インフルエンサーに投稿してもらったものの、社内で成果を聞かれるとリーチ数とエンゲージメント率しか出せない、という状態に心当たりがある方は多いと思います。インフルエンサー施策はその場で買う人を増やす以上に、知って、好きになって、次に買うときに思い出す人を増やす施策ですので、売上の即時的な増減だけを見ていると効果を過小評価してしまいます。この見えない部分を数字にする手段がブランドリフト調査です。この記事では、接触群と非接触群の作り方、そのまま流用できる設問文、必要サンプル数と有意差の判定、2026年9月時点の費用相場、そして数万円規模から実施するセルフ型調査の進め方までを、実務の順番どおりにまとめました。

この記事の要点

  • ブランドリフト調査とは、施策に接触した人と接触していない人に同じ設問を配り、認知度・好意度・購買意向の回答率の差から心理面の変化を測る調査です。前後比較ではなく同時点の2群比較である点が要です。
  • 測る指標は広告想起・ブランド認知・好意度・購買意向・ブランドイメージの5つが標準で、実務ではこのうち1〜3つに絞ります。絞らないとサンプル数が足りず、どの指標も有意差が出ません。
  • 媒体標準のブランドリフト調査は2026年9月時点でYouTubeが1問15,000米ドルから、Metaが800万円規模からで、通常のインフルエンサー施策の予算では条件を満たしません。セルフ型アンケートツールで各群400サンプルを取る方法が現実解です。
  • サンプル数は各群300〜500が実務上の下限です。1〜2ポイントの小さなリフトを検出したい場合は各群2,000前後が必要になりますので、狙うリフト幅から逆算してください。
  • 設問は必ず投稿前に確定させ、投稿日と実査開始日を同期させます。投稿後に設問を足すと接触群の記憶が薄れ、リフトが検出できなくなります。

インフルエンサー施策でブランドリフト調査が必要になる理由

インフルエンサー施策が生む価値の大半が、売上として即座には現れない態度の変化にあるからです。投稿を見てその場で購入する人は全体のごく一部で、多くの人は「そういう商品があるのか」と記憶に残したうえで、数週間後や数か月後の購入検討のタイミングで思い出します。この遅れて効く部分を計測しないままだと、施策の成果はリーチ数とエンゲージメント率だけになり、社内では「話題にはなったが売上は動かなかった」という結論に落ち着いてしまいます。ブランドリフト調査は、この計測から漏れている領域を数字に置き換えるための手段です。

ブランドリフト調査の定義

ブランドリフト調査とは、施策に接触した人と接触していない人に同じ設問のアンケートを配り、ブランド認知度・好意度・購買意向などの回答率の差から、その施策が生んだ心理面の変化を測る調査です。もともとはテレビCMやYouTube広告のように、クリックやコンバージョンでは効果を測りにくい認知施策のために使われてきた手法で、これをインフルエンサー施策に応用した形になります。接触した群と接触していない群を比べるという設計は、医薬品の効果検証で使われるランダム化比較試験の考え方をそのまま持ち込んだものです。

ここで押さえておきたいのは、施策の前後で自社の数字が上がったかどうかを見るのではなく、同じ時期の接触者と非接触者を比べる点にあります。前後比較では季節要因や同時期に走っている他の広告の影響が混ざりますが、同時点の2群比較であれば、その差分をインフルエンサー施策の寄与として説明しやすくなります。稟議の場で「他の施策の効果ではないのか」と問われたときに、設計そのもので反論できるのが最大の利点です。

効果測定の3つの層

インフルエンサー施策の効果測定は、露出の層・行動の層・態度の層の3階層で考えると整理できます。ブランドリフト調査が担当するのは最後の態度の層で、ここだけは計測タグでも固有クーポンでも取得できません。逆に言えば、上の2層を先に整備してからでないと、調査だけを単独で実施しても施策全体の説明にはなりません。

代表指標主な測定手段わかること
露出の層インプレッション・リーチ・視聴完了率各SNSのインサイト画面何人に届いたか
行動の層クリック・保存・サイト流入・購入UTMパラメータ・固有クーポン・GA4何人が動いたか
態度の層広告想起・認知度・好意度・購買意向アンケート(ブランドリフト調査)見た人の気持ちがどう変わったか

上2層の測り方はインフルエンサー施策の効果測定の方法と計測ツールで解説していますので、計測タグやクーポンの設計がまだの場合は先にそちらを整えてください。3層がそろってはじめて、リーチから態度変容までの一本の線として報告できるようになります。

売上直結型の施策との使い分け

ブランドリフト調査は、すべてのインフルエンサー施策に必要なわけではありません。既に指名検索が十分にあり、投稿から購入までの導線が短い商材であれば、UTMと固有クーポンの計測だけで施策の良し悪しは判断できます。調査に予算を割く価値が高いのは、認知獲得を目的にした施策、検討期間が長い高単価商材、そして施策の継続可否を社内で判断しなければならない場面です。

目的が獲得寄りなのか認知寄りなのかで、そもそも見るべき指標が変わります。目的別のKPIの立て方はインフルエンサー施策のKPI設計とテンプレートにまとめていますので、調査の設計に入る前に自社施策の目的を1つに絞っておいてください。

調査で測る指標と優先順位の付け方

測る指標は広告想起・ブランド認知・好意度・購買意向・ブランドイメージの5つが標準です。媒体各社が提供する調査でも、調査会社に委託する場合でも、この5つを軸に組み立てるのが一般的で、インフルエンサー施策でも同じ枠組みが使えます。ただし5つ全部を主指標に置くと後述するサンプル数の問題で共倒れになりますので、実務では1つから3つに絞ります。

標準となる5つの指標

指標測っているもの設問のイメージ向いている施策
広告想起投稿を見た記憶が残っているかこの1か月にこの商品の紹介投稿を見た記憶がありますかすべての施策(接触判定にも使います)
ブランド認知ブランド名を知っているか次のうち知っているブランドをすべて選んでください新商品・立ち上げ期の商材
好意度好ましいと感じているかこのブランドにどの程度好感を持ちましたかブランドイメージの刷新
購買意向次に買う候補に入っているか次に購入する機会があれば、このブランドを検討しますか売上への接続を示したい施策
ブランドイメージどんな印象を持たれているかこのブランドに当てはまる印象をすべて選んでください訴求メッセージの浸透確認

この5指標はファネルの上から下へ順に並んでおり、上にある指標ほどリフトが出やすく、下にある指標ほど動きにくいという性質があります。1回のインフルエンサー施策で購買意向まで大きく動かすのは簡単ではありませんので、はじめて実施する場合は広告想起とブランド認知を主指標に置くのが無難です。

絶対リフトと相対リフトの読み分け

調査結果は絶対リフトと相対リフトの2つの数字で表現します。絶対リフトは、接触群の肯定率から非接触群の肯定率を引いた差のことです。相対リフトは、その絶対リフトを非接触群の肯定率で割って100を掛けた比率を指します。たとえば購買意向を持つ人が接触群で30パーセント、非接触群で20パーセントだった場合、絶対リフトは10ポイント、相対リフトは50パーセントになります。

社内報告では相対リフトのほうが見栄えのする数字になりますが、判断材料としては絶対リフトを主に使ってください。非接触群の肯定率が低い商材ほど相対リフトは大きく出ますので、認知がほとんどない立ち上げ期の商材だと相対リフトが数百パーセントに達することがあり、施策の実力を過大に見せてしまいます。

指標を1〜3個に絞る理由

指標を絞る理由は、必要サンプル数が指標の数だけ増えるからです。媒体標準の調査でも設問数の上限は3問前後に設定されており、これは統計的に意味のある差を検出できる回収数の限界を反映しています。5つの指標を欲張って並べると、どの指標も検出力が足りず、すべて「有意差なし」という結果になりかねません。

指標を絞るときの判断軸

施策の目的が認知獲得なら広告想起とブランド認知の2つ、ブランドの再定義なら好意度とブランドイメージの2つ、売上への接続を示したいなら購買意向の1つに絞ってください。迷った場合は、その調査結果を誰にどう見せるのかを先に決めると自然に決まります。稟議で継続可否を判断してもらうのであれば、決裁者が納得する指標が1つあれば足ります。資料への落とし込み方はインフルエンサーマーケティングの稟議を通す提案資料の作り方を参考にしてください。

接触群と非接触群の作り方

ブランドリフト調査の精度は、設問の出来ではなく群の作り方でほぼ決まります。媒体が提供する標準ツールでは配信システムが自動的に対象者をランダムな2群へ振り分けますが、インフルエンサー施策ではその仕組みを借りられませんので、自前で近似する必要があります。ここを雑に済ませると、両群の属性が最初からずれてしまい、出てきた差が施策の効果なのか属性の差なのか説明できなくなります。

媒体標準のランダム化比較方式

YouTubeやMetaが提供するブランドリフト調査では、広告の配信対象になったユーザーを配信システムが無作為に2つに分け、片方には広告を配信し、もう片方には配信を留保します。その後、両群に同じアンケートを表示して回答率の差を取ります。無作為に分けているため両群の属性は統計的に等しくなり、差分をそのまま広告効果として解釈できます。これが最も精度の高いやり方です。

ただしこの方式は、媒体側が広告在庫と配信ログを持っているからこそ成立します。インフルエンサーの投稿は媒体の広告システムを通っていないオーガニック投稿ですので、誰が見て誰が見ていないかを媒体が判別できません。ホワイトリスト広告のように投稿を広告配信に載せている場合を除き、この方式は使えないと考えてください。投稿を広告配信に載せる手法はホワイトリスト広告の仕組みと始め方を実務フローで解説で扱っています。

インフルエンサー施策で使える3つの近似手法

手法群の分け方長所注意点
フォロー有無で分ける起用したインフルエンサーをフォローしている人を接触群、していない人を非接触群にしますスクリーニングが1問で済み、回収効率が高くなりますフォロワーはもともと関心が高く、リフトが過大に出やすくなります
投稿の想起で分ける投稿画像を提示し、見た記憶があると答えた人を接触群にします実際の接触に最も近い分け方になります記憶違いによる誤回答が混じるため、ダミー画像での検証が必要です
投稿前後で分ける投稿前に配った調査の回答者を非接触群、投稿後に別サンプルへ配った調査の回答者を接触群にします設問がそのまま流用でき、設計が単純です期間がずれるため、他施策や季節要因の影響が混ざります

実務で最も使いやすいのは、2つ目の投稿の想起で分ける方法です。スクリーニング設問で実際の投稿のスクリーンショットを見せ、見た記憶があるかを尋ねます。このとき、実在しないダミーの投稿画像を1枚混ぜておき、ダミーにも「見た」と答えた人を除外すると、記憶違いによる水増しをかなり抑えられます。この一手間だけで結果の信頼性が大きく変わりますので、必ず入れてください。

群のズレを潰す統制設問

どの手法を選んでも、接触群と非接触群の属性は完全には揃いません。そこで、性別・年代・居住地といった基本属性に加えて、カテゴリー関与度を尋ねる設問を必ず入れます。カテゴリー関与度とは、その商品カテゴリーにもともとどれくらい関心があるかを示す度合いのことです。関与度の高い人ほど接触群に偏りやすいため、ここを揃えないとリフトが実力以上に大きく出ます。

集計時には、両群の性年代とカテゴリー関与度の分布を比べ、大きくずれている場合はウェイトバック集計で分布を揃えてから差分を取ります。セルフ型のアンケートツールでも、性年代の割付を事前に指定できる機能がありますので、回収の段階で人数を揃えておくほうが集計は楽になります。フォロワー属性の見方はインフルエンサーのフォロワー属性分析と一致率の見方で解説していますので、割付の設計時に参考にしてください。

設問設計の型と言葉づかいのルール

設問はファネルの順に並べ、誘導的な形容詞を一切入れないのが原則です。順番はスクリーニング、想起、認知、理解、好意度、検討、購買意向、属性の流れが基本形になります。この順番には理由があり、先に好意度を尋ねてしまうと、その回答が後続の購買意向に引きずられて実態より高く出るからです。回答者の頭の中を汚さない順番で並べる、と覚えておいてください。

ファネル順に並べる基本構成

先頭に置くスクリーニング設問は、接触群と非接触群を切り分けるためのもので、ここで除外条件も同時に処理します。同業他社に勤めている人、既にヘビーユーザーになっている人は結果を歪めますので、必要に応じて除外してください。続く想起の設問で施策の記憶を確認し、そこから認知、好意度、購買意向へと降りていきます。属性設問は最後にまとめて置くのが定石で、冒頭に置くと離脱率が上がります。

ブランド名を提示するタイミングにも順番があります。前半では自社名を出さずに「知っているブランドをすべて選んでください」と複数ブランドを並べた選択肢で尋ね、後半で自社に絞った設問に入ります。先に自社名を強調してしまうと、その後の認知度の回答が実態より高く出てしまいます。

誘導を避ける表現の書き換え

項目避けたい書き方推奨する書き方
好意度印象的だったこの商品について、好感度を教えてくださいこのブランドにどの程度好感を持ちましたか
購買意向この画期的な商品を購入したいと思いますか次に購入する機会があれば、このブランドを検討しますか
認知人気の高いこのブランドを知っていますか次のうち、知っているブランドをすべて選んでください
想起この素敵な投稿を見ましたかこの1か月に、次の投稿を見た記憶がありますか
理解この商品の優れた特長は伝わりましたかこの投稿から、この商品についてどのような点が伝わりましたか

避けたい書き方に共通しているのは、設問文の中に肯定的な形容詞が紛れ込んでいる点です。印象的、画期的、人気の高い、素敵といった言葉は、それだけで回答を上振れさせます。設問文を書き終えたら、形容詞と副詞をすべて拾い出し、事実の説明に不要なものを削るという作業を必ず一度入れてください。

設問数と回答時間の上限

設問数は10問前後、回答時間は3分以内が現実的な上限です。設問を増やすほど1人あたりの費用が上がるだけでなく、後半の設問ほど雑に答えられるようになり、データの質が落ちます。特にセルフ型のアンケートツールは1問1人あたりの従量課金ですので、設問数はそのまま費用に跳ね返ります。

5段階評価の設問を並べるときは、選択肢の並び順と表現を全問で統一してください。ある設問だけ「とても好き」から始まり、別の設問だけ「まったく思わない」から始まる、といった不統一があると、回答者が選択肢を読み違えます。集計段階で肯定率を「上位2つの合計」と定義することが多いため、並び順の統一は集計精度にも直結します。

そのまま使えるアンケート票のひな形

10問・回答時間3分以内に収めた構成が、インフルエンサー施策のブランドリフト調査では最も扱いやすい形です。以下は、Instagramのフィード投稿とリールで1か月間の施策を実施した化粧品ブランドを想定したひな形で、商材名と選択肢を差し替えればそのまま使えます。設問文はすべて中立表現に整えてありますので、社内で回覧する際の叩き台としても利用してください。

全10問の構成

No種類設問文回答形式用途
Q1除外ご自身またはご家族に、化粧品の製造・販売・広告に関わるお仕事をされている方はいますか単一選択業界関係者を除外します
Q2関与度スキンケア商品を選ぶとき、どの程度こだわって選んでいますか5段階両群の関与度を揃えます
Q3接触判定この1か月に、次の投稿を見た記憶がありますか(実投稿3枚+ダミー1枚を提示)複数選択接触群と非接触群を分けます
Q4ブランド認知次のうち、名前を知っているブランドをすべて選んでください(競合4社+自社+ダミー1社)複数選択ブランド認知のリフトを測ります
Q5内容理解このブランドについて、当てはまると思う説明をすべて選んでください複数選択訴求メッセージの浸透を測ります
Q6好意度このブランドにどの程度好感を持っていますか5段階好意度のリフトを測ります
Q7検討スキンケア商品を次に買うとき、このブランドを候補に入れますか5段階検討段階への進行を測ります
Q8購買意向3か月以内にこのブランドの商品を購入する可能性はどの程度ありますか5段階購買意向のリフトを測ります
Q9自由回答このブランドに対して思い浮かぶ印象を自由にお書きください自由記述次回の訴求軸のヒントを得ます
Q10属性性別・年代・居住地・世帯年収単一選択集計軸と割付の確認に使います

この構成では、Q3で接触群と非接触群を分け、Q4からQ8までの5つの設問について両群の肯定率を比較します。主指標をQ4のブランド認知とQ6の好意度に絞り、残りは参考指標として扱う、という優先順位をあらかじめ決めておいてください。

スクリーニング設問の作り方

Q3のスクリーニング設問は、この調査全体の土台になります。実際に投稿された画像を3枚提示し、そこに実在しないダミー画像を1枚混ぜます。ダミーに「見た」と答えた回答者は、記憶違いか適当に答えている可能性が高いため、集計から除外します。除外率は経験的に5パーセントから15パーセント程度で、これを超える場合はダミー画像が実投稿と似すぎている可能性を疑ってください。

提示する画像は、ブランド名やロゴが判別できる状態にしておきます。ロゴが写っていない画像だけを見せると、投稿は覚えていてもブランドと結びついていない人まで接触群に入ってしまい、後続の設問との整合が取れません。動画投稿の場合は、最も再生数の多いサムネイルと本編の1シーンを静止画で提示するのが実務的です。

自由回答を1問だけ置く意味

自由回答は集計に手間がかかるため嫌われがちですが、1問だけは残す価値があります。数値だけを見ていると、リフトが出た理由も出なかった理由もわかりません。自由回答に並ぶ言葉を接触群と非接触群で見比べると、投稿で使われた表現がそのまま接触群の回答に現れているかどうかが一目でわかります。ここに投稿の言い回しが再現されていれば、メッセージが届いた証拠になります。

集計は、頻出する単語を数えて上位20語を両群で並べるだけで十分です。専用のテキスト分析ツールがなくても、表計算ソフトで単語を数える程度の作業で傾向はつかめます。次回の投稿ディレクションを組み立てる際の材料としても役立ちますので、費用対効果は高い1問です。

必要サンプル数と有意差の判定

接触群と非接触群それぞれ300から500サンプルが実務上の下限です。この水準は調査会社が推奨するラインとしても広く示されており、5ポイントから10ポイントの大きめのリフトを狙うクリエイティブであれば、各群300から500でも統計的な有意差が出やすくなります。逆に1ポイントから2ポイントの小さな差を検出したい場合は、各群2,000サンプル前後が必要になります。

狙うリフト幅から逆算する

検出したい絶対リフト各群の必要サンプル数の目安合計サンプル数想定される施策規模
10ポイント以上200〜300400〜600フォロワー10万人級を複数起用した大型施策
5〜10ポイント300〜500600〜1,000マイクロ層を10人前後起用した標準的な施策
3〜5ポイント800〜1,2001,600〜2,400ナノ層を多数起用した面の施策
1〜2ポイント2,000前後4,000前後媒体標準ツールを使う大規模広告施策

この表は、有意水準5パーセント・検出力80パーセントを前提にした一般的な目安として2026年9月時点の各調査会社の解説を整理したものです。参考として、Googleが公開しているYouTubeのブランドリフト調査では、1指標あたり約2,000件で標準的なリフト検出が可能とされ、最低予算条件では1指標4,100件が必要とされています。インフルエンサー施策の規模感なら、5ポイント以上のリフトを狙って各群400サンプル程度から始めるのが現実的な出発点です。

セグメント別に見るときの割り算

性年代別やカテゴリー関与度別に結果を割って見たい場合は、割った後のセル単位でサンプル数を考えます。全体で各群400サンプルを集めても、4つの年代に割れば1セル100サンプルになり、そこから接触と非接触に分かれると50サンプルずつしか残りません。この人数では偶然の揺らぎと施策の効果を区別できません。

実務では、割った後の各セルで最低100サンプル、できれば200サンプルを確保できる総数から逆算します。年代を4区分で見たいなら各群800サンプル、性別と年代のクロスまで見たいならさらに倍が必要という計算になります。予算が足りない場合は、見る軸をあらかじめ1つに絞り、その軸に必要な人数だけを厚く回収するほうが確実です。

有意差が出なかったときの切り分け

有意差が出なかったという結果が返ってきたときは、施策が無効だったと結論づける前に、5つの原因を順番に潰してください。順番を守ることが大切で、いきなりクリエイティブのせいにすると、次回も同じ結果を繰り返します。

リフトが検出されなかったときに疑う順番

  • サンプル数が足りていたかを確認します。各群300を下回っている場合、そもそも検出力が不足していますので、施策の評価は保留にします。
  • 接触群の切り分けが正しかったかを確認します。ダミー画像での除外を行っていない場合、非接触群に接触者が混ざり、差が薄まります。
  • ターゲティングがずれていなかったかを確認します。カテゴリー関与度の低い層にばかり届いていると、態度は動きません。
  • クリエイティブがブランド名を伝えていたかを確認します。投稿は見られていてもブランドが記憶されていないケースは珍しくありません。
  • 設問が測りたいものを測れていたかを確認します。誘導表現や選択肢の不統一があると、差が消えることがあります。

実施方法の選択肢と費用相場

2026年9月時点で、実施方法は媒体標準ツール・調査会社への委託・セルフ型アンケートツールの3つに分かれます。インフルエンサー施策の予算規模で現実的に選べるのは3つ目のセルフ型で、残り2つは媒体側の最低出稿金額や調査会社の最低受注金額が施策予算を大きく上回ります。まずは各方式の条件を並べて、自社の予算で届く選択肢を確認してください。

媒体標準ツールの実施条件

媒体最低出稿金額の目安設問数申込方法
YouTube・Google1問あたり15,000米ドル〜(2問30,000米ドル、3問60,000米ドル)1〜3問Googleの担当者経由でホワイトリスト申請が必要です
Meta(Instagram・Facebook)800万円規模〜(公式非公表・代理店の実感値)3問以内Metaのセールス担当経由で申し込みます
TikTok500万円〜媒体規定によりますTikTokのセールス担当経由で申し込みます
ABEMA200万円〜媒体規定によりますABEMAのセールス担当経由で申し込みます

金額はいずれも2026年9月時点で各広告代理店および調査会社が公開している解説記事に共通して示されている水準で、税抜の目安です。Metaは最低リーチ600万・週2回以上の接触頻度という条件を満たす必要があるとされており、この条件を満たす出稿量から逆算すると800万円規模になる、という理解が広く共有されています。YouTubeは配信期間10日間という条件も付きます。

これらはあくまで広告配信とセットの仕組みですので、インフルエンサーのオーガニック投稿だけを対象に実施することはできません。投稿を広告として配信するホワイトリスト広告に切り替え、なおかつ上記の出稿規模を確保できる場合に限って選択肢に入る、と考えてください。

調査会社への委託

マクロミルをはじめとする調査会社に委託する方式では、設問数の制限がなく、完全にカスタムした調査票を組めます。費用の相場は小規模で50万円から150万円、標準規模で150万円から500万円、大規模になると500万円以上とされています。企画設計から実査、集計、レポーティングまで一括で任せられるため、社内に調査の経験者がいない場合には安心感があります。

費用を見積もる際は、企画費・実査費・集計費・分析費・レポーティング費に分解した内訳を必ず出してもらってください。総額だけの見積もりでは、サンプル数を減らしたときにいくら下がるのかが判断できません。相見積もりを取る場合も、同じ設問数と同じサンプル数の条件を各社に揃えて提示するのが鉄則です。

セルフ型アンケートツールという現実解

インフルエンサー施策のブランドリフト調査で最も現実的なのが、セルフ型のアンケートツールを使う方式です。Freeasyのようなツールでは初期費用と月額費用が0円、1問1人あたり10円前後の従量課金で利用でき、最短で開始から数時間で回収が完了します。各群400サンプル・10問という設計であれば、単純計算で8万円前後という水準です。

方式費用の目安所要期間設問の自由度インフルエンサー施策との相性
媒体標準ツール200万〜800万円規模2〜4週間1〜3問に制限されます広告配信とセットのため単体では使えません
調査会社委託50万〜500万円3〜6週間制限なくカスタムできます年1回の大型施策の総括に向いています
セルフ型ツール5万〜20万円数日〜1週間自社で自由に設計します施策ごとに回せる唯一の現実解です

費用はいずれも2026年9月時点で各社が公開している料金体系をもとにした目安で、税抜です。セルフ型は安価な代わりに、設問設計・群の切り分け・集計・解釈をすべて自社で担う必要があります。最初の1回だけ調査会社に設計を依頼して型を作り、2回目以降はその調査票をセルフ型で回す、という組み合わせが費用と品質のバランスを取りやすい進め方です。

調査スケジュールと施策設計への組み込み

調査は施策の企画段階で設計を確定させ、投稿日に合わせて実査を開始します。投稿が終わってから「効果を測りたいので調査をしましょう」と言い出しても、接触群の記憶は日を追って薄れていきますし、非接触群の定義も後付けになります。企画書にブランドリフト調査の欄を作り、起用人数や投稿本数と同じ扱いで最初から決めておいてください。

企画段階で確定させる6項目

企画段階で決めておくべきことは、調査の目的、主指標、対象セグメント、必要サンプル数、設問ドラフト、実査のタイミングの6つです。このうち主指標と設問は、投稿開始後には変更できないものとして扱ってください。媒体標準の調査でも、配信開始後の指標変更は原則として認められていません。セルフ型で技術的に変更できる場合でも、途中で設問を変えたデータは接触群と非接触群で条件が揃わなくなります。

調査費用は施策予算の外側ではなく内側に組み込みます。総予算100万円の施策であれば、そのうち5万円から10万円を調査費に充てる、という配分にしておくと、稟議の段階で「効果検証込みの予算」として説明できます。予算配分の考え方は低予算で始めるインフルエンサーマーケティングの予算配分術も参考になります。

投稿日と実査日の同期

タイミングやること目安の期間
投稿の30日前目的と主指標を確定し、設問ドラフトを作成します3〜5営業日
投稿の14日前設問を社内で確定し、ツールへ登録します2〜3営業日
投稿の7日前事前調査を実施する場合はここで回収します1〜3日
投稿期間投稿を進行させ、実際の投稿画像を保存します2〜4週間
最終投稿の3〜14日後本調査を実施し、接触群と非接触群を回収します1〜3日
回収の1週間後集計・有意差判定・レポート作成を行います3〜5営業日

本調査の実施は、最終投稿から3日後から14日後の間に収めるのが目安です。早すぎると投稿を見ていない人がまだ多く残り、遅すぎると記憶が薄れて広告想起が落ちます。投稿を分散させている施策では、最終投稿を基準に日程を引いてください。投稿日の分散設計はPR投稿のタイミング設計と投稿日を分散させる考え方で解説しています。

事前と事後の2回計測にする場合

予算に余裕がある場合は、投稿前と投稿後の2回計測を組み合わせると解釈の幅が広がります。投稿前の調査で市場全体のベースラインを取っておけば、投稿後の非接触群の数値が妥当かどうかを検証できます。非接触群の数値が投稿前のベースラインから大きく動いている場合は、他の施策や外部要因が入り込んでいる可能性を疑えます。

ただし2回計測は費用がおよそ倍になりますので、毎回実施する必要はありません。年間で継続的にインフルエンサー施策を回す場合、期初に1回だけベースラインを取り、以降の施策では事後の2群比較だけを回すという運用が効率的です。継続起用を前提にした設計はインフルエンサーの継続起用と長期契約の設計・運用ガイドにまとめています。

結果の読み方と社内への共有

結果は絶対リフトを主指標、相対リフトを補助指標として読みます。報告資料では、指標ごとに接触群の肯定率・非接触群の肯定率・絶対リフト・有意差の有無を1行にまとめた表を先頭に置き、そのうえで解釈のコメントを添える構成が伝わりやすくなります。数字を並べただけの資料は決裁の場で判断材料になりませんので、必ず「だから次にどうするか」まで書いてください。

レポートの並べ方

報告資料の構成は、結論、指標別の結果表、セグメント別の内訳、自由回答の傾向、次回への提言、という順番が扱いやすい形です。冒頭の結論では、主指標のリフト幅と有意差の有無を1文で言い切ります。決裁者が読むのは冒頭の数行だけ、という前提で書くと自然にこの順番になります。

結果表には必ず各群のサンプル数を併記してください。サンプル数の記載がない数値は、社内で疑義が出たときに反論できません。有意差の判定結果も、有意差ありまたは有意差なしという二値ではなく、有意水準5パーセントで判定した旨を注記として残しておくと後から検証できます。

セグメント別の読み解き

全体でリフトが出ていなくても、特定のセグメントだけで大きく動いていることがあります。よくあるのは、起用したインフルエンサーの主要フォロワー層と同じ性年代でだけリフトが出ているケースです。この場合、施策そのものは機能しており、届けたい層とインフルエンサーのフォロワー層がずれていたという結論になります。

逆に、狙っていなかった層でリフトが出ている場合は、新しい顧客層の発見という読み方ができます。自由回答に並ぶ言葉を確認し、その層が何に反応したのかを拾えれば、次回の起用条件やクリエイティブの方向性に直結します。ROIとの接続の仕方はインフルエンサーマーケティングのROIと費用対効果の測り方を参照してください。

次回予算への橋渡し

ブランドリフト調査の結果を次回予算につなげるには、リフト幅を人数に換算するのが効果的です。施策のリーチが50万人で、購買意向の絶対リフトが5ポイントだった場合、購買意向を持った人が2万5,000人増えた計算になります。この人数に想定転換率と平均購入単価を掛ければ、見込みの売上インパクトを金額で示せます。

この換算は仮定を含みますので、資料には必ず前提条件を明記してください。前提を明示したうえでの試算であれば、決裁の場でも建設的な議論になります。数字を出さずに「認知が広がりました」と報告するより、前提付きの試算を出すほうが次の予算は通りやすくなります。

よくある失敗と実施前チェックリスト

失敗の大半は設問の出来ではなく、群の作り方とサンプル数で起きています。設問設計に時間をかける前に、誰と誰を比べるのか、何人集めるのかを固めてください。ここが決まっていれば、設問は本記事のひな形を差し替えるだけで十分に機能します。

設計段階で起きる失敗

最も多いのは、投稿が終わってから調査を思い立つケースです。この場合、接触群の記憶が薄れているうえに、実際の投稿画像の保存やインフルエンサーからの素材受領が間に合わず、スクリーニング設問が作れません。次に多いのが、指標を5つも6つも並べてサンプル数が足りなくなるケースで、結果としてどの指標も有意差なしという報告になります。

3つ目は、施策の目的と主指標がずれているケースです。獲得目的の施策で好意度を主指標に置いても、社内では評価されません。目的を1つに絞ってから指標を選ぶ、という順番を守ってください。目的設定でつまずきやすい点はインフルエンサーマーケティングの失敗例10パターンと回避策でも扱っています。

実査段階で起きる失敗

実査では、ダミー画像を入れずに接触群を作ってしまう失敗が目立ちます。ダミーがないと、記憶違いや適当な回答をした人がそのまま接触群に入り、リフトが実力より大きく出ます。もうひとつは、両群の性年代の割付を揃えないまま回収してしまう失敗で、集計段階でウェイトバックが必要になり、余計な作業と説明コストが発生します。

回収のタイミングを外す失敗も少なくありません。最終投稿から1か月以上あけてしまうと広告想起が大きく落ち、そのぶん接触群の判定精度も下がります。調査ツールへの登録を投稿期間中に済ませ、最終投稿の翌日には配信できる状態にしておくのが安全です。

解釈段階で起きる失敗

解釈では、相対リフトの大きさだけを取り上げて報告する失敗が起きがちです。非接触群の肯定率が5パーセントしかない状態で接触群が10パーセントなら、相対リフトは100パーセントですが、絶対リフトは5ポイントにすぎません。両方を併記し、絶対リフトを主に読むという運用を最初に決めておいてください。

有意差が出なかった結果を「効果がなかった」と即断するのも避けたい失敗です。サンプル数不足で検出できなかっただけの可能性が常にありますので、前述の5段階の切り分けを行ってから結論を出してください。検出できなかったという事実と、効果がなかったという事実は別物です。

実施前チェックリスト

投稿開始前に確認する10項目

  • 施策の目的を1つに絞り、それに対応する主指標を1〜3個に決めています。
  • 接触群と非接触群の分け方を決め、ダミー画像を用意しています。
  • 狙う絶対リフト幅から逆算して、各群のサンプル数を決めています。
  • セグメント別に見る軸を決め、割った後のセルで100サンプル以上を確保できる総数にしています。
  • 設問文から誘導的な形容詞を削り、5段階評価の並び順を全問で統一しています。
  • 設問数を10問前後、回答時間を3分以内に収めています。
  • 性年代の割付を事前に指定し、両群の分布を揃える設計にしています。
  • 実査の開始日を最終投稿から3〜14日後に設定し、カレンダーに入れています。
  • 調査費用を施策予算の内側に組み込み、稟議の対象に含めています。
  • 投稿画像の保存とインフルエンサーからの素材受領の段取りを決めています。

このチェックリストを投稿開始前に一度通しておけば、調査が失敗する原因のほとんどは事前に潰せます。特に上から4項目は、投稿が始まってからでは取り返しがつきませんので、企画書の承認と同じタイミングで確定させてください。施策全体の進行管理と合わせて運用したい場合はインフルエンサー20人を同時に動かす進行管理と抜け漏れ対策のチェック項目と統合すると管理が楽になります。

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