自治体のインフルエンサー活用は、観光誘客だけの手段ではありません。シティプロモーション、移住定住の促進、ふるさと納税の寄附拡大、特産品のPRまで、SNS発信が担える範囲は年々広がっています。一方で、原資が公金である以上、民間企業と同じ進め方はそのまま通用しません。調達手続き、仕様書の書き方、議会や住民への説明責任、成果の可視化という四つの壁を越える必要があります。この記事では、自治体・観光協会・商工会のご担当者に向けて、企画から公募、実施、報告までの実務を2026年8月時点の情報で整理しました。

この記事の要点

  • 自治体のインフルエンサー活用は、観光誘客よりもシティプロモーション・移住定住・ふるさと納税・特産品PRとの相性が良く、目的ごとに指標も起用者の選び方も変わります。
  • 原資が公金であるため、企画段階で調達方式を先に決めます。企画力を問うなら公募型プロポーザル、内容が固まっていて少額なら見積合わせという整理になります。
  • 仕様書には投稿本数だけでなく、二次利用の範囲、PR表記の方法、報告書に載せる指標をあらかじめ書き込んでおくと、成果報告の段階で困りません。
  • 地元インフルエンサーは信頼性と継続性、広域インフルエンサーは初速のリーチという役割分担で併用すると、費用対効果が安定しやすくなります。
  • 自治体の事業でも景品表示法のステルスマーケティング規制の対象になり得ますので、PR表記のルールは委託先任せにせず仕様書の段階で決めておきましょう。

自治体のインフルエンサー活用が広がる背景と適した領域

自治体のインフルエンサー活用は、公式アカウントだけでは届かない層へ情報を届けるための手段です。公式アカウントのフォロワーは、もともと地域に関心がある住民や出身者に偏りがちで、新しく関心を持ってもらいたい相手にはそもそも情報が表示されません。すでに関心層を抱えている個人の発信力を借りることで、この構造的な壁を越えようという発想が広がっています。

2026年8月時点で各自治体のサイトを見ると、栃木県の令和7年度インフルエンサー活用情報発信業務委託、姫路市の地域の魅力発信インフルエンサー広告等業務委託、妙高市のインフルエンサーを活用した地域魅力発信強化業務委託など、都道府県から市町村まで公募情報が数多く掲載されています。単発の話題づくりではなく、年度事業として予算化する流れが定着しつつあります。

シティプロモーションという枠組みでの位置づけ

シティプロモーションとは、自治体が地域の魅力や価値を地域の内外に発信し、認知・来訪・移住・寄附といった具体的な行動につなげていく一連の活動です。観光PRだけを指す言葉ではなく、住民の地域への愛着を高める内向きの取り組みも含みます。インフルエンサー起用は、この枠組みの中では認知獲得と態度変容を担う一手段という位置づけになります。

この位置づけを庁内で共有しておくことが、後の説明責任の土台になります。インフルエンサーを起用すること自体が目的化してしまうと、成果報告の段階で何をもって成功と言うのかが決められなくなるためです。

公式アカウント運用との役割の違い

公式アカウントは、確実性と網羅性が求められる情報の担い手です。制度案内、防災情報、イベント告知といった内容は、正確さが第一で、伝わり方の面白さは二の次になります。これに対してインフルエンサーの投稿は、暮らしぶりや食べている表情のような、公式が発信しにくい生活感を届ける役割を担います。

両者は代替関係ではなく補完関係です。インフルエンサー投稿で興味を持った人が公式アカウントや移住相談窓口へ流れる導線を用意しておくと、施策の効果が受け皿に着地します。導線を用意しないまま投稿だけ増やしても、話題は残っても行動は残りません。

観光誘客とシティプロモーションの切り分け

観光誘客と混同しやすい点は、あらかじめ切り分けておくことをおすすめします。観光誘客は来訪という比較的短い期間で結果が出る行動を目指しますが、移住定住や関係人口づくりは検討期間が年単位に及びます。同じ予算枠の中で両方を追いかけると、評価の物差しが混ざって議会説明が難しくなります。観光施策としての誘客設計は旅行・観光業のインフルエンサー活用と誘客の設計で詳しく扱っていますので、宿泊者数や来訪者数を主目的とする事業ではそちらもあわせてご覧ください。

目的別に見る四つの活用領域と設計の違い

自治体のインフルエンサー施策は、移住定住、ふるさと納税、特産品・地場産業PR、関係人口づくりの四つに整理すると設計しやすくなります。この四つは、届けたい相手も、使うべきプラットフォームも、成果として見るべき数字もそれぞれ異なります。ひとつの委託契約にすべてを詰め込むと、投稿内容が総花的になり、どの層にも刺さらない結果になりがちです。

四つの領域の比較

2026年8月時点で公表されている自治体の公募情報や事例紹介をもとに、領域ごとの設計の違いを整理すると次のとおりです。

目的主なターゲット相性の良い媒体主要な成果指標向く起用者
移住定住の促進20代後半〜40代の子育て世帯・二拠点希望層Instagram・YouTube移住相談件数、現地見学の申込数実際に移住した地元在住者
ふるさと納税の寄附拡大30代〜50代の都市部給与所得者Instagram・YouTube・X寄附件数、返礼品ページの閲覧数食・暮らし系の広域インフルエンサー
特産品・地場産業のPR商品カテゴリの購買層・小売バイヤーInstagram・TikTokEC売上、取扱店の増加数専門性のあるマイクロ層
関係人口づくり地域に縁のある域外在住者・学生Instagram・YouTubeイベント参加者数、継続来訪者数地元出身の発信者

移住定住プロモーションの設計

移住定住は、四つの中で最も検討期間が長い領域です。投稿を見た人がその月に移住することはまずありませんので、寄せられた相談件数や現地見学の申込数のような中間指標を評価軸に据える必要があります。投稿内容としては、観光地の景色よりも、通勤時間、保育園の空き状況、買い物の不便さといった生活の実像が求められます。

千葉県松戸市は、市のプレスリリースで、2026年3月から市内の公園を舞台にした体験型の投稿を通じて子育て環境を紹介する取り組みを公表しています。子育て世帯という対象を絞り、公園という具体的な場面に落とし込んでいる点が、移住定住領域での設計として参考になります。

ふるさと納税と特産品PRの設計

ふるさと納税のプロモーションは、寄附という金額に直結する行動が発生するため、四つの中では成果を最も追いやすい領域です。ただし寄附の申込はポータルサイト上で完結することが多く、SNS投稿からの流入を正確に追うにはUTMパラメータ付きのリンクや専用ページの用意が欠かせません。計測設計を後回しにすると、寄附額が伸びても施策の貢献分を示せない状態になります。

特産品や地場産業のPRでは、フォロワー数の大きさより、その商品カテゴリでの専門性を優先したほうが結果につながりやすい傾向があります。数千人から1万人規模のマイクロインフルエンサーの使い方はマイクロインフルエンサー活用の完全ガイドと費用感で詳しく解説しています。

地元インフルエンサーと広域インフルエンサーの併用設計

費用対効果が安定するのは、地元インフルエンサーと広域インフルエンサーを役割分担させて併用する設計です。どちらか一方に寄せると、届く範囲が狭すぎるか、地域理解が浅すぎるかのどちらかに偏ります。年度事業として組み立てるなら、両者の比率と担当領域を企画段階で決めておくことをおすすめします。

二つのタイプの特性比較

比較項目地元インフルエンサー広域インフルエンサー
フォロワーの所在域内・近隣県に集中全国または都市部に分散
1投稿あたりの費用感数万円〜十数万円が中心数十万円〜数百万円
強み地域理解の深さ・住民からの信頼初速のリーチ量・話題化
弱み域外への到達が限定的単発で終わりやすい・地域理解が浅い
継続起用のしやすさ高い(年間を通じた発信が可能)低い(撮影の再訪コストが大きい)
住民への説明のしやすさ地域への還元が説明しやすい費用の妥当性の説明に資料が必要

費用感は2026年8月時点での一般的な目安であり、実際の金額は媒体、拘束時間、二次利用の範囲によって大きく変わります。相場の考え方はインフルエンサー起用の料金相場【2026年完全ガイド】にまとめていますので、予算要求の資料づくりの際にご参照ください。

地元インフルエンサーを起用するときの留意点

地元インフルエンサーの最大の価値は、投稿が終わった後も地域に残る点にあります。委託期間が終わっても地域で暮らし、発信を続けてくれる可能性があるためです。妙高市のように、地域おこし協力隊の枠組みで発信人材を迎え入れる進め方は、この継続性を制度として担保する工夫と言えます。

一方で、地元の方を起用する場合は公平性への配慮が必要になります。特定の個人や店舗ばかりが露出すると、住民から不公平だという声が上がることがあります。募集の仕方を公募型にする、対象店舗をエリアや業種で分散させるといった運用ルールを、事前に決めておくと安心です。

広域インフルエンサーの選定基準

広域インフルエンサーは、フォロワー数だけで選ぶと期待した反応が得られないことがあります。宮崎県のインフルエンサー等情報発信事業の仕様書では、Instagramのフォロワー数が1万人以上といった影響力の基準に加えて、2名以上の選定と分析結果の報告が求められています。数の要件と質の要件を両方置くという考え方は、他の自治体でも応用できます。

質を測る指標としては、エンゲージメント率とフォロワーの実在性の二つが基本になります。判断の手順はインフルエンサーのエンゲージメント率の目安と見方フェイクフォロワーの見分け方と選定でのチェック手順で具体的に扱っていますので、仕様書の評価項目を作る前に一度目を通しておくと精度が上がります。

公金支出のルールと調達方式の選び方

自治体のインフルエンサー起用でまず決めるべきは、企画内容ではなく調達方式です。原資が公金である以上、地方自治法と各自治体の財務規則に沿った手続きを踏まなければ、どれだけ良い企画でも執行できません。企画を固めてから契約担当課に相談して手戻りが発生する、という失敗が実務では最も多く見られます。

調達方式ごとの向き不向き

調達方式適する場面実務上の注意点
一般競争入札実施内容と数量が完全に確定している場合価格のみの競争になり、企画の質を評価できません
公募型プロポーザル起用者の選定や企画立案を提案に委ねたい場合公告から審査まで2〜3か月を見込む必要があります
企画競争(コンペ)成果物のクリエイティブ自体を比較したい場合提案者の負担が大きく、参加辞退が出やすくなります
少額随意契約金額が規則の範囲内で内容も固まっている場合上限額は自治体ごとに異なるため事前確認が必須です
地域おこし協力隊等の委嘱発信人材を年単位で地域に迎え入れたい場合制度要件と居住要件の確認が必要になります

価格競争が向かない理由

インフルエンサー施策は、一般競争入札との相性が良くありません。同じ投稿10本という条件でも、誰に投稿してもらうかで成果が桁違いに変わるためです。価格だけで決めてしまうと、要件を満たす最も安価なアカウントが並ぶ提案が選ばれ、リーチもエンゲージメントも伸びないという結果になりかねません。

そのため、2026年8月時点で公表されている自治体の公募情報でも、公募型プロポーザルを採用している例が目立ちます。提案書で起用候補の考え方と選定基準を示させ、価格は評価点の一部として扱う方式です。予定価格の上限を示したうえで企画を競わせる形にすると、質と説明可能性の両方を確保できます。

プロポーザルの評価項目づくり

評価項目は、企画の妥当性、起用候補の選定方針、実施体制、成果の測定方法、見積金額という五つの柱で構成すると整理しやすくなります。配点は企画関連に厚く置き、価格点は全体の2割から3割程度に抑える形が一般的です。審査委員に外部有識者を入れる場合は、事前に評価基準の読み合わせをしておくと、審査当日の議論が噛み合います。

手続きは必ず契約担当課と事前協議を

調達方式の選択基準や少額随意契約の上限額は、地方自治法施行令を踏まえて各自治体の規則で個別に定められています。この記事の内容は一般的な整理ですので、実際の手続きは所属自治体の財務規則と契約事務の手引きにもとづき、企画の初期段階で契約担当課と協議してください。単年度予算の制約から、年度をまたぐ投稿スケジュールが組めないケースもあります。

委託仕様書に書くべき項目と書き方

仕様書の完成度が、そのまま事業の成否を決めます。投稿本数と金額だけを書いた仕様書では、成果報告の段階で受託者と自治体の認識がずれ、次年度の予算要求に使える材料も残りません。書き込むべき項目をあらかじめ知っておけば、初めて担当する事業でも抜けのない仕様書を作れます。

業務範囲と成果物の定義

業務範囲では、投稿の本数と媒体だけでなく、企画立案、インフルエンサーの選定と交渉、現地でのアテンド、撮影素材の納品、実施報告書の作成という工程を分けて記載します。特に現地アテンドの担当が曖昧なままだと、当日になって自治体職員が全行程に同行することになり、想定外の業務が発生します。

成果物としては、投稿URLの一覧、撮影した写真と動画の元データ、各投稿のインサイト画面の写しを求めておくと確実です。インサイトは投稿後一定期間で数字が変動しますので、取得の基準日を仕様書に明記しておくことをおすすめします。

インフルエンサーの要件の書き方

起用するインフルエンサーの要件は、フォロワー数の下限だけでは不十分です。フォロワーの主な居住地域、年齢層、直近3か月のエンゲージメント率、過去に炎上や規約違反の事実がないことといった条件を並べておくと、提案の質が揃います。特定の個人名を仕様書に書くと調達の公平性の観点で問題になり得ますので、要件として書くのが原則です。

また、投稿内容の事前確認をどこまで行うかも書き分けが必要です。事実関係の誤りの修正は必須としつつ、表現や構成には過度に介入しないという線引きを明示しておくと、受託者とインフルエンサー双方が動きやすくなります。指示書の作り方はインフルエンサーディレクションの進め方と指示書が参考になります。

二次利用・著作権・肖像権の条項

自治体案件でとりわけ重要なのが、二次利用の範囲です。投稿してもらった写真をパンフレットやポスター、移住サイトに使いたいという要望は、事業が終わった後に必ず出てきます。使用媒体、使用期間、地域、改変の可否を仕様書と契約書に書いておかないと、後から追加の許諾交渉と追加費用が発生します。契約条項の考え方はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目にまとめています。

仕様書に入れておきたい10項目

  • 業務の目的と対象とする層の定義
  • 投稿媒体・本数・実施時期・投稿の残置期間
  • 起用者の要件(フォロワー属性・エンゲージメント率・欠格事由)
  • 現地コーディネートと旅費の負担区分
  • 投稿内容の事前確認の範囲と修正依頼の手順
  • PR表記の方法と表示位置
  • 二次利用の範囲・期間・改変の可否
  • 撮影素材の納品形式と権利処理の完了確認
  • 報告書に記載する指標と数値の取得基準日
  • 投稿削除や炎上が発生した場合の対応と連絡体制

議会・住民への説明責任と合意形成の進め方

自治体のインフルエンサー起用で最も質問を受けるのは、なぜその金額でその人なのかという点です。民間企業であれば経営判断で済む話が、公金では議会答弁と住民への説明が必要になります。説明の材料は事業が終わってから集めるものではなく、企画段階から積み上げておくものだと考えてください。

支出の妥当性を示す三つの材料

用意しておきたい材料は、他手段との費用比較、選定過程の記録、事前に設定した目標値の三つです。費用比較では、同じリーチを新聞広告やテレビCM、SNS広告で得た場合の概算を並べると、金額の水準を相対的に説明できます。SNS広告との比較の考え方はSNS広告とインフルエンサー施策の使い分け比較で整理していますので、答弁資料の作成時に使えます。

選定過程の記録は、プロポーザルの審査調書と、受託者が提出した起用候補の選定理由書がそのまま該当します。これらを事業ファイルに揃えておけば、情報公開請求があった場合にも慌てずに対応できます。

起用者の選定理由を言語化する

この人を選んだ理由は、フォロワー数が多いからという説明では通りにくくなっています。フォロワーの年齢層と居住地が事業の対象層と一致していること、過去の投稿で扱ってきたテーマが地域の資源と重なることといった、対象との適合性で説明するのが基本です。数字と根拠をセットで残す習慣が、そのまま説明責任への備えになります。

あわせて、選定にあたって欠格事由の確認を行った記録も残しておきます。過去の規約違反や不適切な投稿の有無を確認したという事実は、万一の際に手続きの適正さを示す材料になります。

住民の納得感を高める巻き込み方

住民の納得感は、地域内への還元が見えるかどうかで大きく変わります。撮影で立ち寄る店舗を公募で募る、地元の高校生や大学生に企画段階から参加してもらう、投稿で使った写真を地域の商工団体が自由に使える形にするといった工夫が有効です。外部の人が来て撮って帰っただけ、という印象を残さない設計を心がけてください。

また、投稿の反響を住民に共有する機会をつくると、地域への愛着を高める内向きの効果も生まれます。実施報告を庁内資料で終わらせず、広報紙やイベントで住民に還元する流れまで含めて企画すると、事業の価値が二重になります。

成果の可視化と自治体向けKPIの三層設計

成果の可視化は、アウトプット指標・アウトカム指標・インパクト指標の三層に分けて設計します。この三層を混ぜて報告すると、リーチ数は大きいのに移住者が増えていないではないかという議論になり、事業の評価が正しく行えません。層ごとに測るタイミングと責任範囲が違うことを、報告書の冒頭で示しておくことをおすすめします。

三層の指標と測定時期

指標の例測定時期受託者の責任範囲
アウトプット投稿本数、リーチ数、再生数、保存数投稿後30日受託者が直接責任を負う範囲
アウトカム特設ページの閲覧数、相談件数、寄附件数投稿後30〜90日導線設計まで含めた共同責任
インパクト移住者数、寄附総額、認知度調査の数値年度末・翌年度自治体側の政策評価の領域

受託者に約束させるのはアウトプット層までとし、アウトカム層は共同で追いかける形にすると、契約上の責任範囲が明確になります。インパクト層まで受託者の成果として求めると、応札者が減るか、達成しやすい目標値だけが提案されることになりかねません。指標の作り方はインフルエンサー施策のKPI設計とテンプレートに汎用のテンプレートを載せています。

移住・寄附という遅行指標の扱い

移住や寄附は、投稿から結果までのタイムラグが長い遅行指標です。この性質を織り込まずに単年度で評価すると、成果が出ていないという結論に短絡しやすくなります。対策としては、移住相談フォームに知ったきっかけを選ぶ項目を設ける、特設ページに専用のURLを用意してアクセス経路を記録するといった、途中経過を捕まえる仕掛けを事前に組み込みます。

計測ツールと設定の実務はインフルエンサー施策の効果測定の方法と計測ツールで扱っています。投稿が始まってから計測環境を整えようとすると初速のデータを取り逃しますので、公告の前に準備を終えておくのが理想です。

報告書のまとめ方

報告書は、数値の羅列ではなく、次年度の意思決定に使える形にまとめます。具体的には、投稿ごとの数値一覧、伸びた投稿と伸びなかった投稿の要因分析、対象層への到達状況、次年度に向けた改善提案という四部構成が使いやすい形です。要因分析の記載を仕様書で求めておけば、受託者から知見が引き出せます。

なお、成果指標は年度当初に決めた数値のまま報告することが原則です。目標に届かなかったときに指標を差し替えると、事業の継続性を評価できなくなります。届かなかった理由を分析して次に活かす形が、結果として議会への説明も通りやすくなります。

ステマ規制と公務としてのPR表記の実務

自治体が費用を負担して投稿を依頼する場合も、景品表示法のステルスマーケティング規制への対応が必要です。2023年10月1日に施行されたステルスマーケティング告示では、事業者が自らの表示であることを消費者が判別困難な表示が規制の対象とされ、責任を問われるのは投稿者ではなく依頼した事業者側とされています。委託先に任せきりにせず、自治体としてのルールを持っておくことが求められます。

自治体の事業がどこまで対象になるか

規制は、商品またはサービスを供給する事業者による表示を対象としています。ふるさと納税の返礼品や特産品、指定管理施設の利用促進のように、自治体が供給に関わる立場で費用を負担して投稿を依頼する場合は、対象になり得ると考えて設計するのが安全です。純粋な移住施策のように商品の供給を伴わない場合でも、対価を払って投稿してもらった事実を隠す進め方は、住民の信頼という観点から避けるべきです。

実務上の結論はシンプルで、対価や便益を提供して投稿を依頼したのであれば、原則としてすべての投稿に関係性を明示するという運用にしておけば迷いません。判断の線引きに悩む時間そのものが、担当者の負担になります。

表記の具体例と表示位置

表記は、投稿の冒頭など消費者が最初に目にする位置に置くことが基本です。PR、広告、プロモーション、○○市からの依頼による投稿といった表現が使われます。ハッシュタグを大量に並べた末尾に紛れ込ませる形は、判別困難と評価されるおそれがありますので避けてください。動画では、概要欄だけでなく冒頭のテロップや音声でも触れる形が安全側の運用です。

自治体の場合は、市名や県名を入れた表記にすると、誰からの依頼かが一目で伝わります。表記ルールの全体像はステマ規制とは?景表法対応と#PR表記の実務ガイドで媒体別に整理していますので、仕様書の別紙として活用いただけます。

アンバサダー委嘱や無償依頼の扱い

報酬を支払わない場合でも、注意が必要です。旅費や宿泊費を負担した、返礼品や特産品を無償で提供した、施設の利用料を免除したといった経済的な便益がある場合は、対価性があると評価される可能性があります。無償だから表記は不要という判断はしないでください。

観光大使やアンバサダーを委嘱している場合も同様です。委嘱状を交付し、自治体との関係が公表されていて、投稿を見た人がその関係を認識できる状態であれば問題になりにくいと考えられますが、関係が明らかでない投稿については表記を入れておくほうが確実です。判断に迷う事案は、消費者庁が公表している運用基準を確認したうえで、法務担当課や顧問弁護士にご相談ください。

リスク管理と炎上発生時の初動対応

自治体案件では、炎上が起きたときの損失が民間企業よりも大きくなります。事業の中止だけで済まず、議会での追及、報道、担当課への苦情対応まで波及するためです。起用前の確認、投稿前の確認、発生後の初動という三段階で、あらかじめ手順を決めておくことをおすすめします。

起用前に確認しておくこと

候補者が決まった段階で、過去の投稿を一定期間さかのぼって確認します。政治的・宗教的に強い主張を繰り返していないか、他者への攻撃的な発信がないか、過去に規約違反や広告表示のトラブルがなかったかという観点です。受託者に確認させるだけでなく、自治体側でも最終候補については目視で確認する体制にしておくと安心できます。

あわせて、契約書に反社会的勢力の排除条項と、著しく信用を損なう行為があった場合の解除条項を入れておきます。公金支出である以上、これらは必須の備えになります。

投稿内容の確認範囲の決め方

投稿の事前確認は、やりすぎても足りなくても問題が起きます。行き過ぎた修正指示は、インフルエンサー本来の表現を損ない、フォロワーからも広告っぽいと受け取られて効果が落ちます。一方で確認をまったくしないと、施設名や制度の説明に誤りが混じったまま公開されてしまいます。事実関係と権利関係は必ず確認し、表現や構成は本人に委ねるという線引きが現実的です。

確認の際は、撮影場所の許可、写り込んだ第三者の肖像、店舗名や商品名の掲載可否といった権利関係を重点的に見ます。公共施設であっても撮影や公開に許可が必要な場所がありますので、ロケハンの段階で整理しておきます。

発生時の初動と連絡体制

炎上が起きた場合は、事実確認、一次対応の判断、公表という順で進めます。最も避けたいのは、事実確認が終わる前に投稿を削除してしまう対応です。削除は隠蔽と受け取られやすく、かえって拡散を招くことがあります。誰が判断し、誰が対外的に答えるのかという役割を、事業開始前に紙に書いておいてください。初動の考え方はインフルエンサー施策の炎上対策と発生時の初動対応で具体的に扱っています。

連絡体制としては、担当課、広報課、受託者、インフルエンサー本人という四者が休日でもつながる状態を整えておきます。投稿は土日に伸びることが多く、反応が出るのも平日の勤務時間内とは限りません。

年度スケジュールと庁内体制のチェックリスト

自治体のインフルエンサー事業は、逆算のスケジュールを引けるかどうかで成否が決まります。投稿を実施したい時期から逆算すると、公募型プロポーザルを採る場合は少なくとも4か月から6か月前に動き出す必要があります。年度末に予算がついてから考え始めると、繁忙期に撮影が重なって候補者が確保できないという事態になりがちです。

標準的な年度スケジュール

時期主な作業関係先
前年度8〜10月事業構想の整理、概算要求、他手段との費用比較財政課
前年度1〜3月仕様書の作成、調達方式の決定、公告文の準備契約担当課・法務担当課
4〜5月公告、質問回答、提案書の受付契約担当課
6月プロポーザル審査、受託者決定、契約締結審査委員会
7〜8月起用候補の確認、企画詳細の詰め、ロケハン受託者・関係施設
9〜11月撮影・投稿の実施、数値の中間確認受託者・広報課
12〜2月実施報告書の受領、成果の分析、次年度の企画反映財政課・議会対応

この表は公募型プロポーザルを前提とした一般的な例です。少額随意契約で実施する場合は、公告と審査の期間を短縮できますので、企画から実施まで2か月程度で回せることもあります。

庁内の役割分担

担当課だけで抱え込まないことが、事業を継続させるコツです。企画と受託者管理は主管課、表記ルールと危機対応は広報課、契約手続きは契約担当課、成果の政策的な評価は企画政策課という形で、あらかじめ分担表を作っておきます。人事異動で担当者が変わっても事業が止まらない状態をつくることが、単年度で終わらせないための条件になります。

あわせて、投稿データや撮影素材の保管場所を庁内で共有しておいてください。担当者の個人フォルダにしか素材がなく、翌年度に使えなかったという話は珍しくありません。

プラットフォームを使う選択肢

近年は、代理店へ一括で委託する形以外に、マッチングプラットフォームで候補を探し、選定過程を自治体側で記録に残す進め方も選べるようになりました。仲介形態ごとの違いはキャスティング会社 vs プラットフォーム徹底比較で比較していますので、次年度の調達設計を考える際の判断材料としてご覧ください。

Bloomが自治体案件で提供できること

Bloomは、審査制で登録されたインフルエンサー30,000人の中から、フォロワーの居住地域や属性、過去の投稿テーマをもとに候補を探せるプラットフォームです。誰をどのような理由で選んだかという記録が案件単位で残るため、選定過程の説明が求められる自治体や観光協会の事業とも相性が良い設計になっています。初期費用は0円で、地元インフルエンサーと広域インフルエンサーを同じ画面で比較しながら組み合わせられます。

本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム『Bloom』(株式会社ハーマンドット)が運営しています。