若年層のファン化やLTV向上を狙うとき、「安いから買う」「便利だから買う」とは別の購買理由として注目されているのが、推しを応援したいから買うという応援消費です。ただ、推し活マーケティングに取り組みたくても、応援の動機を施策にどう組み込めばよいのか、公式IPと組めない場合にインフルエンサーをどう起用すればよいのかが分からないという声は少なくありません。本記事では、2026年9月時点で出典を確認できる推し活市場のデータを整理したうえで、「応援したいから買う」動機を生む3つの条件、推し活文脈でのインフルエンサー起用の3つの型、推し活層に支持される起用者の審査基準、そして権利・炎上リスクとファン心理を損なうNG施策までを、ブランド担当者が企画書に落とせる形で解説します。

この記事の要点

  • 推し活マーケティングとは、「好きな対象を応援したいからお金を使う」という応援消費の動機を、自社の商品購入やブランド体験に結びつけるマーケティング手法です。
  • 推し活総研(CDG・Oshicoco)が2025年1月に発表した調査では、推し活人口は約1,384万人、市場規模は約3兆5,000億円と推計されています。数値は調査ごとに定義が異なるため、出典と定義を揃えて読む必要があります。
  • 応援消費を施策に組み込む鍵は、「商品が推しへの貢献になる」「応援した記録が残る」「仲間と共有できる」の3条件を満たす設計にすることです。値引きや限定の乱発では再現できません。
  • インフルエンサー起用では、フォロワー数よりも「コメント欄に応援の言葉が継続的に集まっているか」を審査するほうが、推し活層に届く起用者を選べます。
  • 肖像権・パブリシティ権・著作権の確認、ステマ規制と景品規制への対応、そしてファンを「利用している」と受け取られる設計の回避が、推し活施策の前提条件になります。

推し活マーケティングの定義と応援消費の仕組み

推し活マーケティングとは、生活者が「推し」と呼ぶ人物やキャラクター、作品を応援するためにお金や時間を使う行動に着目し、その応援の動機を自社商品の購入やブランドへの継続的な関与につなげるマーケティング手法です。一般的なプロモーションが「商品の良さ」を伝えて購買を促すのに対し、推し活マーケティングは「この商品を買うことが推しの応援になる」「この体験が推し活の一部になる」という意味づけを設計する点に特徴があります。

財務省の広報誌「ファイナンス」令和7年11月号のコラム「経済トレンド137 推し活 ~若年層を中心に急成長する消費形態~」でも、推し活は「アイドルやアニメ、俳優、ゲームキャラクターなど『推し』と呼ばれる存在を応援するためにお金や時間を投じる行為」と整理され、若年層を中心に拡大する消費形態として取り上げられています。行政の資料で消費形態として扱われるほど、推し活は一過性の流行ではなく定着した行動になっています。

推し活・推し消費・応援消費の違い

3つの言葉は近い意味で使われますが、施策を設計する際は区別しておくと議論が整理しやすくなります。推し活は応援する行動全体を指し、ライブへの参加やSNSでの発信、グッズの収集など、お金を使わない行動も含みます。推し消費はそのうち金銭の支出を伴う部分です。応援消費は、推し活に限らず「作り手や地域を支えたい」という動機で行う購買全般を指す、より広い概念です。

企業が狙うべきなのは、応援消費の動機そのものです。推しの存在する領域だけでなく、自社ブランドや起用するインフルエンサーに対しても「応援したい」という感情を生み出せれば、価格や機能の比較から一段外れた購買理由を作れます。

ファンマーケティングとの違い

ファンマーケティングは、自社ブランドのファンを増やし、その熱量を事業成長に生かす考え方です。推し活マーケティングは、すでに生活者の中に存在する「推しへの熱量」を借りる、あるいは起点にする点が異なります。前者は熱量を一から育てる長期戦、後者は既存の熱量に接続して短期間で反応を得やすい一方、熱量の持ち主はあくまで推し側にあるという違いがあります。

観点推し活マーケティングファンマーケティング
熱量の起点生活者がすでに持つ推しへの感情自社ブランドへの愛着
主役推し(人物・キャラクター・起用者)自社ブランド・商品
立ち上がりの速さ速い(既存の熱量に接続)遅い(熱量を一から育てる)
主なリスク推しの扱いへの反発・権利関係熱量が育つ前の予算切れ
成果の持続企画終了で途切れやすい育てば長く続く

若年層のLTV向上に効く理由

推し活が若年層のLTV向上に効くのは、応援消費が「一度買って終わり」ではなく、繰り返し行う行動だからです。推しの新しい活動が発表されるたびに支出が発生し、その都度SNSで共有されます。この反復の回路に自社ブランドを組み込めれば、購入頻度と話題化の両方を継続的に得られます。Z世代全体の消費行動や情報収集の傾向はZ世代マーケティングの実務ガイドで整理していますので、本記事ではその中でも「応援」という動機の設計に絞って解説します。

推し活市場の規模と応援消費のデータ

推し活の市場規模は、推し活総研(CDG・Oshicoco)の推計で年間約3兆5,000億円です。ただし推し活の定義や対象分野は調査会社ごとに異なり、数値の幅が大きいため、社内資料に引用する際は必ず出典と調査時期を併記してください。本記事では2026年9月時点で確認できた調査のうち、一次発表元を確認できたものだけを掲載します。

主要調査の数値比較

調査主体・発表時期調査概要主な数値
推し活総研(株式会社CDG・株式会社Oshicoco)
2025年1月31日発表
2025年1月16日〜23日実施、15〜69歳の男女23,069人推し活人口 約1,384万人(実施率16.7%)、市場規模 約3兆5,000億円、1人あたり年間支出 255,035円
矢野経済研究所「オタク」に関する消費者アンケート調査
2025年12月22日発表
2025年7月実施、15〜69歳の男女10,000人31分野の1人あたり年間平均消費金額 50,472円、オタク層で推しがいる割合 64.2%、非オタク層で21.5%
ビデオリサーチ ひと研究所
2025年9月30日公開
2025年1月31日〜2月2日実施、全国13,786サンプル推しがいる人のうち、推しが関与している商品を必要性を感じなくても買ってしまう人が34.6%

推し活総研の数値は推し活に積極的に支出する層を対象にしているため1人あたり支出が大きく、矢野経済研究所の数値はオタク層全体の平均のため小さく出ています。どちらが正しいかではなく、測っている範囲が違うと理解してください。出典は推し活総研の発表矢野経済研究所のプレスリリースビデオリサーチの研究レポートです。

推しが購買判断に与える影響

ビデオリサーチ ひと研究所の調査では、推しがいる人のうち「推しが起用されている商品を買うようにしている」「購入時に選ぶことがある」にあてはまる人がいずれも40%を超えています。また「多少金額が高くても買ってしまう」「価格によって購入意向は左右されない」にもそれぞれ3〜4割があてはまると報告されています。応援の動機が働く場面では、価格の比較が購買判断の中心から外れやすいことが読み取れます。

財務省のコラムでは、クロス・マーケティングの2024年2月の調査をもとに、余暇時間に推し活をしている人が全体の2割、20代女性では45%に達するというデータも紹介されています。若年女性を主要ターゲットにする商材であれば、推し活の文脈を無視して施策を組むことは、顧客の生活時間の大きな部分を見落とすことと同じです。

数値を施策に読み替えるときの注意

市場規模の大きさは、自社がその市場を取れることを意味しません。推し消費の大半はチケット・グッズ・配信など推し本人に直接つながる支出に向かっており、周辺の商品が取り込めるのは一部です。社内で予算を通す際は、市場規模ではなく「自社の顧客層のうち推し活をしている人の割合」と「その人たちの既存顧客としての購入頻度」を自社データで確認し、そこから施策の効果を見積もるほうが説得力を持ちます。

確認できない数値は資料に載せない

推し活市場については、出典の明記がない数値や、調査時期の古い数値が二次情報として多く流通しています。社内外の資料に引用する場合は、発表元のページで調査時期・対象・定義を確認し、確認できなかった数値は使わないことをおすすめします。数値の信頼性が崩れると、施策そのものの説得力も失われます。

「応援したいから買う」動機を生む3つの条件

応援消費の動機は、「購入が推しへの貢献になる」「応援した記録が残る」「仲間と共有できる」という3つの条件がそろったときに強く働きます。値引きや限定特典だけでは応援の動機は生まれず、単なるお得な買い物として処理されてしまいます。施策を企画する段階で、この3条件をどこまで満たしているかを確認してください。

貢献実感:買うことが推しの力になる

応援消費の中心にあるのは、自分の支出が推しの活動や評価につながっているという実感です。売上ランキングへの反映、コラボの継続決定、起用者への次回オファーなど、購入の結果が推し側に返っていく構造が見えると、購入は「応援行動」として認識されます。企業側は「このキャンペーンの成果によって次の企画が決まります」といった形で、購入と推しの未来を結ぶ情報を誠実に開示することが有効です。ただし成果目標を煽る表現は、ファンに過剰な負担を強いる印象を与えるため避けてください。

記録と所有:応援した証が手元に残る

推し活層は、応援した事実を形として残すことを重視します。限定パッケージ、シリアル番号入りのカード、購入者だけが見られるメッセージ、参加証明となるデジタル特典などは、商品の機能とは別の価値を持ちます。持ち運べる、飾れる、写真に撮って共有できるという要素があると、商品は推し活の「道具」として日常に組み込まれ、購入後も接触が続きます。

共有と帰属:同じ推しを持つ仲間とつながれる

推し活は個人の行動であると同時に、同じ推しを持つ人たちとの共同体の活動でもあります。購入報告をSNSに投稿しやすいハッシュタグ、写真映えする開封体験、ファン同士が集まれるイベントや企画などは、応援を共有する場を提供します。共有された投稿はUGCとして次の購入者を呼び込むため、共有の仕組みは話題化と売上の両方に効きます。UGCを集めて二次利用する際の権利処理はUGCマーケティングの活用法と二次利用の進め方で詳しく解説しています。

条件施策に落とすと満たせていないときの症状
貢献実感成果の推し側への還元を開示、次回企画との連動1回買って終わり、リピートが発生しない
記録と所有限定デザイン、シリアル、購入者限定コンテンツ購入後にSNS投稿が生まれない
共有と帰属専用ハッシュタグ、開封体験、ファン参加企画話題化せず広告費に頼り続ける

推し活マーケティングの主な手法と向き不向き

推し活マーケティングの手法は、IP・タレントとのコラボ、インフルエンサー起用、アンバサダー化、ファン参加型のUGC企画、推し活グッズや体験の提供の5つに大別できます。費用と権利処理の重さが大きく異なるため、予算規模と自社商材の性質から現実的な組み合わせを選ぶことが重要です。

手法別の比較

手法初期費用の目安感権利処理の重さ立ち上がり向いている企業
IP・タレントとのコラボ大きい(ライセンス料・最低保証が発生しやすい)重い数か月全国流通の商品を持つ大手・中堅
インフルエンサー起用小〜中(人数と規模で調整可能)中(肖像・二次利用の契約)数週間中小企業・D2C・新商品の検証段階
アンバサダー化中(継続報酬・運営工数)数か月リピート商材・コミュニティを持ちたい企業
ファン参加型UGC企画小〜中中(投稿の利用許諾)数週間写真映えする商品・体験を持つ企業
推し活グッズ・体験の提供小〜中軽い(公式IPを使わない場合)数週間文具・雑貨・飲食・宿泊・カラオケ等の場や道具を持つ企業

表の費用感は相対比較です。IPコラボのライセンス条件は権利者ごとに個別交渉となり、公開された相場がないため、本記事では金額を断定しません。検討する場合は、権利元または正規のライセンスエージェントに直接確認してください。

IPコラボとインフルエンサー起用の使い分け

IPコラボは熱量の大きさで勝る一方、インフルエンサー起用は小さく始めて検証できる点で勝ります。人気IPのコラボは発表だけで大きな反応を得られることがありますが、権利者の承認プロセスが長く、表現の自由度も限られます。インフルエンサー起用は、起用者自身が持つ「応援されている関係」を借りる形になり、規模は小さくても、コメント欄で継続的に応援が交わされている起用者であれば推し活に近い反応を得られます。まずインフルエンサー起用で自社商品と応援消費の相性を検証し、手応えを得てからIPコラボを検討する順序が、予算の限られる企業には現実的です。

推し活の「道具」になる商品設計

公式IPを使わなくても、推し活の場面で使われる道具や場所を提供することで推し活需要を取り込めます。例えば、推しのメンバーカラーを選べる文具、アクリルスタンドを飾れる収納、推しの誕生日を祝う飲食プラン、ライブ遠征向けの宿泊プランなどです。特定の推しに依存しないため権利リスクが小さく、推しが誰であっても使ってもらえる汎用性があります。この場合は、推し活をしているインフルエンサーに「自分の推し活でどう使っているか」を紹介してもらう起用が相性の良い組み合わせになります。

インフルエンサーを推し活文脈で起用する具体的な打ち手

推し活文脈でのインフルエンサー起用は、「起用者自身が推されている構造を生かす」「推し活をしている起用者に推し活の道具として紹介してもらう」「ファンが参加できる継続企画にする」の3つの型に整理できます。どの型を選ぶかで、選ぶべき起用者の条件もKPIも変わります。

型1:起用者自身を応援しているファンに届ける

1つ目の型は、フォロワーから「推し」として応援されているインフルエンサーを起用し、その応援の熱量を自社商品に接続する方法です。起用者がプロデュースに関わった限定セット、起用者の名前を冠したコラボメニュー、購入数に応じて起用者の次の企画が実現する仕組みなどが該当します。ファンにとっては、商品を買うことが起用者の実績になり、応援の貢献実感を得られます。コラボ商品を作る場合の契約や利益配分はインフルエンサーコラボ商品の作り方と契約の要点を参考にしてください。

型2:推し活をしている起用者に道具として紹介してもらう

2つ目の型は、自分自身が推し活をしている様子を発信しているインフルエンサーに、自社商品を「推し活の道具」として紹介してもらう方法です。遠征の持ち物紹介、痛バッグの作り方、推しの誕生日を祝うカフェ巡りといった投稿は、推し活層が日常的に検索・保存するジャンルです。商品が主役ではなく、推し活の一場面に自然に置かれることで、広告としての違和感を抑えられます。特定の推しの名前や公式画像を投稿に含める場合は権利者の規約に抵触するおそれがあるため、事前に表現の範囲を取り決めてください。

型3:ファンが参加できる継続企画にする

3つ目の型は、単発の投稿で終わらせず、ファンが企画に参加し続けられる仕組みを作る方法です。起用者とフォロワーが一緒に新フレーバーを決める投票企画、購入者の投稿を起用者が紹介するリレー企画、一定期間ごとに新しい限定デザインが解禁される企画などが該当します。継続企画は起用者との長期契約が前提になるため、単発起用とは契約設計が異なります。長期契約の設計はインフルエンサーの継続起用と長期契約の設計・運用ガイドで、ファンを組織化する方法はアンバサダープログラムの設計と運用の始め方で解説しています。

選ぶべき起用者主なKPI注意点
型1:起用者自身のファンに届けるコメント欄で応援の言葉が継続的に交わされている人コラボ商品の販売数・再購入率ファンへの過度な購入の煽り
型2:推し活の道具として紹介推し活の様子を日常的に発信している人保存数・指名検索・ECの流入第三者IPの権利侵害
型3:ファン参加の継続企画フォロワーとの双方向の交流が多い人参加者数・UGC数・継続購入者数運営工数と長期契約の管理

推し活層に支持される起用者の審査・選定基準

推し活層に届く起用者を選ぶ基準は、フォロワー数やいいね数ではなく、「応援の関係がフォロワーとの間に継続的に存在しているか」です。推し活マーケティングでは、起用者が持つ熱量をそのまま商品に接続するため、数字が大きくても応援の関係が薄い起用者では反応が生まれません。Bloomで起用者の応募を審査する際にも、この観点を重視しています。

数字より先に見るべきコメント欄の質

コメント欄は、応援の関係があるかどうかを最も正確に示します。「いつも応援しています」「次の投稿も楽しみです」といった継続的な応援の言葉、フォロワー同士の会話、起用者からの返信の頻度は、推し活に近い関係が成立しているサインです。反対に、絵文字だけの短いコメントが大量に並ぶ場合や、投稿内容と無関係な定型文が多い場合は、応援の関係が薄いか、エンゲージメントが水増しされている可能性があります。エンゲージメントの水増しを見抜く手順はフェイクフォロワーの見分け方と選定でのチェック手順にまとめています。

推し活文脈との相性を判定するチェック項目

推し活施策の起用者審査では、通常の適合性チェックに加えて、推し活特有の観点を確認します。ブランドとの適合性全般を点数化する方法はインフルエンサーのブランド適合性を5軸で判定するチェック手順で紹介していますので、以下はその上乗せ項目として使ってください。

チェック項目確認方法合格の目安
応援コメントの継続性直近20投稿のコメント欄を目視応援・期待を示す具体的なコメントが複数投稿で継続している
フォロワーとの双方向性起用者の返信・ストーリーズでの質問募集の有無フォロワーの声に反応する習慣がある
他ファン層への配慮過去投稿で他の推しやファンを揶揄していないか特定のファン層を貶める発信がない
権利への理解公式画像・楽曲の無断使用がないか第三者IPの素材を無断で使っていない
PR投稿の頻度と反応直近のPR投稿とその他投稿の反応差PR投稿でもコメントの質が大きく落ちていない
競合案件の有無同カテゴリ商品のPR履歴直近3か月に競合商品のPRがない

審査制プラットフォームで候補を絞り込む利点

推し活施策で起用者を探す際は、候補の母数よりも審査の質が成果を左右します。SNS上で一から候補を探すと、コメント欄の目視確認に膨大な工数がかかり、確認が甘いまま起用を決めてしまいがちです。Bloomは登録時に審査を行ったインフルエンサーの中から、企業が募集条件を提示して応募を受け付ける仕組みのため、応募者のプロフィールと過去投稿を確認したうえで起用者を決められます。推し活のように「関係の質」が問われる施策ほど、審査を通過した候補から比較検討する進め方が向いています。

フォロワー規模は小さくても構いません

推し活文脈では、フォロワー数万人規模の起用者のほうが、数十万人規模の起用者よりもフォロワーとの距離が近く、応援の関係が濃い傾向があります。1人の大規模な起用者に予算を集中させるより、応援の関係が確認できた小〜中規模の起用者を複数起用し、どの起用者のファンが最も反応したかを比較するほうが、次の施策の精度を高められます。

応援消費を施策に組み込む設計手順

応援消費を施策に組み込む手順は、「自社顧客の推し活実態の把握」「応援の対象の決定」「3条件を満たす企画設計」「起用者の審査と契約」「測定と継続判断」の5段階です。企画から入ると、推し活層に響かない施策や権利上の問題を抱えた施策になりやすいため、必ず実態の把握から始めてください。

5段階の進め方

  1. 自社顧客の推し活実態を把握する:既存顧客へのアンケートやSNS上の購入者投稿から、推し活をしている顧客の割合と、どのジャンルの推しが多いかを確認します。
  2. 応援の対象を決める:公式IP、起用するインフルエンサー、推しを持たない汎用的な推し活需要のどれに接続するかを決めます。権利処理の重さと予算がここで決まります。
  3. 3条件を満たす企画を設計する:貢献実感・記録と所有・共有と帰属のそれぞれについて、具体的な仕掛けを1つ以上用意します。
  4. 起用者を審査し、契約で表現範囲を決める:前章のチェック項目で起用者を選び、PR表記、二次利用の範囲、第三者IPの扱い、企画中止時の対応を契約に明記します。
  5. 測定して継続を判断する:単発の売上ではなく、再購入率やUGCの発生数を見て、継続企画に移行するかを判断します。

企画例:推し活需要に接続する雑貨ブランドの場合

以下は説明のための仮想の例です。推し活用の収納雑貨を扱うブランドが、推し活の様子を発信しているインフルエンサー5名を起用し、「推しの色で選べる限定カラー」を発売するとします。起用者はそれぞれ自分の推し活での使い方を投稿し、購入者には専用ハッシュタグでの投稿を呼びかけます。一定数の投稿が集まった時点で次の限定カラーを解禁すると事前に告知しておけば、購入と投稿が次の企画の実現につながり、貢献実感・記録・共有の3条件を同時に満たせます。

設計段階の実務チェックリスト

権利・炎上リスクとファン心理を損なうNG施策

推し活マーケティングで最も大きな損失を生むのは、権利侵害とファン心理を軽んじる企画です。推し活層は推しへの扱いに敏感で、企業の姿勢が「推しやファンを利用している」と受け取られると、応援の熱量はそのまま批判の熱量に変わります。企画段階で次の3つの観点を必ず確認してください。

肖像権・パブリシティ権・著作権の確認

実在のアイドル・俳優・キャラクターを施策に登場させる場合、権利者の許諾なしに名前・写真・イラスト・楽曲を使うことはできません。著名人の氏名や肖像が持つ顧客吸引力を無断で商業利用することは、パブリシティ権の侵害にあたるおそれがあり、最高裁判所も平成24年2月2日の判決でパブリシティ権を人格権に由来する権利として認めています。キャラクターのイラストや作品のロゴは著作権や商標権の対象です。起用したインフルエンサーの投稿に公式画像や楽曲が映り込む場合も、企業が依頼した広告投稿である以上、企業側の責任が問われる可能性があります。「推しの名前を出さなければよい」と考えて、髪型や衣装、メンバーカラーの組み合わせで特定の人物を想起させる表現も、権利者やファンから問題視されやすいため避けてください。

ステマ規制と景品規制への対応

インフルエンサーに依頼した投稿は、2023年10月1日に施行された景品表示法のステルスマーケティング規制の対象です。消費者庁のステルスマーケティング規制の解説のとおり、事業者の表示であることを一般消費者が判別できるよう、PR表記を明確に入れる必要があります。推し活文脈の投稿は私的な推し活の記録と見分けがつきにくいため、通常以上に表記の徹底が求められます。表記の具体的なルールはステマ規制とは?景表法対応と#PR表記の実務ガイドで確認してください。

限定グッズの抽選やシリアル特典を組み込む場合は、景品規制にも注意が必要です。消費者庁の景品規制の解説によると、2026年9月時点で、一般懸賞の景品の最高額は取引価額5,000円未満なら取引価額の20倍、5,000円以上なら10万円で、総額は売上予定総額の2%までです。購入者全員に配る総付景品は、取引価額1,000円未満なら200円、1,000円以上なら取引価額の10分の2が上限です。また、複数の異なる種類の絵柄をそろえると景品がもらえる「カード合わせ」の方式は、懸賞景品の告示で全面的に禁止されています。コンプリートを促す企画は推し活層の収集欲求と結びつきやすいため、企画書の段階で必ず確認してください。

ファン心理を損なうNG施策

法令に違反していなくても、ファン心理を損なう企画は炎上と離反を招きます。代表的なNG施策と、その代わりに取るべき設計を以下にまとめます。

NG施策ファンに伝わる印象代わりに取るべき設計
推しが脇役で、商品の主張ばかりが目立つ推しを販促の道具に使っている推しや起用者の魅力が主役になる構成にする
特典のランダム封入で大量購入を誘導するファンの熱量を搾取している購入数に関わらず選べる特典を用意する
限定・再販なしの告知を短期間に繰り返す希少性で煽っている再販や受注生産の方針を事前に明示する
推しのイメージに合わない商材とのコラボ推しへの理解がない推しの活動や世界観との接点を説明できる商材に限る
他の推しやファン層を比較・揶揄する表現ファン同士の対立を煽っている特定の推しや層を下げる表現を使わない
転売対策をせずに数量限定品を販売する本当のファンが買えない購入数制限や抽選販売を設計に入れる

起用者の炎上は推し活層に最も速く伝わります

推し活層は情報の共有速度が速く、起用者や企画に関する批判は数時間で広がります。起用者の過去の発言、他ファン層との対立歴、企画の中止条件は事前に確認し、問題が起きた際の初動対応者を決めておいてください。発生時の具体的な対応手順はインフルエンサー施策の炎上対策と発生時の初動対応にまとめています。

推し活マーケティングの効果測定とLTVの見方

推し活マーケティングの効果は、施策期間中の売上ではなく、再購入率とUGCの発生数、そして施策後の指名検索の推移で評価します。応援消費は反復する行動であり、一度の企画の売上だけで判断すると、継続によって積み上がる価値を見落とします。

見るべき指標と目的の対応

目的主な指標見る時期
応援の関係への接続起用者投稿のコメント数・保存数・コメントの内容投稿後72時間以内
共有と話題化専用ハッシュタグの投稿数・UGCの件数企画期間中から終了後2週間
購買への転換クーポンコード・専用リンク経由の購入数企画期間中
LTVの向上企画経由の購入者の再購入率・購入間隔企画終了後3〜6か月
ブランドへの定着指名検索数・公式アカウントのフォロー継続率企画終了後1〜3か月

起用者ごとの反応差を見る際は、フォロワー数で割ったエンゲージメント率だけでなく、コメントの中身を確認してください。「買いました」「〇〇さんが紹介していたので」といった購入や応援を示すコメントが多い起用者は、次回の継続起用候補になります。エンゲージメント率の目安と読み方はインフルエンサーのエンゲージメント率の目安と見方で解説しています。

短期売上だけで継続可否を判断しない

推し活施策の初回は、準備した在庫や特典の量によって売上が上下しやすく、初回の売上だけでは施策の実力を判断できません。企画経由で購入した顧客が、次の企画でも購入しているか、企画と関係のない通常商品も購入しているかを追跡してください。企画経由の顧客の再購入率が通常顧客を上回っていれば、推し活文脈への接続が顧客の定着に効いていると判断できます。反対に、企画時だけ購入して通常商品に移行しない場合は、推しへの熱量を借りただけで自社ブランドへの応援に転換できていないため、共有と帰属の設計を見直す必要があります。

次の企画につなげる振り返りの観点

振り返りでは、3条件のうちどれが機能し、どれが機能しなかったかを具体的に言語化してください。購入者の投稿に「応援」という言葉が多ければ貢献実感が、開封写真が多ければ記録と所有が、ファン同士の交流が多ければ共有と帰属が機能していたと判断できます。機能しなかった条件を次の企画で補強し、反応の良かった起用者との継続起用を検討することで、推し活マーケティングは単発の話題作りから、若年層顧客のLTVを積み上げる仕組みへと育っていきます。

本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム「Bloom」(株式会社ハーマンドット)が運営しています。