在住のインフルエンサーに投稿を依頼するとき、つまずきやすいのは人選や交渉よりも「報酬をどう払うか」です。国内の銀行振込と同じ感覚で進めると、送金手数料で着金額が足りない、為替の変動で予算を超える、非居住者への源泉徴収を見落とすといった問題が起きます。この記事では、海外インフルエンサーへの報酬支払いについて、支払い手段の比較、海外送金の手数料、為替レートと支払いタイミング、非居住者の源泉徴収と租税条約、請求書・インボイス・消費税、証憑の保管、支払いトラブルへの備えまで、発注企業の実務の順番で整理します。税務の記載は2026年10月時点で国税庁が公表している情報にもとづいていますが、個別の取引の判断は必ず顧問税理士に確認してください。
この記事の要点
- 海外インフルエンサーへの報酬支払いは、「支払い手段」「通貨と為替」「源泉徴収」「消費税・インボイス」「証憑保管」の5点を契約前に決めておくと、着金不足や税務の見落としを防げます。
- 支払い手段は銀行送金・PayPal・Wiseなどの送金サービス・国際支払いプラットフォームが中心で、金額・頻度・相手の受取環境で選び分けます。手数料の負担者は契約書に明記します。
- 海外在住の非居住者が国外で行う投稿の対価は、国内源泉所得に当たらず源泉徴収が不要となる場合がありますが、二次利用の使用料や来日しての撮影は20.42%の源泉徴収の対象になり得ます(国税庁の公表情報・2026年10月時点)。
- 租税条約で減免を受けるには、最初の支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者経由で税務署に出す必要があります。
- 判断が分かれる論点が多いため、契約書の対価の内訳を「役務の対価」と「使用料」に分けて書き、顧問税理士に確認してから支払う運用にします。
海外インフルエンサーへの報酬支払いの全体像
海外インフルエンサーへの報酬支払いとは、日本の企業が国外に住むインフルエンサーやその所属事務所に対して、PR投稿や撮影、素材の利用許諾などの対価を国境を越えて支払う一連の実務です。国内の支払いと比べて、送金手段の選定、為替の換算、非居住者としての税務判定、外国語の請求書の確認という工程が増えるのが特徴です。最初にこの全体像を押さえておくと、どの工程で誰が何を決めるべきかが明確になります。
国内払いとの違いは「4つの追加工程」
国内のインフルエンサーへの支払いは、請求書を受け取り、源泉徴収の要否を判断し、銀行振込で支払うという流れで完結します。海外の場合は、ここに「どの手段で送るか」「どの通貨で、どのレートで換算するか」「相手が日本の非居住者として課税されるか」「消費税とインボイスの扱いはどうなるか」という4つの工程が加わります。国内の源泉徴収とインボイスの基本はインフルエンサー報酬の源泉徴収とインボイス対応の実務で整理していますので、本記事では国境をまたぐ場合に変わる部分を中心に解説します。
支払いの流れを時系列で整理します
実務の流れは、①契約前の条件確認(相手の居住国・法人か個人か・受取手段)、②契約書での通貨・手数料負担・支払期日・対価の内訳の明記、③租税条約の届出書の回収(必要な場合)、④投稿の検収、⑤請求書の受領と内容確認、⑥源泉徴収税額の計算と送金、⑦源泉所得税の納付と証憑の保管、という7段階です。どの段階を飛ばしても後から修正するのが難しいため、案件ごとに同じ順番で確認する仕組みにしておくことをおすすめします。
| 工程 | 国内インフルエンサー | 海外インフルエンサー |
|---|---|---|
| 支払い手段 | 国内の銀行振込が中心 | 海外送金・PayPal・Wise・国際支払いプラットフォームなどから選ぶ |
| 通貨 | 円 | 円建てか外貨建てかを契約で決める |
| 源泉徴収 | 源泉徴収の対象となる報酬は10.21%(1回の支払が100万円を超える部分は20.42%) | 非居住者の国内源泉所得に当たれば原則20.42%、租税条約で減免の可能性 |
| 消費税・インボイス | 登録番号の有無を確認 | 取引の内外判定から始める(不課税・リバースチャージの論点あり) |
| 手数料 | 振込手数料のみ | 送金・中継・受取・為替の手数料が重なる |
誰に払うのかを最初に確定させます
支払先が個人のインフルエンサー本人なのか、本人が設立した法人なのか、現地のマネジメント事務所なのかによって、税務の判断も送金先も変わります。海外のインフルエンサーは事務所経由で契約することも多く、請求書の発行者と送金先口座の名義が一致しないこともあります。契約書の当事者、請求書の発行者、受取口座の名義の3つが一致しているかを最初に確認し、一致しない場合は理由を書面で残してください。
海外報酬の支払い手段の比較(銀行送金・PayPal・Wise等)
海外インフルエンサーへの報酬の支払い手段は、銀行の海外送金、PayPalなどのオンライン決済サービス、Wiseなどの送金サービス、業務委託向けの国際支払いプラットフォームの4つが中心です。どれが最適かは、1回あたりの金額、支払いの頻度、相手が使える受取手段、自社の経理が求める証憑の形式によって変わります。まずは各手段の特徴を比較表で把握してください。
| 支払い手段 | 向いているケース | 手数料の構造 | 着金までの目安 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 銀行の海外送金 | 高額・法人や事務所宛て・証憑を重視する場合 | 送金手数料+中継銀行手数料+受取手数料+為替の上乗せ | 数営業日程度 | SWIFTコードや受取人住所など入力項目が多く、誤りがあると組み戻しになります |
| PayPal | 少額・個人宛て・相手がすでにアカウントを持っている場合 | 受取側の手数料+通貨換算時の為替手数料 | 即時〜短期間 | 受取側で手数料が差し引かれるため、満額を届けるには上乗せが必要です |
| Wiseなどの送金サービス | 中少額を継続的に支払う場合 | 送金時に明示される手数料+実勢に近いレートでの換算 | 即日〜数営業日 | 法人アカウントの開設に本人確認書類の提出が必要です |
| 国際支払いプラットフォーム | 多数の海外クリエイターにまとめて支払う場合 | 月額料金や1件ごとの手数料 | サービスにより異なる | 契約書の雛形や税務書類の回収機能の有無を確認します |
上の表の手数料と着金日数は、2026年10月時点で各金融機関・各サービスが公表している料金体系をもとにした一般的な傾向です。料金は改定されることが多いため、実際の送金前に各社の公式サイトで最新の料金表を確認してください。
銀行の海外送金は「高額・法人宛て」に向きます
銀行の海外送金は、送金記録が銀行の計算書として残り、経理や監査で説明しやすい点が最大の利点です。数十万円以上の報酬や、現地の事務所・法人への支払いでは、銀行送金が標準的な手段になります。一方で、送金側の銀行手数料に加えて、中継銀行(コルレス銀行)の手数料や受取側の銀行手数料がかかり、着金額が送金額より少なくなることがあります。手数料の負担方法を指定する項目(送金人負担・受取人負担・折半)があるため、契約書の取り決めと合わせて指定します。
PayPalとWiseは「少額・個人宛て」で使い分けます
PayPalは、インフルエンサー側がすでにアカウントを持っていることが多く、メールアドレスだけで支払えるため、少額の報酬や単発の依頼で使いやすい手段です。ただし、受取側で手数料が差し引かれる構造のため、報酬を満額届ける約束をしている場合は、その分を上乗せして送る必要があります。Wiseなどの送金サービスは、送金前に手数料と相手の受取額が画面上で確定するため、着金額のずれを抑えやすい点が特徴です。継続的に同じ相手へ支払う場合は、受取額を確定させやすい手段を選ぶと精算の手間が減ります。
多人数の起用では国際支払いプラットフォームも選択肢です
複数の国のインフルエンサーに同時に支払う場合は、業務委託向けの国際支払いプラットフォームを使う方法もあります。契約書の締結、請求書の発行、税務書類の回収、支払いまでを一つの画面で管理できるサービスが多く、支払い件数が増えるほど事務の負担を減らせます。導入する場合は、月額料金と1件ごとの手数料を合計した実質コストと、日本の税務で必要な書類(租税条約の届出書や居住者証明書)を回収できるかを確認してから決めてください。
海外送金の手数料と着金額のずれを防ぐ方法
海外送金の手数料で着金額がずれる問題は、「誰が、どの手数料を負担するか」を契約書に書き、送金時の指定をその内容と一致させることで防げます。海外送金では、送金側・中継銀行・受取側の3か所で手数料が発生する可能性があり、合計で1回あたり数千円程度になることもあります(2026年10月時点・国内金融機関の公表手数料をもとにした目安)。少額の報酬ほど手数料の割合が大きくなるため、事前の取り決めが重要です。
手数料の種類と発生する場所
手数料は大きく4種類に分かれます。1つ目は送金側の金融機関に支払う送金手数料、2つ目は送金経路の途中で差し引かれる中継銀行手数料、3つ目は受取側の金融機関が差し引く受取手数料、4つ目は通貨を換算するときのレートに含まれる為替の上乗せです。このうち中継銀行手数料と受取手数料は、送金する時点では正確な金額が分からないことがあり、着金額が契約金額より少なくなる原因になります。
| 手数料の種類 | 発生する場所 | 送金前に金額が分かるか | 対策 |
|---|---|---|---|
| 送金手数料 | 自社の金融機関・送金サービス | 分かる | 料金表で事前に確認します |
| 中継銀行手数料 | 送金経路の途中の銀行 | 分からないことが多い | 送金人負担の指定や、受取額が確定する手段を選びます |
| 受取手数料 | 相手側の金融機関・サービス | 相手に確認すれば分かる | 契約時に相手の受取環境をヒアリングします |
| 為替の上乗せ | 通貨を換算する事業者 | レートを見れば分かる | 適用レートと仲値の差を比較します |
手数料の負担を契約書に書く方法
契約書には「報酬額」「支払通貨」「送金手数料の負担者」「受取側で発生する手数料の負担者」を分けて書きます。たとえば「送金に係る手数料は甲(発注企業)の負担とし、受取側の金融機関で発生する手数料は乙(インフルエンサー)の負担とする」と定めておけば、着金額が少なかった場合の扱いで揉めることを防げます。インフルエンサーに満額の着金を約束する場合は、受取側の手数料の見込み額を報酬に上乗せするか、受取額を確定できる送金手段を選びます。契約書全体の作り方はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目も参考にしてください。
着金トラブルを防ぐ3つの確認
- 送金前に、受取人の氏名・住所・口座番号・SWIFTコード(またはサービスのアカウント)を、相手が書面で送ってきた情報と1文字ずつ照合する
- 手数料の負担者を契約書と送金時の指定で一致させ、満額着金を約束している場合は上乗せ額を決めておく
- 初回は少額のテスト送金や受取画面のスクリーンショットで着金を確認してから、本支払いを行う
少額報酬は支払いをまとめる工夫も有効です
1回あたりの報酬が少額の場合は、手数料の割合を下げるために、複数回分の報酬をまとめて月1回支払う方法もあります。ただし、まとめて支払う場合でも支払期日は契約書に明記する必要があります。日本の発注者が個人のフリーランスに業務委託する場合には、フリーランス・事業者間取引適正化等法(フリーランス法)の支払期日のルールが関係することがあるため、フリーランス法の発注者義務とインフルエンサー発注の実務もあわせて確認してください。
為替レートと支払い通貨・支払いタイミングの決め方
為替の影響を管理するには、契約時に「どの通貨で支払うか」と「いつのレートで換算するか」を決めておくことが基本です。円建てで契約すれば為替変動のリスクはインフルエンサー側が負い、外貨建てで契約すれば発注企業側が負います。どちらが正しいということはなく、予算管理の方針と相手との関係性で決めます。
円建てと外貨建てのどちらで契約するか
円建て契約は、発注企業にとって予算が確定するという大きな利点があります。一方で、インフルエンサー側は受取時の為替で手取りが変わるため、交渉の段階で外貨建てを希望されることが少なくありません。外貨建て契約は相手にとって分かりやすく交渉が進みやすい反面、支払いまでに円安が進むと、円換算の支払額が予算を超える可能性があります。報酬を外貨建てにする場合は、予算に為替変動の予備枠を持たせておくと安全です。
| 契約通貨 | 為替リスクを負う側 | 発注企業の利点 | 発注企業の注意点 |
|---|---|---|---|
| 円建て | インフルエンサー | 予算が確定し、稟議や経理処理が簡単です | 相手が受け入れにくく、交渉が長引くことがあります |
| 外貨建て(米ドルなど) | 発注企業 | 相手にとって分かりやすく、合意しやすくなります | 円安局面では円換算の支払額が増えます |
| 外貨建て+換算レート固定 | 双方で事前に合意した範囲 | 予算と相手の受取額の両方が見通せます | 固定レートの決め方を契約書に明記する必要があります |
為替の変動が予算に与える影響の試算
以下は想定例です。A社が米国在住のインフルエンサーと、報酬3,000米ドルの外貨建て契約を結んだとします。契約時の為替レートが1米ドル=150円であれば、円換算で450,000円を予算として確保します。ところが投稿後の支払日に1米ドル=155円になっていた場合、支払額は465,000円となり、15,000円の予算超過になります。為替は数週間で数円動くこともあるため、外貨建ての案件では、契約時のレートで計算した金額に数パーセントの予備枠を加えて稟議を通すことをおすすめします。
支払いタイミングと換算レートの決め方
支払いタイミングは、「投稿の検収後○日以内」のように検収と結び付けて決めるのが一般的です。外貨建て契約の場合は、送金する日によって円換算額が変わるため、社内の支払日を固定しておくと予算管理が安定します。円建てで支払う約束をしつつ、相手の受取額を外貨で保証したい場合は、「契約日の○○銀行の仲値で換算した円建て金額を支払う」のように、換算に使う日付と相場の種類を契約書に書きます。支払いサイトの考え方そのものはインフルエンサー施策の支払いサイト設計と資金繰りの考え方で詳しく解説しています。
非居住者への源泉徴収の判断
海外在住のインフルエンサーへの報酬で源泉徴収が必要かどうかは、相手が日本の「非居住者」に当たるかと、支払う対価が「国内源泉所得」に当たるかの2段階で判断します。国税庁の公表情報によれば、非居住者は日本では国内源泉所得についてのみ課税され、国内源泉所得を支払う者は支払いの際に所得税及び復興特別所得税を源泉徴収して納付する義務があります(国税庁タックスアンサーNo.2878・No.2885、2026年10月時点)。
非居住者と国内源泉所得の考え方
非居住者とは、日本国内に住所がなく、かつ現在まで引き続いて1年以上日本に居所を有しない個人をいいます。海外を拠点に活動しているインフルエンサーの多くは非居住者に当たりますが、日本に長期滞在している外国籍の方や、一時的に海外に住んでいる日本人は判断が分かれることがあるため、契約時に居住地を確認します。国内源泉所得は所得税法第161条に列挙されており、インフルエンサーの報酬で関係しやすいのは、国内で行う人的役務の提供の対価、著作権等の使用料、国内で行う人的役務の報酬の3つです。
投稿の対価と使用料で結論が変わります
国税庁の国内源泉所得の範囲の説明では、人的役務の提供の対価や報酬は「国内で行う」役務が対象とされています。そのため、海外在住のインフルエンサーが国外で撮影し、自身のアカウントに投稿する役務の対価は、原則として国内源泉所得に当たらず、源泉徴収が不要と整理される場合があります。一方で、撮影した写真や動画を日本の企業が広告や自社サイトで使うための著作権の使用料や譲渡の対価は、国内で業務を行う者から受ける使用料として国内源泉所得に当たり得ます。インフルエンサーが来日して日本国内で撮影やイベント出演を行う場合も、国内で行う役務の対価として国内源泉所得に当たる可能性が高くなります。
| 支払いの内容(想定) | 国内源泉所得に当たる可能性 | 源泉徴収の考え方(国内法) |
|---|---|---|
| 海外で撮影し、本人のアカウントに投稿する対価 | 低い(国外で行う役務) | 原則不要と整理される場合があります |
| 投稿素材を日本企業の広告・自社サイトで使う二次利用料 | 高い(著作権等の使用料) | 20.42%で源泉徴収の対象になり得ます |
| 来日して日本国内で撮影・イベント出演する対価 | 高い(国内で行う役務) | 20.42%で源泉徴収の対象になり得ます |
| 海外の法人(事務所)に支払う投稿の対価 | 役務の提供場所と内容による | 外国法人の国内源泉所得に当たるかを個別に判断します |
上の表は国税庁の公表情報をもとにした一般的な整理であり、契約内容や役務の実態によって結論が変わります。とくに、投稿の対価と二次利用料を一つの金額にまとめて契約している場合は、全体が使用料と判断されるおそれもあるため、契約書で内訳を分けて書いておくことが重要です。
税率と税額の計算例
国税庁タックスアンサーNo.2884によれば、非居住者等に支払う人的役務の提供事業の対価、著作権等の使用料、人的役務の提供に対する報酬の源泉徴収税率は、所得税と復興特別所得税を合わせて20.42%です(2026年10月時点)。以下は想定例です。二次利用料が148,000円の場合、源泉徴収税額は148,000円×20.42%=30,221円(1円未満切り捨て)となり、相手に送金する額は117,779円です。相手の手取りを100,000円と約束している場合は、100,000円÷(1-0.2042)で計算した125,659円を支払総額とし、源泉徴収税額25,659円を差し引いて100,000円を送金します。なお、国税庁は令和9年(2027年)分以後に防衛特別所得税も源泉徴収の対象になると案内しているため、2027年以降の支払いでは最新の税率を確認してください。
源泉徴収の判断で迷ったときの順番
- 相手は日本の非居住者か(居住地・滞在期間を確認)
- 支払う対価は「国外での投稿の対価」「二次利用の使用料」「国内での役務の対価」のどれか(契約書で内訳を分ける)
- 国内源泉所得に当たる場合、相手の居住国と日本の租税条約で減免があるか
- 判断の根拠を社内記録に残し、顧問税理士の確認を受けてから支払う
租税条約の届出と源泉徴収の減免手続き
租税条約による源泉徴収の減免を受けるには、インフルエンサーが「租税条約に関する届出書」を作成し、最初の支払日の前日までに支払者である発注企業を経由して、発注企業の納税地の所轄税務署長に提出する必要があります(国税庁タックスアンサーNo.2888、2026年10月時点)。届出書が出ていないまま支払うと、国内法の20.42%で源泉徴収することになります。
届出書の種類と提出のタイミング
届出書は所得の種類ごとに様式が分かれており、使用料については「様式3」を使います。来日しての役務提供など人的役務の対価については、所得の種類に応じた別の様式を使うため、国税庁の「租税条約に関する届出書」の様式一覧で該当するものを確認します。届出書は支払者ごとに作成するため、同じインフルエンサーでも発注企業が変われば新しく提出が必要です。記載内容に変更があった場合は、変更後最初の支払日の前日までに改めて提出します。
居住者証明書と特典条項の確認
租税条約によっては、特典を受けるための条件(特典条項)が定められており、その場合は届出書に加えて「特典条項に関する付表(様式17)」と、相手国の税務当局が発行する居住者証明書が必要です。国税庁の案内では、居住者証明書は提示日前1年以内に作成されたものに限られ、支払者が原本の提示を受けた場合は写しを作成し、5年間保存することとされています。海外のインフルエンサーにとっては居住者証明書の取得に時間がかかることもあるため、契約が決まった段階で早めに依頼してください。
届出が間に合わなかった場合の還付請求
届出書が支払日に間に合わなかった場合は、いったん国内法の税率で源泉徴収し、後から届出書と「租税条約に関する源泉徴収税額の還付請求書(様式11)」を支払者経由で提出することで、差額の還付を請求できます。ただし、還付には時間がかかり、インフルエンサー側の手取りが一時的に減るため、関係が悪化する原因になりかねません。届出書の回収を支払いの前提条件として契約書に書き、回収できたことを確認してから支払う運用にしておくと安全です。
| 書類 | 作成する人 | 提出・保管の方法 | 期限・注意点 |
|---|---|---|---|
| 租税条約に関する届出書(使用料は様式3など) | インフルエンサー(非居住者) | 支払者経由で支払者の所轄税務署長へ提出 | 最初の支払日の前日まで |
| 特典条項に関する付表(様式17) | インフルエンサー | 届出書に添付 | 特典条項のある条約の場合に必要 |
| 居住者証明書 | 相手国の税務当局が発行 | 原本を添付または支払者に提示し、支払者は写しを保存 | 提示日前1年以内に作成されたもの |
| 還付請求書(様式11) | インフルエンサー | 支払者経由で提出 | 届出が支払後になった場合に使用 |
請求書・インボイス・消費税の扱い
海外インフルエンサーへの支払いの消費税は、まず取引が日本の消費税の課税対象になる「国内取引」か、対象外の「国外取引」かを判定することから始めます。国外で行われる役務の提供は原則として国外取引となり消費税は課されませんが、インターネットを介した役務は「電気通信利用役務の提供」として別のルールで判定されるため、注意が必要です。
役務の提供場所による内外判定
海外在住のインフルエンサーが国外で撮影や制作を行う場合、役務の提供場所は国外となり、原則として不課税取引として扱われます。一方、来日して日本国内で撮影やイベント出演を行う場合は国内取引となり、消費税の課税対象です。国内取引に当たる場合、相手が日本の適格請求書発行事業者として登録していなければ、発注企業は原則として仕入税額控除を受けられません。国税庁の公表資料によれば、適格請求書発行事業者以外からの仕入れに対する経過措置の控除割合は、2026年10月1日から2028年9月30日までは70%とされています(2026年10月時点)。
電気通信利用役務の提供とリバースチャージ方式
国税庁は、電子書籍・音楽・広告の配信など、電気通信回線を介して行われる役務を「電気通信利用役務の提供」とし、役務の提供を受ける者の住所で内外を判定するとしています。インフルエンサーの投稿が契約内容によってインターネット上の広告の配信と評価される場合は、受け手である日本企業の所在地から国内取引と判定される可能性があります。さらに、それが事業者向けの電気通信利用役務の提供に当たる場合は、役務を受けた日本企業が申告・納税する「リバースチャージ方式」の対象になります。ただし国税庁の案内では、一般課税で課税売上割合が95%以上の課税期間や、簡易課税制度を適用する課税期間などでは、当分の間この特定課税仕入れはなかったものとされます。インフルエンサーの投稿がどの区分に当たるかは判断が分かれやすいため、顧問税理士と事前に整理しておくことをおすすめします。
| 取引の形(想定) | 内外判定の基準 | 消費税の考え方 |
|---|---|---|
| 国外で撮影・制作し納品する役務 | 役務の提供場所(国外) | 原則として不課税 |
| 来日して日本国内で撮影・出演 | 役務の提供場所(国内) | 課税対象。相手が未登録なら経過措置の範囲で控除 |
| インターネット上の広告の配信と評価される役務 | 受け手の住所(日本企業なら国内) | 事業者向けならリバースチャージ方式の対象になり得ます |
海外の請求書で確認する項目
海外のインフルエンサーから届く請求書(インボイス)は、国や本人によって書式がまちまちです。最低限、発行者の氏名または名称と住所、発行日、請求番号、取引内容、金額と通貨、支払先の口座情報が記載されているかを確認します。取引内容は「Instagram post」のような一言ではなく、投稿の本数や二次利用の範囲が分かる書き方にしてもらうと、源泉徴収や消費税の判断の根拠として使えます。日本の適格請求書発行事業者として登録している国外事業者もいるため、登録番号の記載がある場合は国税庁の公表サイトで確認します。
外貨建て報酬の会計処理と証憑の保管
外貨建ての報酬は、取引日の為替レートで円に換算して計上し、送金時のレートとの差額は為替差損益として処理するのが一般的です。法人税の取扱いでは、外貨建取引は取引日の電信売買相場の仲値(TTM)で換算するのが原則で、継続適用を条件に費用については電信売相場(TTS)を使うこともできます。会計処理全般はインフルエンサー報酬の会計処理と経費計上の実務ポイントで解説していますので、ここでは海外ならではの論点を整理します。
源泉徴収税額を計算するときの円換算
源泉徴収税額を計算するときの円換算は、会計上の換算とは別のルールがあります。所得税基本通達213-1では、外貨で表示された報酬を円で支払う場合は契約で定めた換算方法による円の金額を、外貨で支払う場合は契約上の支払期日(期日の定めがなければ実際の支払日)の電信買相場(TTB)で換算した金額を、源泉徴収の基礎とすると定めています。電信買相場は、支払者の主要取引金融機関が公表するものを使うとされています。会計上のレートと源泉徴収のレートが異なることがあるため、経理担当者は両方の根拠を記録しておきます。
保管する証憑と保存の方法
海外への支払いでは、契約書、請求書、送金の計算書(または送金サービスの取引明細)、為替レートの根拠、租税条約の届出書の控え、居住者証明書の写し、源泉所得税の納付書の控えを一式で保管します。請求書をメールやPDFで受け取った場合は、電子帳簿保存法の電子取引データとして、検索できる状態で電子のまま保存する必要があります。法人の帳簿書類の保存期間は原則7年間(欠損金が生じた事業年度は10年間)です。案件ごとにフォルダを分け、同じファイル名の規則で保存しておくと、税務調査の際に説明しやすくなります。
源泉所得税の納付と支払調書・外為法の報告
非居住者への支払いから源泉徴収した所得税は、原則として徴収した日の属する月の翌月10日までに納付します(国税庁タックスアンサーNo.2885)。非居住者等に報酬や使用料を支払った場合は、一定の金額を超えると翌年1月31日までに税務署へ支払調書を提出する必要があります。また、3,000万円相当額を超える海外への支払いでは、外国為替及び外国貿易法(外為法)にもとづく報告が必要になる場合があり、100万円を超える国外送金は金融機関から税務署へ国外送金等調書が提出されます。高額の案件では、送金前に経理担当者と金融機関の窓口に確認してください。
支払い遅延・トラブル時の備え
海外への支払いトラブルの多くは、送金情報の誤り、手数料の取り決めの曖昧さ、振込先の変更を装った詐欺、成果物の未納品という4つの原因から生まれます。国内の取引と違って相手と直接会うことが難しく、言語や時差もあるため、問題が起きてから解決するよりも、契約と運用で予防するほうが確実です。
着金しない・組み戻しになったときの対応
銀行の海外送金で受取人の名義や口座番号、SWIFTコードに誤りがあると、着金せずに資金が戻ってくる「組み戻し」になることがあります。組み戻しには日数がかかり、その間の手数料や為替差損が発生することもあります。送金後に着金の連絡がない場合は、まず送金の計算書の内容と相手が提示した情報を照合し、そのうえで金融機関に送金の追跡(照会)を依頼します。相手には照会中であることと見込みの日程を早めに伝え、遅延の原因が自社側にある場合は誠実に説明します。
振込先の変更を装った詐欺への備え
海外との取引では、メールのやり取りに第三者が割り込み、「口座が変わったので新しい口座に振り込んでほしい」と偽の連絡を送る詐欺が知られています。インフルエンサーや事務所の名前を装ったメールであっても、振込先の変更は契約時に決めた連絡手段以外で受け付けないこと、変更の依頼があった場合は別の手段(ビデオ通話や既存のチャット)で本人に確認することを社内ルールにします。送金先の名義が契約当事者と異なる場合は、理由を書面で確認するまで支払いを止めてください。
未投稿・契約違反時の返金と前払いの考え方
海外のインフルエンサーから前払いを求められることは珍しくありませんが、投稿されなかった場合に返金を求めるのは、国をまたぐと現実的に難しくなります。前払いをする場合は報酬の一部(着手金)にとどめ、残額を投稿の検収後に支払う分割の形にすると、リスクを抑えられます。契約書には、投稿期限、修正の回数、期限を過ぎた場合の扱い、返金の条件、準拠法と紛争解決の方法(どの国の法律を適用し、どこで解決するか)を明記します。
支払いトラブルを防ぐ社内ルールの例
- 振込先の変更は契約時の連絡手段以外では受け付けず、必ず別の手段で本人確認を行う
- 前払いは着手金にとどめ、残額は投稿の検収後に支払う
- 送金後3営業日以内に着金確認の連絡を相手から受け取り、記録に残す
- 経済制裁の対象国・対象者への送金にならないか、送金前に金融機関の確認に協力する
発注前に確認する海外支払いの実務チェックリスト
海外インフルエンサーへの報酬支払いでつまずかないためには、契約を結ぶ前に、支払いに関わる条件を一覧で確認しておくことが最も効果的です。以下のチェックリストは、本記事で解説した論点を時系列に並べたものです。案件ごとにこの一覧を埋めてから契約に進むと、経理や税理士への相談もスムーズになります。
| 確認のタイミング | 確認する項目 | 担当の目安 |
|---|---|---|
| 交渉時 | 居住国・滞在状況、個人か法人(事務所)か、使える受取手段 | マーケティング担当 |
| 契約書作成時 | 契約通貨、換算レートの決め方、手数料の負担者、支払期日、対価の内訳(投稿の対価と二次利用料)、準拠法 | マーケティング担当・法務 |
| 契約締結後 | 租税条約の届出書・特典条項の付表・居住者証明書の回収 | 経理 |
| 検収時 | 投稿内容・本数・期限の確認、請求書の記載事項の確認 | マーケティング担当 |
| 支払い前 | 源泉徴収の要否と税額、消費税の内外判定、送金先情報の照合 | 経理・顧問税理士 |
| 支払い後 | 着金確認、源泉所得税の納付、証憑一式の保存、支払調書の準備 | 経理 |
社内の役割分担を決めておきます
海外への支払いは、マーケティング担当が条件を交渉し、経理が支払いと税務を担うという分担になりがちです。その結果、契約書に対価の内訳や手数料の負担者が書かれないまま経理に回り、支払いの直前に判断が止まることがよくあります。交渉の段階で経理が確認すべき項目をマーケティング担当に共有し、契約書の案を経理が一度確認する流れにしておくと、支払い直前の手戻りを防げます。
国内のインフルエンサーと組み合わせる考え方
海外のインフルエンサーの起用は、現地の消費者に届く発信力がある一方で、本記事で見てきたように支払いと税務の工程が増えます。インバウンド集客や越境ECの目的であっても、日本在住で海外のフォロワーを持つインフルエンサーを組み合わせれば、国内の支払い手続きで進められる部分を増やせます。目的別の起用の考え方はインバウンド集客で海外インフルエンサーを起用する実務ガイドや越境ECで海外インフルエンサーを起用する市場別の設計と実務ガイドで解説しています。支払いの手間とリスクも含めて、どの組み合わせが自社にとって効率的かを比較したうえで計画を立ててください。
本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム『Bloom』(株式会社ハーマンドット)が運営しています。