インフルエンサー施策で3社から見積もりを取ったものの、総額が80万円・120万円・45万円と並んだだけで、どれが安いのか判断できないという相談をよくいただきます。金額差の大半は値付けの差ではなく、前提条件の差から生まれます。起用人数もフォロワー規模も投稿本数も二次利用の範囲も違う3枚を横に並べれば、総額が違うのは当たり前です。この記事では、インフルエンサー施策の相見積もりを「総額の比較」から「条件をそろえた比較」に変えるための実務手順を解説します。依頼段階でそろえる8項目、発注先タイプごとに見積書の構造が変わる理由、比較する12項目のチェック表、投稿1本あたり単価とリーチ1,000あたり単価への換算方法、手数料の基数を読み替える計算、相見積もりのマナーと法務上の注意点、発注前チェックリスト14項目までをまとめました。金額の目安はいずれも2026年9月時点で公開されている一般的な情報にもとづく整理です。

この記事の要点

  • 相見積もりは金額を叩くための手続きではなく、条件差を可視化して発注根拠を作るための手続きです。
  • 比較の前に依頼条件をそろえます。目的とKPI・起用人数とフォロワー規模・投稿本数とフォーマット・実施時期・二次利用・修正回数・レポート・支払条件の8点を、同じ文面で全社に渡してください。
  • 総額は投稿1本あたり単価と想定リーチ1,000あたり単価に換算してから並べます。総額が最も安い見積もりが単価では最も高い、という逆転が普通に起こります。
  • 手数料は料率ではなく、料率を掛ける基数で金額が変わります。「報酬額の20%」なのか「実費を含む総額の20%」なのかを必ず明記してもらってください。
  • 他社の金額を示した値引き要求は避けてください。独占禁止法上の優越的地位の濫用や、2026年1月に施行された改正下請法(取適法)の趣旨に触れるおそれがあります。

インフルエンサー施策の相見積もりという手続き

インフルエンサー施策の相見積もりとは、同じ実施条件を複数の発注先候補に提示し、返ってきた見積書を同じ基準で並べたうえで発注先を決める手続きです。要点は「同じ実施条件」という部分にあります。条件を統一せずに集めた3枚は、単なる3つの提案であって相見積もりではありません。提案を比べる作業と、見積もりを比べる作業は目的が違います。

提案を比べる目的はアイデアの良し悪しを見ることで、見積もりを比べる目的は同じ買い物の価格差を見ることです。この2つを1回のやり取りで同時にやろうとすると、条件がそろわないまま金額だけが並び、結局は「担当者の印象」で決まります。相見積もりを機能させたいのであれば、条件を固定して価格差だけを浮かび上がらせる設計が必要です。

金額差の正体は値付けの差ではなく条件差

インフルエンサー施策の見積もりで総額が2倍以上ばらつくのは珍しくありませんが、その差の大半は値付けの巧拙ではなく前提条件の差から生まれます。起用人数が4名か6名か、フォロワー1万人層か10万人層か、投稿がリール1本かリール1本にストーリーズ3枚を足したものか、二次利用が付くか付かないか。この4点が違うだけで、総額は簡単に2倍3倍と動きます。

つまり、届いた見積書の総額を並べて最安を選ぶ行為は、条件がいちばん薄い提案を選ぶ行為とほぼ同じ意味になります。安い見積もりを引き当てたのではなく、少ない発注をしているだけ、という状態です。相見積もりの最初の仕事は、この条件差をすべて洗い出して見える状態にすることだと考えてください。

見積書を読む作業との役割の違い

相見積もりは複数枚を横に並べる作業で、見積書を読むのは1枚を縦に掘る作業です。1枚の中の費目を分解して妥当性を確認する手順はインフルエンサー起用の見積書の読み方と費用内訳の確認ポイントで整理していますので、まず1枚を読み切れる状態を作ってから横並びに進むと精度が上がります。縦の読み方を知らないまま横に並べても、比較の軸が総額しか残りません。

実務では、1社目の見積もりが届いた時点で費目の分解を済ませておき、その分解表をそのまま2社目以降の提出フォーマットとして指定する進め方が効率的です。フォーマットを先に配れば、比較表への転記作業がほぼ消えます。各社の様式で受け取ってから転記する場合、担当者の作業量は社数に比例して増えていきます。

相見積もりを取る局面と取らない局面

相見積もりが効くのは、初回の発注先選定、年間契約の更新前、担当代理店の費用が妥当か確認したいとき、そして社内の稟議で複数社比較の根拠を求められているときです。いずれも相場観がないか、説明責任があるかのどちらかの局面です。

逆に、実施までの日数が2週間を切っている案件、特定のインフルエンサー1名を指名する起用、前回とまったく同条件の継続発注では、相見積もりの効果は小さくなります。特に指名起用は窓口となる事務所やプラットフォームが限られるため、複数社に投げても同じ本人に行き着き、比較対象が手数料だけになります。継続発注の考え方はインフルエンサーの継続起用と長期契約の設計・運用ガイドで扱っています。

相見積もりを依頼する前にそろえる条件8項目

相見積もりの精度は、依頼文を出した時点でほぼ決まります。受け取ってから条件を後追いでそろえようとすると、各社への個別ヒアリングを何往復も重ねることになり、比較表が完成しないまま実施予定日が近づきます。依頼の段階で次の8項目を書き切ってしまうのが、結果的にいちばん速い進め方です。

全社に同じ文面で渡す8項目

依頼文に必ず入れる8項目と、その書き方、抜けたときに起きることを整理しました。この表をそのまま依頼文のひな形として使えます。

項目依頼文への書き方抜けたときに起きること
目的とKPI「認知獲得が目的。主KPIは動画総再生数」と1つに絞って書きます各社が別々のKPIで提案し、比較の軸が消えます
起用人数とフォロワー規模「フォロワー1万〜5万人層を6名」と帯で指定します人数と層がばらつき、総額の比較が成立しなくなります
投稿本数とフォーマット「1名あたりリール1本+ストーリーズ3枚」と単位で書きます「1名1投稿」の解釈が各社で割れます
実施時期と投稿期間「11月10日〜11月30日の間に投稿」と幅で指定します繁忙期の割増が乗った見積もりと乗らない見積もりが混ざります
二次利用の範囲媒体・期間・地域・改変可否の4条件を明記します二次利用込みの社と別料金の社が同じ土俵に並びます
修正回数と確認フロー「初稿確認1回+微修正1回まで」と上限を書きます修正費が後から追加請求される余地が残ります
レポートの範囲と提出時期「投稿後14日時点の指標をシートで提出」と書きますレポート費が含まれる社と別費用の社が混在します
支払条件と請求タイミング「月末締め翌月末払い・一括請求」と書きます前払い100%の社が資金繰り面で不利な条件になります

この8項目を1枚の依頼文にまとめ、全社に同じ本文をコピーして送ります。会社ごとに文面を変えないことが、比較可能性を担保する唯一の方法です。1社にだけ口頭の補足説明を足した瞬間、その社だけ前提が変わり、比較表は成立しなくなります。

予算とKPIを開示する範囲

予算は上限額を伝えるほうが、実務上は有利に働きます。予算を伏せると各社は自社の標準パッケージを提示してくるため、規模の異なる提案が並び、比較の前段で条件をそろえ直す作業が発生します。上限を伝えれば「同じ予算枠で何ができるか」という比較になり、各社の設計思想の差がそのまま見えます。

予算を伝えると全社が上限いっぱいで出してくるのではないか、という懸念もあります。実際にその傾向はありますが、上限に張り付いた提案同士を後述の12項目で比べれば、中身の差は明確に出ます。総額を下げたいのであれば、予算を伏せるより、条件を削ったうえで再提出を依頼するほうが確実です。

KPIは1つに絞って伝えてください。認知と獲得の両方を主KPIに置いた依頼文は、各社が異なる解釈で提案を組むため、比較の土俵そのものが壊れます。KPIの決め方はインフルエンサー施策のKPI設計とテンプレートにまとめています。

提出フォーマットと回答期限の指定

提出フォーマットは、費目の並びと金額の単位まで指定します。「インフルエンサー報酬・キャスティング手数料・ディレクション費・制作費・二次利用料・広告配信の管理費・実費・消費税の順で、税抜金額を記載してください」と書くだけで、比較表への転記が単純作業になります。指定がなければ、各社は自社が説明しやすい粒度で書いてきます。

回答期限は最低でも1週間、候補インフルエンサーの内諾が必要な提案であれば10営業日程度を見ておきます。3営業日しかない依頼は、候補の打診を省いた概算だけが返ってくる形になり、発注後に「そのインフルエンサーは押さえられませんでした」という事態を招きます。期限を切ること自体は正しい進め方ですが、短すぎる期限は見積もりの質を確実に下げます。

発注先タイプで見積書の構造が変わる仕組み

同じ施策を依頼しても、キャスティング会社・総合代理店・マッチングプラットフォームでは見積書の構造そのものが変わります。構造が違うものを行単位で突き合わせようとすると必ず破綻しますので、まずタイプを判別し、そのうえで共通の土俵に載せ直す順番で進めてください。

タイプ見積書の典型的な構造金額が見えやすい部分見えにくくなりやすい部分相性のよい案件
キャスティング会社型インフルエンサー報酬+手数料の2階建て誰にいくら払うかという人単位の内訳ディレクション作業の範囲の線引き特定層の指名起用や交渉が必要な案件
総合代理店型企画・制作・運用まで含むパッケージ施策全体を一括で任せられる範囲報酬と手数料の比率広告配信やクリエイティブ制作まで一体で回す案件
プラットフォーム型利用料または成果に応じた従量課金手数料率と課金が発生する条件進行支援やディレクションの範囲自社で進行を回せる体制がある案件

キャスティング会社型の見積構造

キャスティング会社型の見積書は、インフルエンサー報酬に手数料を上乗せする2階建てになっているのが基本です。人単位の内訳が出やすいため、誰にいくら払うのかを確認しやすいという利点があります。相見積もりの比較では、この人単位の内訳が最も情報量の多い材料になります。

注意したいのは、ディレクション費の作業範囲です。指示書の作成だけを指すのか、投稿前の確認と修正指示、投稿後のレポートまで含むのかで、同じ名称でも中身が変わります。範囲が列挙されていない場合は、作業項目を書き出したうえで含む・含まないを記入してもらうと、社ごとの差が一目で分かります。

総合代理店型の見積構造

総合代理店型では、企画から制作、広告配信までを含むパッケージとして提示されることが多くなります。一括で任せられる安心感がある一方、インフルエンサー報酬と手数料の比率が見えにくく、相見積もりでは他タイプと直接比べにくい形です。

この場合は、パッケージの内訳を「インフルエンサーに渡る金額」と「それ以外」の2つに分けて提示してもらうよう依頼します。詳細な原価開示までは求めず、2分割だけを依頼するのであれば応じてもらえるケースが多くなります。自社運用と委託の分担をどう決めるかは自社運用 vs 代理店委託 メリデメ完全ガイドで整理しています。

プラットフォーム型の見積構造

プラットフォーム型は、見積書というより料金体系の提示に近い形になります。月額の利用料か、報酬額に対する手数料率か、投稿1件あたりの成果課金か、という課金モデルの違いがそのまま金額の見え方の違いになります。2026年9月時点で公開されている各社の解説記事では、マッチングプラットフォームの利用手数料は10〜30%程度という整理が多く見られます。

プラットフォーム型を相見積もりに入れる場合は、「同じ6名を起用したときの総支払額」を試算値として出してもらうと、他タイプと横に並びます。料率だけを見て安いと判断すると、進行管理の工数が自社に残る点を見落とします。タイプ間の向き不向きはキャスティング会社 vs プラットフォーム徹底比較で詳しく比較しています。

相見積もりで比較する12項目

相見積もりで比較すべき項目は12個に整理できます。総額・単価・手数料といった金額に直結する6項目と、候補の質や契約条件など品質とリスクに直結する6項目です。この12項目を列に取った比較表を作れば、担当者が変わっても同じ判断ができる状態になります。

金額に直結する6項目

#比較項目確認する内容差が出たときの読み方
1インフルエンサー報酬総額と、人単位またはフォロワー帯別の内訳内訳が出ない社は、条件変更時の増減も説明できません
2手数料の料率と基数何%か、そして何に対して掛けた%か同じ20%でも基数が違えば請求額は変わります
3ディレクション費含まれる作業の列挙と、工数か料率かの算定方法安い社は作業範囲が狭いだけの場合があります
4撮影・制作費本人の自主制作と別途制作の切り分け自主制作前提の社と別撮影前提の社は前提が違います
5二次利用料媒体・期間・地域・改変可否の4条件と金額条件の記載がない「込み」表記は未確定と同じです
6実費と消費税交通費・商品送付費の上限と精算方法、税抜税込の別上限のない実費は総額が後から膨らみます

金額側の6項目で最も差が出るのは2番と5番です。手数料の基数と二次利用の条件は、同じ数字が書かれていても意味が違う欄なので、比較表では金額のセルの隣に条件のセルを必ず置いてください。

品質とリスクに直結する6項目

#比較項目確認する内容差が出たときの読み方
7候補の提示方法実名で出るか、フォロワー帯の想定のみか、差し替えは何回まで可能か実名提示のある社は、選定の再現性が高い傾向があります
8修正回数と確認フロー初稿確認の有無、修正上限、超過時の費用確認フローのない社は投稿後に手直しできません
9未投稿・遅延時の補填代替起用か返金か、対応期限はいつまでか補填条項の有無は最安値の見積もりで欠けがちです
10ステマ規制への対応#PR表記のルール、広告主明示の運用、確認担当運用ルールが文書化されているかで実務差が出ます
11レポートの範囲取得指標、提出時期、生データの受け渡し可否スクリーンショットのみの社は再分析ができません
12支払条件と有効期限前払いの比率、締め支払いサイト、見積もりの有効期限前払い100%は実施前のリスクを自社が全部持ちます

10番のステマ規制対応は、2023年10月の景品表示法の指定告示以降、発注側の管理責任が問われる領域になっています。表記ルールの詳細はステマ規制とは?景表法対応と#PR表記の実務ガイドにまとめていますので、各社の運用ルールと突き合わせて確認してください。

12項目を使った差分の洗い出し方

比較表は、行に発注先、列に12項目を置いた形が使いやすい構成です。埋め終わったら、まず空欄になっているセルだけを抜き出します。空欄は各社が触れなかった論点であり、そこが後から追加費用やトラブルになる箇所です。

次に、同じ列の中で明らかに数値が離れているセルを探します。離れているのが金額なら条件を確認し、離れているのが条件なら金額への影響を試算します。この2ステップだけで、総額の眺め比べでは絶対に出てこない差分が言語化できます。

総額を同じ土俵に載せる単価換算の手順

総額の比較は、投稿1本あたり単価と想定リーチ1,000あたり単価に換算してから行います。総額をそのまま並べると、条件の薄い見積もりが自動的に「安い」と表示されてしまうためです。換算を挟むだけで、条件差を吸収したうえで価格の妥当性を見られるようになります。

投稿1本あたり単価への換算

投稿1本あたり単価は、総額を投稿本数で割って求めます。ここでの投稿本数は、フィード投稿・リール・ストーリーズをそれぞれ1本として数えると比較しやすくなります。ストーリーズは複数枚で1セットとして提示されることが多いため、「ストーリーズ3枚で1本」と数え方を先に決めて、全社に同じ数え方を適用してください。

数え方が決まっていない状態で単価を出すと、ストーリーズを枚数で数えた社が不当に安く見えます。相見積もりで数え方の統一は、金額の統一と同じくらい重要な前処理です。

想定リーチ1,000あたり単価への換算

想定リーチ1,000あたり単価は、総額を想定リーチで割って1,000を掛けて求めます。広告のCPMと同じ考え方で、リーチの規模が違う提案を横に並べるための指標です。フォロワー数ではなくリーチで割るのは、フォロワー数と実際に見られる回数が一致しないためです。

この指標を使うときは、各社が示した想定リーチの算定根拠を必ず確認してください。直近3か月の平均リーチ実績を積み上げた数字か、フォロワー数に一律の係数を掛けただけの数字かで、信頼度がまったく違います。根拠を示せない想定リーチは、比較表では参考値として扱い、判断の主軸には使わないでください。フォロワー数と実際の反応の関係はインフルエンサーのエンゲージメント率の目安と見方で解説しています。

3社の試算例と読み取り方

フォロワー1万〜5万人層を6名起用する想定で、3社の見積もりを換算した試算例を示します。数値は説明のための仮の値ですが、実務で頻繁に起こる逆転のパターンをそのまま再現しています。

項目A社B社C社
総額(税抜)80万円120万円45万円
起用人数6名6名4名
投稿本数6本12本4本
想定リーチ40万75万18万
投稿1本あたり単価13.3万円10.0万円11.3万円
リーチ1,000あたり単価2,000円1,600円2,500円
二次利用なし自社SNS3か月込みなし

総額だけを見ればC社が最も安く見えますが、単価に換算すると3社の中で最も割高です。総額が最も高いB社は、投稿1本あたりでもリーチ1,000あたりでも最安で、しかも二次利用が3か月分含まれています。このように、総額の順位と単価の順位が入れ替わる現象は例外ではなく、条件をそろえていない相見積もりでは日常的に起こります。

この表を稟議資料にそのまま載せると、決裁者から「なぜ最安値を選ばないのか」という質問が出た瞬間に説明が終わります。金額の説明を投資対効果の説明に接続する方法はインフルエンサーマーケティングのROIと費用対効果の測り方を参考にしてください。

手数料の見え方をそろえる読み替え方

手数料は料率そのものではなく、料率を掛ける基数で金額が決まります。同じ20%と書かれていても、インフルエンサー報酬に掛けるのか、制作費を含めた金額に掛けるのか、交通費などの実費まで含めた総額に掛けるのかで請求額は変わります。相見積もりでは、この基数をそろえない限り手数料の比較は成立しません。

料率の基数による差

インフルエンサー報酬60万円、制作費18万円、実費6万円という同じ内容の施策に対して、手数料20%を掛ける基数だけを変えた場合の金額を比較しました。料率は3社とも同じ20%です。

計算の基数計算式手数料の額実務上の受け止め方
インフルエンサー報酬のみ60万円×20%12.0万円報酬への上乗せとして理解しやすい水準です
報酬+制作費78万円×20%15.6万円制作費が大きい案件ほど差が開いていきます
実費を含む総額84万円×20%16.8万円立て替えた交通費にも手数料が乗る形になります

差額は最大で4.8万円、率にして40%の開きです。相見積もりの比較表では、料率の数字を書いた列の隣に必ず基数の列を置き、「報酬額の20%」のように基数まで含めた形で記入してください。2026年9月時点で公開されている各社の解説記事では、キャスティングやディレクションにかかる手数料はインフルエンサー報酬の10〜30%程度、20%前後を提示する例が多いと説明されています。

総額に手数料が埋め込まれている見積もりの扱い

パッケージ型やプラットフォーム型では、手数料が独立した行として現れず、総額に埋め込まれていることがあります。この場合、手数料率の欄を空欄のまま比較表に載せると、手数料ゼロの社のように見えてしまいます。埋め込み型は空欄ではなく「総額に内包」と記入し、後述の実質手数料率で換算してください。

埋め込みそのものが問題なのではありません。問題は、埋め込まれていることに気づかないまま、内訳を開示している社とだけ手数料を比べてしまう状態です。開示している社が高く見え、開示していない社が安く見えるという逆転が起きます。

実質手数料率の求め方

実質手数料率は、総額からインフルエンサーへ実際に渡る報酬を引き、その差額を報酬で割って求めます。総額84万円のうち報酬が60万円であれば、差額24万円を60万円で割った40%が実質手数料率です。制作費や実費が含まれている分だけ純粋な手数料率より高く出ますが、社をまたいだ相対比較には十分使えます。

この計算をするには、インフルエンサーへ渡る金額の開示が前提になります。開示を断られた場合でも、「報酬相当分が総額の何割か」という比率だけであれば回答を得られることがあります。比率すら出せない見積もりは、条件変更時の増減も説明できない見積もりだと考えて差し支えありません。

金額の外側で差がつく契約条件

相見積もりで最終的に差がつくのは、金額欄ではなく契約条件の欄です。金額は交渉で数%動く程度ですが、契約条件は施策が想定どおりに進まなかったときの損失を丸ごと左右します。特に二次利用・修正回数・補填の3点は、金額換算すると数十万円規模の差になることがあります。

二次利用の4条件

二次利用料は、媒体・期間・地域・改変可否という4条件の組み合わせで決まります。自社SNSでの再投稿を3か月だけ行う場合と、広告クリエイティブとして1年間配信し、さらに店頭POPにも展開する場合とでは、同じ投稿でも価格が大きく変わります。相見積もりで「二次利用込み」とだけ書かれた見積もりを見つけたら、4条件を文章で明記した書面に差し替えてもらってください。

比較表では、二次利用の列を金額と条件の2列に分けます。金額だけの列にすると、条件の狭い「込み」が条件の広い「別料金」より安く見えます。契約書側での押さえ方はインフルエンサー契約書の作り方と必須チェック項目で整理しています。

修正回数と差し替えの扱い

修正回数は、初稿確認の有無、修正の上限回数、上限を超えた場合の費用の3点で比較します。初稿確認そのものがないプランは、投稿されてから内容を知る形になるため、表現の手直しができません。薬機法や景品表示法に関わる商材では、初稿確認がないプランは実質的に候補から外れます。

あわせて、候補インフルエンサーの差し替えが何回まで無償かも確認してください。提案された候補が社内の審査で通らないことは普通に起こります。差し替え無償の回数が0回の社と2回の社では、実務の進めやすさがまったく違います。投稿前の確認手順はインフルエンサーディレクションの進め方と指示書で解説しています。

未投稿・遅延・キャンセル時の補填

補填条項は、代替起用で埋めるのか、該当分を返金するのか、どちらも選べるのかを確認します。あわせて、対応の期限も見ておいてください。「代替を手配します」とだけ書かれていて期限がない条項は、キャンペーン期間が終わってから代替が投稿される可能性を残します。

最安値の見積もりほど補填条項が欠けています

相見積もりで総額が突出して安い提案は、補填条項と初稿確認の欄が空白になっているケースが目立ちます。金額を下げるためにリスク対応の工数を落としている構造なので、安さそのものは説明がつきます。判断としては、その安さの分だけ自社がリスクを引き受ける前提になっている点を稟議資料に明記したうえで選ぶか、条件を足した再見積もりを依頼するかの二択です。トラブル発生時の実務はインフルエンサー案件のトラブル対処と督促・返金の実務にまとめています。

相見積もりで起こりやすい失敗パターン

相見積もりの失敗は、ほぼ5つのパターンに収まります。いずれも発注後に発覚するため、依頼の段階で予防策を組み込んでおくことが実務上の対策になります。

失敗パターン現場で起きること予防策
条件を統一しないまま総額比較条件の薄い提案を最安と誤認して発注します依頼文の8項目を全社共通にします
形だけの相見積もり発注先が事実上決まっている状態で他社に工数をかけさせます本命が決まっているなら1社見積もりに切り替えます
社数を増やしすぎる比較表が埋まらず、判断が先送りになります3社を基本とし、多くても4社までにします
有効期限切れ稟議が通った頃には見積もりが失効しています有効期限から逆算して社内の決裁日程を組みます
他社金額を伝えた値引き要求取引先との関係が悪化し、法務上のリスクも生じます自社の条件を基準にした条件交渉に切り替えます

条件を統一しないまま総額を比べる

最も多い失敗が、条件の統一をせずに総額だけを比べるパターンです。この状態で発注すると、実施後に「思ったより投稿が少ない」「二次利用ができない」という不満が出ますが、契約上はすべて想定どおりに履行されています。安く買ったのではなく、少なく買っただけだからです。

予防策は依頼文の統一に尽きます。条件をそろえた依頼文を出したうえで、それでも各社の提案内容がずれてきた場合は、ずれた部分を比較表の脚注に書き出し、金額への影響を試算してから並べてください。

形だけの相見積もりが招く影響

発注先が事実上決まっている状態で、社内手続きのためだけに他社から見積もりを取る進め方は避けてください。候補の打診や概算作成には各社の実務時間がかかっており、次回以降の提案の質や優先度に影響します。インフルエンサー施策の発注先は入れ替わりが少ない業界なので、一度失った信頼は長く残ります。

社内規程で複数社比較が必須になっている場合は、比較の目的を正直に伝えたうえで、簡易な概算での提出を依頼するのが現実的な折り合いです。詳細見積もりを求めておいて発注しないより、前提を伝えたうえで簡易見積もりを受け取るほうが、双方の工数が合います。

有効期限と発注時期のずれ

見積書には有効期限が設定されており、2026年9月時点で公開されている見積書関連の解説記事では、2週間から6か月まで幅があるものの30日前後を設定する例が多いと説明されています。インフルエンサー施策の場合、候補の稼働枠を押さえられる期間という意味合いも重なるため、実質的な期限は書面上の日付より短いこともあります。

社内の稟議に2週間かかるのであれば、見積もりの受領日から逆算して決裁の締切を先に押さえておいてください。期限切れ後の再見積もりでは、候補インフルエンサーの空きが埋まり、同じ人選が組めないという形で条件が悪化します。稟議の進め方はインフルエンサーマーケティングの稟議を通す提案資料の作り方にまとめています。

相見積もりのマナーと法務上の注意点

相見積もりであることは、依頼の最初に伝えるのが実務上の基本です。事前に伝えておけば、各社は競合前提の条件で提案を組めますし、後から他社比較が判明したときの不信感も生まれません。伏せて進めるメリットは、実務上ほとんどありません。

事前告知・条件統一・期限厳守

相見積もりのマナーとして一般に挙げられるのは、相見積もりである旨を事前に伝えること、全社に同じ条件で依頼すること、回答期限に余裕を持たせること、そして結果を必ず全社に連絡することの4点です。ビジネス実務の解説記事でも、この4点はほぼ共通して挙げられています。

このうち抜けやすいのが最後の結果連絡です。発注した1社にだけ連絡し、見送った社には何も返さない対応は、次回の提案依頼で確実に響きます。見送りの連絡は、決定した当日か翌営業日には出してください。

他社金額を持ち出した値引き交渉のリスク

他社の見積金額を示して値下げを迫る交渉は避けてください。取引上の立場が強い側が相見積もりを口実に不当な値下げを求めた場合、独占禁止法上の優越的地位の濫用に当たるおそれがあると指摘されています。金額を下げたいのであれば、他社名や他社金額ではなく、自社の予算上限と削れる条件を提示して交渉するのが正しい進め方です。

加えて、2026年1月1日には改正下請法が施行され、法律の名称が中小受託取引適正化法、通称は取適法へと変わりました。公正取引委員会と中小企業庁の公表資料によると、用語の見直しに加えて、協議に応じない一方的な代金決定の禁止や手形払いの禁止などが盛り込まれています。

インフルエンサー施策の発注では、発注側が大企業で、受注側がキャスティング会社や個人のクリエイターというケースが一般的です。取引の規模にかかわらず、価格は協議したうえで合意したという記録が残る形にしておくのが安全です。値引きの依頼をする場合も、削る条件とセットでメールに残してください。

見送り連絡の型

見送りの連絡は、感謝・結論・簡潔な理由・今後への一言という4要素で構成すると、短くても角が立ちません。理由の欄に他社名や他社金額を書かないことが唯一の必須ルールです。「今回は投稿本数と二次利用の条件が要件に合致した他社に決定しました」という程度の粒度で十分です。

断りにくさから連絡を遅らせるより、決まった時点で短く伝えるほうが相手の稼働枠も解放できます。次回の依頼で優先的に動いてもらえるかどうかは、この連絡の速さで決まる部分が小さくありません。

評価シートと社内稟議への落とし込み

発注先の決定は、重み付きの評価シートに落とすと社内で説明できる形になります。金額だけで決めていないこと、そして評価軸が事前に決まっていたことを示せるためです。配点は見積もりを受け取る前に決めておいてください。受け取ってから配点を作ると、結論に合わせた配点になります。

配点の設計

評価軸配点採点の目安
費用の妥当性25点投稿1本単価とリーチ1,000単価の順位で機械的に配分します
候補の質と適合性25点実名提示の有無、商材との親和性、フォロワー属性の一致度で採点します
進行体制と実務対応15点担当者数、レスポンス速度、初稿確認の有無で採点します
契約条件とリスク対応15点補填条項、二次利用条件、修正上限の3点で採点します
レポートと効果測定10点取得指標の粒度と生データの受け渡し可否で採点します
実績と類似商材の経験10点同一カテゴリーでの実施件数と、開示できる事例の有無で採点します

費用と候補の質に50点を配分しているのは、この2軸が施策成果の大部分を決めるためです。自社の重点が違う場合は配点を変えて構いませんが、変えた理由を稟議資料に1行書いておくと、後日の振り返りで判断の質を検証できます。フォロワー属性の見方はインフルエンサーのフォロワー属性分析と一致率の見方で解説しています。

稟議に添える3枚

稟議に必要な資料は3枚で足ります。1枚目は12項目の比較表、2枚目は単価換算の表、3枚目は重み付き評価シートです。この3枚があれば、「なぜ最安値ではないのか」という質問に対して、単価では最安であること、あるいは条件差が金額差を上回ることを数字で示せます。

逆に、提案資料のスライドをそのまま添付する進め方は避けてください。各社の資料は自社の強みを見せる構成になっているため、横に並べても比較になりません。決裁者が見るのは、自社の基準で作り直した3枚です。

契約書へ引き継ぐ項目

発注先が決まったら、比較表で確認した条件を契約書と発注書に転記します。特に、二次利用の4条件、修正回数の上限、補填条項、レポートの提出時期の4点は、見積書の備考欄に書かれたまま契約書に移されないことがあります。見積書の条件は契約条件ではありませんので、必ず本文に落としてください。

転記の際は、比較表の該当セルと契約書の条項番号を対応させたメモを残しておくと、実施中に認識のずれが出たときに参照できます。担当者が異動しても条件が引き継がれる状態を作ることが、相見積もりを最後まで無駄にしないための最後の工程です。

発注前チェックリスト14項目

発注を確定させる前に、次の14項目を確認してください。ひとつでも空欄が残っている場合は、その部分が実施中に追加費用か認識ずれとして表面化します。

依頼と条件に関する5項目

  1. 全社に同じ依頼文を送り、口頭の追加説明を特定の1社にだけ足していないこと
  2. 起用人数とフォロワー規模の帯が、全社の見積もりで一致していること
  3. 投稿本数の数え方、特にストーリーズの数え方が統一されていること
  4. 実施時期と投稿期間が全社共通で、繁忙期の割増条件が明記されていること
  5. 提案された候補が実名または属性データ付きで提示され、差し替え可否が分かること

金額と手数料に関する5項目

  1. 手数料の料率だけでなく、料率を掛ける基数が全社の見積書に明記されていること
  2. 投稿1本あたり単価とリーチ1,000あたり単価に換算した表が作られていること
  3. 想定リーチの算定根拠を各社に確認し、実績ベースか係数ベースかが分かること
  4. 実費に上限額と精算方法が設定され、上限のない項目が残っていないこと
  5. 税抜と税込の表記が全社でそろい、源泉徴収の扱いが確認されていること

契約と運用に関する4項目

  1. 二次利用の媒体・期間・地域・改変可否の4条件が文章で明記されていること
  2. 初稿確認の有無、修正上限、超過時の費用が数字で書かれていること
  3. 未投稿・遅延時の補填方法と対応期限が条項として存在すること
  4. 見積もりの有効期限から逆算して、社内の決裁日程が確保されていること

Bloomでの見積もりの組み立て方

Bloomでは、審査制インフルエンサー30,000人の中から条件に合う候補を絞り込み、誰にいくら支払うのかを人単位で確認しながら概算を組み立てられます。相見積もりの比較対象としてプラットフォーム型を1枚入れておくと、代理店型の見積もりに含まれる手数料の水準を判断する基準ができます。初期費用0円で相場の1/3の水準から始められますので、まずは候補リストと概算の作成から試してみてください。

相見積もりは、安い1社を見つけるための作業ではありません。同じ条件で買ったときにいくらになるのかを可視化し、その差額に見合う価値があるかどうかを社内で説明できる状態にするための作業です。依頼文の8項目、比較の12項目、単価換算、評価シートという順番で進めれば、担当者の経験値に依存しない判断ができます。なお、本記事に記載した金額の目安と法令に関する記述は、いずれも2026年9月時点で公開されている一般的な情報にもとづく整理であり、実際の条件は案件と事業者によって変わります。

本メディアは、審査制インフルエンサー30,000人のマッチングプラットフォーム『Bloom』(株式会社ハーマンドット)が運営しています。