インフルエンサーに依頼した案件を、商品の発売延期や予算の見直しで途中で止めることになった。反対に、撮影直前にインフルエンサーが体調を崩して投稿できなくなった。こうした中止・延期の場面で「キャンセル料はいくら払うのか」「立て替えてもらった交通費や撮影費はどう精算するのか」が決まっていないと、金額をめぐって関係がこじれやすくなります。この記事では、インフルエンサー案件のキャンセル料の考え方を、企業側都合とインフルエンサー側都合に分けて整理し、進捗段階別の目安、契約書に入れる中止条項、リスケのルール、費用精算の方法、フリーランス法の注意点まで、発注企業の実務の順番で解説します。
この記事の要点
- インフルエンサー案件のキャンセル料とは、契約後に案件を中止・取り消したときに、それまでの準備や機会損失を補うために支払う金額のことで、金額は法律ではなく契約で決まります。
- 企業側都合の中止は「進捗段階に応じた報酬の一部+実費」を払うのが基本で、目安は撮影前で報酬の0〜30%、撮影後で50〜100%、投稿直前・納品後で100%です(2026年10月時点の当メディアの整理による目安)。
- インフルエンサー側都合の中止は、前払い分の返金と提供商品の返送が基本で、過大な違約金はフリーランス法や公序良俗の観点から無効・指導の対象になり得ます。
- 日程変更(リスケ)は「何回まで・いつまでの連絡なら無償か」を決め、期限後の変更は段階別キャンセル料の考え方を準用すると揉めにくくなります。
- 発注取消しは、フリーランス法の「不当な給付内容の変更」に当たる可能性があるため、作業済み部分の費用を払わずに一方的に取り消すことは避けます。
インフルエンサー案件のキャンセル料の基本と考え方
インフルエンサー案件のキャンセル料は、契約書に定めた「中止の時期」と「どちらの都合か」によって金額が決まり、法律で一律に決まる相場はありません。宿泊や飲食のように業界で広く共有された料金表がないため、発注のたびに企業とインフルエンサーの間で決めておく必要があります。
キャンセル料と違約金・損害賠償の違い
キャンセル料とは、契約が成立した後に一方の都合で案件を中止したときに、相手方がそれまでにかけた準備や、他の仕事を断ったことによる機会損失を補うために支払う金額のことです。違約金は、契約違反があった場合に支払う金額を前もって決めておくもので、民法420条3項により「損害賠償額の予定」と推定されます。損害賠償は、実際に生じた損害を事後に算定して請求するものです。
実務では、企業側の都合による中止で払う金額を「キャンセル料(中止料)」、インフルエンサー側の違反で払ってもらう金額を「違約金」と呼び分けると、契約書の条文が読みやすくなります。英語圏のインフルエンサー契約では、企業側が途中で案件を取りやめる際の支払いを「キルフィー(kill fee)」と呼び、契約書に必ず入れる条項として扱われています。
契約がない場合に適用される民法の考え方
契約書にキャンセル料の定めがない場合は、民法の一般原則で判断することになります。投稿の制作と公開を「完成させる仕事」と捉えれば請負(民法632条以下)、PR活動の遂行そのものを委ねると捉えれば準委任(民法656条)として扱われるのが一般的です。
請負であれば、注文者である企業は仕事の完成前ならいつでも契約を解除できますが、相手方の損害を賠償する必要があります(民法641条)。準委任でも各当事者はいつでも解除できますが、相手方に不利な時期の解除などでは損害賠償が必要です(民法651条)。いずれにしても「企業はいつでも中止できるが、タダでは中止できない」というのが基本の考え方です。ただし、損害の範囲や金額は個別の事情で争いになりやすいため、あらかじめ契約で段階と金額を決めておくことが最も確実な対策です。
中止・延期が起きる主な要因
インフルエンサー案件の中止・延期は、企業側の事情、インフルエンサー側の事情、どちらの責任でもない外部事情の3つに分けて整理できます。どの要因かによって費用の負担者が変わるため、契約書でも要因ごとに扱いを分けて書くのが基本です。
企業側の事情による中止・延期
企業側の事情で多いのは、商品の発売延期や仕様変更、在庫不足、予算の削減、社内承認の遅れ、キャンペーン方針の変更です。薬機法や景品表示法の観点から訴求内容を見直すことになり、撮影済みの素材が使えなくなるケースもあります。これらはインフルエンサーに落ち度がないため、原則として企業がキャンセル料と実費を負担します。
インフルエンサー側の事情による中止・延期
インフルエンサー側の事情としては、体調不良やけが、家族の事情、投稿期限の不履行、連絡が取れなくなる、炎上や不祥事による起用見直し、他社との競合案件の発覚などがあります。病気やけがのようにやむを得ない事情と、期限を守らない・無断で連絡を絶つといった債務不履行は、扱いを分けて考える必要があります。
どちらの責任でもない外部事情
大規模な災害や事件、社会情勢の急変、プラットフォームの仕様変更やアカウント停止などは、どちらの責任ともいえない外部事情です。災害の直後にPR投稿を出すとブランドの印象を損なうおそれがあるため、企業から延期を申し入れることも少なくありません。こうした場合に備え、契約書に不可抗力条項を設けて費用の分担を決めておきます。
| 要因の区分 | 主な例 | 費用負担の基本 |
|---|---|---|
| 企業側の事情 | 発売延期、予算削減、方針変更、承認遅れ、表現の見直し | 企業がキャンセル料と実費を負担 |
| インフルエンサー側のやむを得ない事情 | 病気、けが、家族の不幸 | 前払い分を返金し、日程変更か代替案で調整 |
| インフルエンサー側の債務不履行 | 期限不履行、連絡途絶、無断の内容変更、不祥事 | 前払い分の返金、商品返送、違約金(定めがある場合) |
| 外部事情(不可抗力) | 災害、大きな事件、アカウント停止、仕様変更 | 実費は企業、報酬は進捗に応じて協議 |
キャンセル料の段階別の目安
企業側都合で中止する場合のキャンセル料は、インフルエンサーの作業がどこまで進んでいたかで段階的に決めるのが一般的です。中止が後になるほど準備の負担と他案件を断った損失が大きくなるため、報酬に対する割合を段階的に引き上げます。
進捗段階ごとの目安
下の表は、撮影・制作業務で広く使われている段階的な取り消し料の設計と、インフルエンサー案件の進め方を踏まえて当メディアが整理した2026年10月時点の目安です。業界団体や公的機関が定めた基準ではないため、実際の金額は案件の規模や拘束の度合いに合わせて調整してください。
| 中止のタイミング | インフルエンサー側の主な作業 | キャンセル料の目安(報酬に対する割合) | 別途精算する実費 |
|---|---|---|---|
| 契約締結直後〜商品発送前 | 日程確保、事前確認 | 0〜10% | 原則なし |
| 商品到着後〜構成案の提出前 | 商品の試用、企画の検討 | 10〜30% | 商品の返送料 |
| 構成案の承認後〜撮影前 | 構成作成、撮影準備、他案件の調整 | 30〜50% | 手配済みの交通費・スタジオ予約料 |
| 撮影・編集後〜投稿前 | 撮影、編集、原稿の修正対応 | 50〜100% | 撮影費、外注費、交通費 |
| 投稿予定日の前日〜当日、または納品後 | 完成素材の納品、予約投稿の設定 | 100% | 発生した実費の全額 |
目安を調整するときの考え方
割合を決めるときは、インフルエンサーが失う機会の大きさを基準にします。投稿枠を1か月前から確保してもらう案件や、競合他社の案件を断ってもらう競合排除の条件がある案件では、早い段階でも割合を高めに設定するのが公平です。反対に、商品を送って自由に投稿してもらうギフティング中心の案件では、撮影前の中止であれば報酬の発生前として扱い、商品はそのまま渡すという整理もよく見られます。
報酬が少額の案件では、割合だけでなく下限額を決めておくと実態に合いやすくなります。たとえば報酬2万円の案件で撮影準備後に中止した場合、30%では6,000円となり、準備にかけた時間に見合わないことがあります。「報酬の30%または1万円のいずれか高い方」のように定めると、少額案件でも納得感が出ます。
想定例:撮影後に企業都合で中止したケース
- A社(想定例)が報酬10万円でリール投稿を依頼し、撮影・編集が終わった段階で商品パッケージの変更が決まり中止しました。
- 契約書の段階表で「撮影後〜投稿前は報酬の70%」と定めていたため、キャンセル料7万円と、本人が立て替えたスタジオ代1万5,000円を支払いました。
- 撮影素材は未公開のまま削除してもらい、二次利用もしない旨を書面で確認して精算を終えました。
企業側都合で中止する場合の費用設計
企業側都合で中止する場合は、段階別のキャンセル料に加えて、インフルエンサーが立て替えた実費と、作業済みの成果物の扱いをセットで決めます。この3点のどれかが抜けると、金額で合意できても後から追加の請求や素材の扱いをめぐる行き違いが起きやすくなります。
キャンセル料・実費・成果物の3点で設計します
キャンセル料は「準備と機会損失への補償」、実費は「実際に出ていったお金の精算」、成果物は「作ったものをどうするか」という別々の論点です。契約書では、キャンセル料の割合とは別に「キャンセル料とは別に、乙が中止までに支出した交通費・撮影費等の実費を、領収書の提出を条件に甲が負担する」と書いておくと、二重払いや支払い漏れを防げます。
成果物については、中止時に企業が受け取るか、インフルエンサーの手元で破棄してもらうかを決めます。報酬の全額を払う段階で中止するなら、素材を受け取って自社のSNSや広告に使いたいと考える企業もありますが、その場合は二次利用の範囲と期間を改めて合意する必要があります。中止を理由に、もともとの契約にない利用を無償で求めることは避けてください。
延期で済ませられないかを先に検討します
発売延期や表現の見直しが理由であれば、中止ではなく延期で対応できる場合があります。延期であればインフルエンサーは報酬を受け取る機会を失わず、企業もキャンセル料を払わずに済むため、双方にとって負担の小さい選択肢です。ただし延期が長期化すると、本人の投稿計画や他案件の受注に影響するため、延期の上限期間を決め、それを超えたら中止として精算するルールにしておきます。
代理店経由の案件では費用の流れを確認します
広告代理店やキャスティング会社を通して起用している場合、企業が支払うキャンセル料は代理店の手数料分とインフルエンサーへの支払い分に分かれます。代理店との契約で段階別のキャンセル料を定めていても、代理店とインフルエンサーの間の契約が異なる条件になっていると、本人に十分な補償が届かないことがあります。代理店経由の案件では、インフルエンサーへの支払い条件も確認しておくと、後々の関係悪化を防げます。
インフルエンサー側都合で中止となる場合の扱い
インフルエンサー側の都合で案件が中止になった場合は、前払い報酬の返金と提供商品の返送を基本とし、違約金は契約で定めた範囲に限って請求するのが一般的です。事情がやむを得ないものか、本人の責任による債務不履行かで対応を分けます。
やむを得ない事情の場合は代替案を優先します
病気やけが、家族の不幸といったやむを得ない事情の場合、違約金を請求するよりも、日程変更や代替の投稿形式で施策を成立させる方が企業にとっても得策です。フィード投稿をストーリーズに変える、撮影を伴わない投稿に切り替える、同じジャンルの別のインフルエンサーを紹介してもらうといった代替案をあらかじめ契約に書いておくと、話し合いが速く進みます。
債務不履行の場合の返金と違約金
投稿期限を守らない、連絡が途絶える、承認を得ずに内容を変えて投稿するなどの債務不履行がある場合は、催告をしたうえで契約を解除し、前払い報酬の返還を求めます。督促の進め方や返金請求の手順はインフルエンサー案件のトラブル対処と督促・返金の実務で詳しく解説しています。
違約金を定める場合は、報酬額を上限とするなど、相手の負担が過大にならない水準にとどめます。個人のインフルエンサーに対して報酬の数倍にあたる違約金を課す条項は、公序良俗に反するとして一部が無効と判断されるおそれがあり、取引上の立場の差を背景にした一方的な条件として問題視されることもあります。違約金の目的は罰することではなく、再手配にかかる費用を補うことだと考えると、妥当な水準を決めやすくなります。
提供商品と制作途中の素材の扱い
中止時に提供商品をどうするかは、商品の単価と開封状況で決めます。高額な商品や貸し出しの機材は返送してもらい、送料は中止の原因をつくった側が負担するのが公平です。化粧品や食品のように開封後は再利用できない商品は、返送を求めずに処分してもらう方が現実的です。商品の発送と返送の管理方法はギフティングの商品発送と住所管理を安全に進める手順も参考にしてください。
契約書への落とし込み(期限・段階・精算範囲)
キャンセル料のルールは、中止の連絡期限、段階別の割合、精算する費用の範囲、支払期日の4点を契約書に書くことで機能します。口頭やチャットでの合意だけでは、中止の時点がどの段階にあたるかで解釈が分かれやすいためです。
契約書に入れる条項のチェックリスト
中止・延期に関する条項として、最低限次の項目を入れておくと、ほとんどの場面に対応できます。契約書全体の作り方はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目で整理しています。
- 中止・延期の連絡方法(メール等の記録が残る手段に限る)と、連絡が有効になる時点
- 中止の時期ごとのキャンセル料の割合と下限額
- キャンセル料とは別に精算する実費の範囲と、領収書の提出期限
- 延期を無償で受けられる回数と期間、上限を超えた場合の扱い
- インフルエンサー側の債務不履行時の返金、違約金の上限
- 不可抗力の定義と、その場合の報酬・実費の分担
- 中止時の成果物の扱い(受領・破棄・二次利用の可否)
- キャンセル料と実費の支払期日
段階の区切りは客観的な出来事で決めます
段階の区切りを「撮影準備の開始」のようにあいまいな言葉で書くと、どの時点で準備を始めたのかで争いになります。「商品の到着日」「構成案の承認日」「撮影素材の提出日」のように、記録で確認できる出来事を区切りにすると、中止した時点がどの段階かを双方が同じように判断できます。案件の進行をチャットや管理ツール上で記録しておくことも、後の確認に役立ちます。
条文例のイメージ
条文は、たとえば「甲の都合により本業務を中止する場合、甲は中止の通知が乙に到達した時点の進捗に応じ、別表に定める割合のキャンセル料を乙に支払う。甲は、これとは別に、乙が中止までに本業務のために支出した交通費、撮影費その他の実費を、乙が領収書を提出した日の属する月の翌月末日までに支払う」のように書きます。これはあくまで考え方を示したイメージのため、実際の契約書は法務担当者や弁護士の確認を受けてから使ってください。
中止条項で見落としやすいポイント
- キャンセル料の支払期日を書き忘れると、フリーランス法上の支払期日の扱いがあいまいになります。
- 「甲はいつでも無償で本契約を解除できる」といった一方的な条項は、取消しの費用を相手に負わせる条件として問題になり得ます。
- 延期の上限を決めていないと、事実上の中止なのに精算されない状態が続きます。
日程変更(リスケ)時の扱い
日程変更は、連絡の期限と回数の上限を決めておけば無償で受けるのが一般的で、期限を過ぎた変更には段階別キャンセル料の考え方を準用します。リスケは中止ほど目立たないものの、繰り返されると本人の予定を圧迫するため、ルールがないと不満がたまりやすい場面です。
企業側から日程を変更する場合
企業側から撮影日や投稿日を変更する場合は、「撮影日の7日前までの連絡なら1回まで無償」といった基準を設けるのが実務的です。期限を過ぎてからの変更や2回目以降の変更では、確保していた日程の補償として報酬の一部を支払う、または再撮影にかかる費用を負担します。すでに撮影した素材を新しい投稿日に合わせて撮り直してもらう場合は、追加の撮影として別途報酬を払うのが基本です。
インフルエンサー側から日程を変更する場合
インフルエンサー側からの変更は、キャンペーン期間内に収まるかどうかで判断します。期間内に収まれば原則として受け入れ、セールの開始日や新商品の発売日など、日付そのものに意味がある投稿では、変更できない日程として契約時に明示しておきます。変更によって広告の配信日程を組み直す必要が出た場合の費用は、変更の理由をつくった側が負担するとしておくと公平です。
季節商材・期間限定キャンペーンの注意点
季節商材や期間限定のキャンペーンでは、延期すると投稿そのものの価値がなくなることがあります。たとえばクリスマス商戦向けの投稿を1月に延期しても、販売への効果はほとんど期待できません。こうした案件では「延期ではなく中止として精算する」と最初から決めておく方が、双方にとって分かりやすい整理になります。
中止時の返金・立替費用の精算(商品・交通費・撮影費)
中止時の精算は、報酬とキャンセル料、提供商品、立替費用の3つに分け、それぞれについて誰がいくら負担するかを一覧で確認するのが確実です。費用の種類ごとに扱いを決めておくと、中止の連絡から精算完了までを短期間で終えられます。
費用の種類別の精算ルール
| 費用の種類 | 企業側都合の中止 | インフルエンサー側都合の中止 | 確認する証憑 |
|---|---|---|---|
| 前払い報酬・着手金 | 返金を求めない(キャンセル料に充当) | 未着手分を返金 | 入金記録、契約書 |
| 提供商品 | 高額品は返送(送料は企業負担)、消耗品は譲渡 | 高額品は返送(送料は本人負担)、開封済みの消耗品は処分 | 発送記録、商品リスト |
| 交通費・宿泊費 | 手配済み分を企業が負担 | 本人負担 | 領収書、キャンセル規定 |
| スタジオ・機材費 | 予約済み分とキャンセル料を企業が負担 | 本人負担 | 予約確認、領収書 |
| カメラマン・ヘアメイク等の外注費 | 発生済み分を企業が負担 | 本人負担 | 外注先の請求書 |
立替費用は上限と事前承認で管理します
交通費や撮影費をインフルエンサーが立て替える案件では、あらかじめ上限額と事前承認のルールを決めておきます。中止になった後に、承認していない高額なスタジオ代や遠方への移動費を請求されると、支払うべきかどうかで揉めやすくなります。「1件あたり1万円を超える立替費用は事前に企業の承認を得る」と決めておけば、中止時の精算も承認済みの範囲に限定できます。
キャンセル料の税務上の扱い
消費税の扱いについては、国税庁の消費税法基本通達5-5-2で、予約の取消しなどに伴って受け取るキャンセル料のうち逸失利益などの損害賠償の性格を持つものは課税対象外とされる一方、事務手数料にあたる部分は課税対象とされています。作業済み部分の対価として報酬を払う場合は通常の報酬と同じく課税対象になるため、精算書では「キャンセル料」と「作業済み部分の報酬」を分けて記載しておくと経理処理がしやすくなります。個人のインフルエンサーへの支払いでは源泉徴収の要否も論点になるため、報酬の税務全般についてはインフルエンサー報酬の源泉徴収とインボイス対応の実務を確認し、判断に迷う場合は税理士に相談してください。
フリーランス法・取適法(旧下請法)の観点での注意点
個人のインフルエンサーに直接発注している場合、案件の中止はフリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)の規制と深く関わります。2026年10月時点では、取消しの費用を負担せずに一方的に案件を取り消すと「不当な給付内容の変更」として問題になる可能性があります。
フリーランス法で注意すべき3つのポイント
1つ目は、発注の取消しが禁止行為に当たる可能性です。フリーランス法では、1か月以上の業務委託について、受領拒否、報酬の減額、買いたたき、不当な給付内容の変更・やり直しなど7つの行為を禁止しています。公正取引委員会などの解説では、発注の取消し(契約の解除)も給付内容の変更に含まれるとされ、それまでにかかった費用を企業が負担しないまま取り消すと、不当な給付内容の変更に当たるおそれがあります。
2つ目は、中止を理由とした報酬の減額や受領拒否です。完成した投稿素材を「方針が変わったので不要になった」として受け取らない、または報酬を減らすことは、インフルエンサーに責任がない限り禁止行為に当たる可能性があります。3つ目は、6か月以上の継続的な業務委託を中途解除する場合で、原則として30日前までの予告が必要です。アンバサダー契約のような長期の契約を打ち切る際は特に注意してください。法律の全体像はフリーランス法の発注者義務とインフルエンサー発注の実務でまとめています。
取適法(旧下請法)が関係する場面
下請法は改正により、2026年1月1日から「中小受託取引適正化法(取適法)」として施行されています。インフルエンサーが法人化している場合や事務所の法人を通して発注する場合で、資本金や従業員数の基準を満たし、取引が情報成果物作成委託などに当たるときは、取適法の規制を受けることがあります。たとえば広告代理店やPR会社が、広告主から受けたインフルエンサー施策の制作をインフルエンサーの法人に再委託する場合などが代表的です。
取適法でも、発注者側の都合による発注取消しや受領拒否、代金の減額は禁止行為として扱われており、考え方はフリーランス法とほぼ共通です。広告主が自社の宣伝のために直接発注する場合は対象外となることも多いものの、適用の有無は取引の内容で判断が変わるため、自社がどの立場で発注しているかを一度整理しておくと安心です。
法令の観点から見た中止時の対応表
| 場面 | 避けるべき対応 | 望ましい対応 |
|---|---|---|
| 企業都合で撮影後に中止 | 報酬を払わずに取り消す | 段階別キャンセル料と実費を支払う |
| 完成素材が不要になった | 受け取りを拒否し報酬を減らす | 受領したうえで報酬を支払い、使うかどうかは企業が判断する |
| 長期契約の打ち切り | 翌日から契約を終了する | 30日前までに予告し、理由の開示を求められたら応じる |
| 延期が長引いている | 精算しないまま放置する | 延期の上限を超えた時点で中止として精算する |
法令判断は最新情報で確認します
- 本記事の法令に関する記述は2026年10月時点の公開情報をもとにした一般的な整理で、個別の案件への法的判断ではありません。
- フリーランス法は公正取引委員会・厚生労働省、取適法は公正取引委員会・中小企業庁の公表資料で最新の解釈を確認してください。
中止連絡から精算完了までの実務フロー
中止が決まったら、まず記録が残る手段で速やかに連絡し、中止時点の段階を双方で確認してから、精算書の作成と支払いへ進めます。連絡が遅れるほどインフルエンサーの作業が進み、キャンセル料と実費が増えるため、社内で中止を決めた当日に連絡するのが原則です。
中止の連絡で伝える内容
中止の連絡では、中止の理由、中止が有効になる日時、契約上の段階とキャンセル料の金額、精算する実費の範囲と領収書の提出方法、商品と素材の扱い、支払予定日を一度に伝えます。理由を説明せずに金額だけを伝えると、本人に不信感が残りやすく、今後の起用にも影響します。企業側の都合で中止する場合は、まずお詫びを伝えたうえで具体的な条件を示すと、関係を損なわずに精算を進められます。
精算完了までのチェックリスト
- 中止の連絡をメール等で送り、相手が受け取ったことを確認した
- 中止時点の段階(商品到着・構成承認・撮影素材提出など)を記録で確認した
- キャンセル料の金額と実費の内訳を精算書にまとめ、本人の確認を得た
- 領収書を受け取り、事前承認した範囲の立替費用かを確認した
- 商品の返送または譲渡、素材の破棄または受領の扱いを書面で確認した
- 支払期日を決め、経理に支払いを依頼した
- 中止の経緯と精算内容を案件記録に残した
中止の記録を次の契約に生かします
中止の経緯と精算内容を記録しておくと、段階表の割合や延期の上限が実態に合っていたかを見直す材料になります。たとえば撮影前の中止が多い場合は、社内承認のタイミングを前倒しすることで中止そのものを減らせます。キャンセル料の支払いが続く場合は、報酬の条件交渉の段階で中止リスクも含めて合意しておくことが有効で、その進め方はインフルエンサー報酬の条件交渉の進め方で解説しています。支払いのタイミングそのものを見直したい場合はインフルエンサー施策の支払いサイト設計もあわせて確認してください。
Bloomでは、案件の募集から応募者とのやり取り、投稿の確認までをプラットフォーム上で進められるため、商品の到着や構成案の承認、素材の提出といった進行の記録が自然に残ります。中止や日程変更が起きたときも、どの段階で止まったかを双方が同じ画面で確認できるため、段階別のキャンセル料の判断がしやすくなります。
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